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2009,9,23 とりあえずボーズ倒した 
2009,9,22 ライバル登場!? 
2009,9,20 さぁポケモンを買おう!
2009,7,31 332話 「ゴーレムは魔王に進化した!」 ☆
2009,7,29 331話 「よっしゃ、ナイスコンビ!」
2009,7,28 330話 「うに魔女の復讐」

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332話 「ゴーレムは魔王に進化した!」  2009,7,31
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


 創世卵の聖域の端っこ。ゼロ階層と面している位置。既にウロボロスの暴走は止まり、平穏に静まっていた。
 呆然とアクシャカは立ち尽くす。見開いた目には、既に元に戻ったうに魔女がホワイトサタンと共にゴーレムと戦っている様子が映っていた。
 千里眼で顛末を知り、拳を震わせる。肩を震わせる。こみ上げてきた凄まじい怒りが、表情に滲み出て来る。
 アクシャカはアリスに一杯食わされた事を悟り、煮え滾る怒りで身を震わせた。
「うおのれ――――――ッ!!! このアクシャカ様を騙しおって! ブチ殺す、ブチ殺して引き裂いてやるぅぅッ!!」
 体のパースが歪むほどに慟哭し、大きく口を開け、血眼を見開く。そして凄まじい勢いで空を滑るようにすっ飛んでいく。
 凄まじい憎悪が漲り、深遠の闇が彼を包む。
 周りのものを腐食させながら、再び戦場へと向かっていった。


 雲の大地を揺るがして、灼熱の息吹が吹き荒れた。
 燃え盛る嵐が全てを薙ぎ払う。
「グオオオ――――ッ!!!」
 ゴーレムはいきり立って拳を振るい、ホワイトサタンの頬を殴りつけた。
 人間の体を覆ってしまうほどの巨大な拳が振り抜かれ、ホワイトサタンは一気に遠くまで吹っ飛ばされた。何度もバウンドして噴火を噴き上げる。
 その隙を突くように、灼熱の息吹の中からうに魔女が抜け出す。
「うにあああああああっ!!」
 攻撃後の硬直か、ゴーレムはそれを防げないと悟り表情を強張らせる。
 純白の鈴は煌きを撒き散らし、顔面に光の波紋を放つ。音色が風に流れて広く響き渡っていく。
「グォアアアアアアア――――――――――ッ!!!!!」
 洋蘭に絡み付かれ、絶叫を上げた。花びらと共に花火の様に魂の流星を撒き散らす。
 うに魔女はまだ険しい表情で羽を羽ばたかせながら、ゴーレムの様子を警戒。
「クノォ――――!!!」
 すぐさま反撃をしようと、張り手が突き出される。うに魔女を突き飛ばさんばかりの勢い。
「そうはさせぬッ!!」
 急下降してきたホワイトサタンの飛び蹴りがゴーレムの腕を弾き飛ばす。張り手の軌道が逸れ、大地を穿つ。
 クレーターを形成するように大地の破片を巻き上げた。
「今だっ!!」
 うに魔女は好機と見開く。鈴を振りながら、ゴーレムの脇を通り過ぎた。
 光の波紋と音色と共に、洋蘭の花びらが派手に舞い散った。ゴーレムは声にならない苦悶の絶叫を上げる。
「うおおおおッ!!!」「うにあ――――ッ!!」
 再び、うに魔女はホワイトサタンと共にゴーレムへと襲い掛かる。

「へぇ……、急造コンビなのにコンビネーションだけは上出来ね」
 丘でブラックキャットは悠然と立つ。遥かな地平線を眺めながら笑む。
 猫の目を凝らし、瞳は変貌を遂げていく。最後まで隅々と見極めんばかりの凝視で見守る。

「はあぁっ!! プレヤデス恒星群!」
 ホワイトサタンは腕を踊らせ、ゴーレムの周囲に青白く燃え盛る太陽を作り出す。溶岩に覆われたような異質の球体。青い息吹が表面で踊り狂う。
 次々と蒼い太陽はゴーレムへ飛び込んでいった。
 爆音が轟き、青い息吹と共に熱風が吹き荒れる。響き渡る衝撃が肌にも伝わる。
(いいか? タイミングは一瞬だけだぞ。この技を出したら"天照大神(アマテラス)"の発動合図だ。この技を食らえばゴーレムは戦力のほとんどを失うだろう。そこを……お前が突けッ!)
 事前に耳打ちして言ってきた彼の言葉が思い返された。
 見上げれば、原寸太陽が誕生するように薄っすらと白んだ火炎の渦が上空で練り込まれていくのが見えた。
 かつて自分たちを苦しませてくれた大技が味方になるとは、彼女自身も思いもよらなかった。
(……こうなったら絶対に外させる訳には行かない!)
 これまで犠牲になってしまった人々が脳裏に浮かび、身構えたうに魔女は表情を険しくする。
 大事なのはこの憎しみの連鎖を確実に阻止する事。ここで勝たなければ、憎しみの連鎖はずっと続く事になる。
「キ、貴様ラ、大人シク罰ヲ受ケロォォォォ――――――ッ!!!!」
 青い太陽の爆撃を受けながらもゴーレムは恐ろしい形相でうに魔女達を睨みつける。
 構わず開いた大きな口から無数の缶をばら撒く。凄まじい速度で撒き散らされた缶は着弾すると、マグマの噴出のように大地を焼いた。
 こんもり膨れ上がったマグマの噴出が幾重も噴き上げ、地平線の彼方にまで溶岩の海が大地を覆った。
 未だに次々と噴き上げるマグマの火柱。
「くっ」
 ホワイトサタンはうに魔女を胸元に抱きかかえて上空へ舞った。同時に掌をゴーレムに向かって振り下ろす。
 周囲に浮いていた青い太陽群は一斉に殺到した。
 直撃と共に、眩いほどの白光が膨らみ、生まれた爆発球はビッグバン後の宇宙のように急激に膨らんでいった。
 灼熱の余波がホワイトサタンとうに魔女を突き抜けていく。何故か熱く感じなかった。うに魔女はぱちくりと瞬く。
 尋常じゃないほどの超高温を爆ぜた破壊力が炸裂しているのだ。
 想像以上に響き渡る轟音は、数千キロも離れていても鼓膜を突き抜けて脳を破裂させるほどだろう。そして超高熱は骨をも溶かし、跡形もなく消し去るほどだろう。更に目を突き刺すほどの鋭い光は確実に失神させ、目玉が液体を撒き散らして砕け散るだろう。
 不思議とそんな事はなかった。
 ホワイトサタンが守ってくれている事にうに魔女は表情を緩めた。
「行くぞ、とどめの天照大神!」
 上空に掲げた掌。ホワイトサタンはうに魔女を片手で胸元に引き寄せながら、見下ろす。
 出来上がった原寸太陽は威光を放ちながら眩き光で全てを照らし、灼熱の息吹が獰猛に荒れ狂う。見上げたうに魔女は呆然とした。
 振り下ろされる掌と共に、原寸太陽は下降を始めた。
 ゴーレムは見上げ、見開く。眩い光が彼女を照らす。迫り来る原寸太陽は隕石をばら撒いた。
「グオッ! ガァアアァッ!! ゴグオォォ!」
 次々と隕石が容赦なくゴーレムに被弾していく。連鎖する爆発が徐々に巨躯を覆っていく。
 腕を振り回してもがきながら、いくつかの隕石を弾くが、降り注ぐ隕石は絶えない。
「グォノオオオオオオオオオ――――――――――――――!!!!!!!」
 そしてやがて、原寸太陽はゴーレムを押し潰していった。
 原寸太陽が弾け、爆発の嵐に吹き荒れ、全てを覆い尽くしていった。白光の世界へとホワイトサタンとうに魔女を導いた。
 創世卵の聖域の球体を象るガス惑星のような形が楕円形に歪みながら、不恰好に膨らんでいく。
 所々、噴火が噴く。楕円形は徐々に曲がりくねる様に形を変えた。
 最後に空中分解し損なったように境界線が潰れた歪んだ球体に変わり果てる。まるで潰れたトマトのようだった。

 爆発の余韻が立ち込め、渦を巻く雲に囲まれた空の世界のような場所でホワイトサタンとうに魔女は漂っていた。
「よし、今だ! 行けッ!! 奴は――――――」
 しかしうに魔女は真っ青な顔で震えていた。もう一度爆発の余韻を眺める。
 これまでにないほどの憎悪。そして復讐を遂げんとするばかりの殺気を孕んだ威圧がその場を席巻した。
 複数の精神体を重ねた不安定な威圧とは程遠いものだった。
 影が見えた。先ほどのゴーレムと同じ大きさだが、微妙に形が違う事に気付いた。
「復讐を果たすまで、ワタシは力尽きる訳には行かないダワ――――!!!」
 掴み掛かるように両手を翳した状態で余韻から抜け出す。暗めの紫に染まった蛸の悪魔のような異形の姿。
 鬼のような形相の豚の顔。額に小さな黒い角。小太りの上半身。下半身は明らかに十本以上あると思われる蛸足が蠢く。
 前までの黄金に染まったロボットのような面影はなかった。
 遥か上空でアクシャカは笑みに歪む。少しずつ怒りが収まっていくのを感じた。
「ウッフフフ。我が『曼荼羅其の一・天絶陣』を発動させてもらったよ。これはね、数多くの魔王を輩出した禁断の秘術さ。
 不思議に思わなかったのかね? 長い歴史の中でも後にも先にも存在しない唯一の個体としての生物の存在を!
 これによってゴーレムは一体の生命体として生まれ変わったのさ。レベルが12万程度だが、溜飲を下げるには充分だろう」
 アクシャカが遥か上から笑みを見せていた。
 しかし、それを狙うようにすっ飛んでくる人影にアクシャカは気付く。銀の剣を構えたアリスに気付き青ざめる。
「戦場で“それ”を使ったら無防備になっちゃうじゃない? カッカしてノコノコ出てきたお馬鹿さぁん」
 振り下ろされた銀の剣の軌跡はアクシャカの腹を通り過ぎた。
「ぐあ……、き、貴様……」
 口から血を零し身を屈める。アリスは見下すように笑む。掌には赤く輝くうにの宝石。アクシャカは見開く。
 アリスは浮かした賢者のうにを放る。
「ぐぎゃああああああああああああッ!!」
 うにの形をした爆発がアクシャカを呑み込む。轟音と共に余波が周囲に撒き散らされた。
 アクシャカだった神仏像の破片が散らばる。それは虚空へと崩れ落ちていく。
 アリスはうに魔女へ向き直り、真剣な表情で見つめる。
「そろそろ頃合かしらねぇ?」
 艶かしく掌が踊る。

 そんな戦いがあったとも気付かず、絶望的に落胆するうに魔女。切羽詰るホワイトサタン。
「そ、そんな……! この状態じゃ、もう開闢で魂を解放する手が……」
 もはや魔獣と化した風貌のファビオンゴーレム。豚の歯軋りする口から涎が零れ、白い吐息が篭れ出る。
「グオオオオオオオオ!!!!」
 新たな魔王として降臨したかのように、悪魔の形相のそれは超魔力を解き放ち無慈悲な破壊行為を存分に行った。
 炸裂する大爆発の連鎖が、雲の世界を吹き飛ばす勢いで広がっていく。
「きゃああッ!!!」
 衝撃波の波に浚われ、吹き飛ばされるうに魔女とホワイトサタン。
 限界を超えようとしていた開闢の鈴はその影響で砕け散ってしまう。粉々に破片が散り、虚空へ融け消えた。
「開闢が……!」うに魔女は絶句。
 混沌に陥れられたかのように魔獣の咆哮と破壊の余波が蹂躙し、暴れ狂う。
 僅かに残った雲の大地。煙幕が立ち込め、屈み込むホワイトサタン。苦悶の表情を見せる。横渡るように寝転がるも立ち上がろうとするうに魔女。
 共に満身創痍。絶望的で苦い表情しか浮かべられない。荒い息が共に繰り返される。
 もはや手に負えない事態となってしまい、落胆する。
「ぐ!」
 ホワイトサタンは急に咳き込み、手で押さえる。うに魔女は絶句。彼の指の間から鮮血が零れるのが見えた。
「グガオォォオオォォォン!! アリスはどこだァァア!!!」
 探し回るように巨大な顔を振り回す魔獣。うに魔女は見つけられてしまうのも時間の問題だと悟る。
 もはや逃げられる力も残っていない。塞がって行く活路。どう考えても八方塞しか見出せない。
「もう……ダメよ……!」
 疲れたような表情でうに魔女は苦しそうに荒い息をついていた。

「ふふ、うに魔女って見てて面白い“うに系譜”だわ……」
 ブラックキャットは妖しげに笑む。何処か満足気だ。
 その猫の目のような双眸の瞳には、うに魔女とホワイトサタンが魔獣と化したファビオンゴーレムと対峙している光景が映る。
「グオオオォォォ!!!!」
 仇を見つけたのか見開き、復讐に執着し怒り狂う魔獣。その咆哮だけで周りの大地が隆起し、破片が舞う。
 うに魔女は息を切らし、傍で屈みながら呻くホワイトサタンを一瞥。共に戦える力はないと、彼女は察する。
(彼は敵だけど……、ここまで命懸けで守ってくれた。だから彼だけでも守りきって見せる!)
 意を決し、傷ついた体を奮い立たせて立ち上がる。迫ってくる魔獣を霞んだ双眸で見据える。
 純白の羽に朱が徐々に染まる。羽の葉脈に真紅が注ぎ込まれる。羽の付け根の中心から蓮のような蕾が膨らんでいく。
 その蕾は次第に満開になっていく。その中から光が篭れ出る。鍵の先っぽが顔を出す。
 神器を使う為に命は削られていく。うに魔女は苦しそうに呻き、胸に拳をあてがう。口元の端から血が伝う。
 覚悟を賭すべき双眸をカッと見開く。
「御開帳! 運命の鍵!!!」


あとがき

 長くなった。(´д`)
 一、二話で終わるかと思いますー。
 小説での戦闘描写について、漫画で描ければ分かりやすいのになーと思う今日この頃です。
 下手に語彙多くないんで、ワンパターンなのが続く始末。
 規模を想像するのって、私の未熟な文章表現では難しいっスねw(´д`)

ドラクエ9 進んでますーw 2009,7,30
 そう言えば、何処まで「ドラクエ9」を進めたか書いてなかったなー。(汗

 と言う訳でスナップショットを入れてみましたーw
 やっている人なら、何処だかわかるっしょw

 とある遊牧民で、臆病な息子をどうにかして欲しいと長老に頼まれました。
 んで、側にいた怪しい魔女? の正体が気になる所ですよ。

 現在はこの装備が出来る状態だね。

 見栄えを良くする為に、撮影用にちょこっと着せ替えw (大した変化はないかも?
 どんな装備アイテムか、当ててみる? (*^ー^*)
 一番左からフェルト。左から二番目はヴィーゼ。右から二番目はフィー。一番右はノルディス。
 左から三人は絶対に外せない主力メンバーっすw
 ただ、スキルについては好きな方へポイントを注ぎ込んだので、メタル対策スキルを得るまで遠回りしそう。(汗

 ドラクエ9プレイ感想♪
 絶妙なバランスで敵が強いから、程よい緊迫感があっていいですw
 特に毒のボスの時はいやらしー攻撃をしてきたので、苦戦しちゃったー。
 一回全滅しますた。ふう……。(´д`;
 更に言うなれば、石の町でも苦い思い出が。
 MPとか切れた頃に辿り着いたので、急に現れた石像のボスに全滅させられた。あれはないって……。orz

 海を航海出来るようになった頃、色んな所へ寄って行く内に“雲の大王”とかぶっちゃけ手強い雑魚とか現れて、冷や汗ものでしたw
 錬金に使う材料アイテム採集の為に、寄り道する事が多いかな?
 これじゃアトリエゲーまんまw(^_^;
 行く順番によってはボスが弱く感じてしまう事もあるけど、それだけ自由度がそこそこあるって事かな?
 未だダーマ神殿は開業していない様子……。(−_−;
 って言うか、大神官とやらはいい歳こいてプチ家出してんのかーw
 もしかしたら意外と若い人かも知れないけどね。


331話 「よっしゃ、ナイスコンビ!」  2009,7,29
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


 創世界を漂う箱舟が揺れる。振動が船内を通り、ホワイトサタンのいる広間にも及んだ。
 モニターにはゴーレムに対してうに魔女がたった一人で立ち向かっているのが映っていた。
 その優劣が嫌と言うほど見えていた。満身創痍のうに魔女が押されている。そして訪れる結果が容易に想像できた。
 もどかしい想いでホワイトサタンは表情を歪ませ、モニターに食い入る。
 控える天使精鋭隊とホーディアは彼の様子を眺めていた。
 居ても至ってられなくなり、思わず腰を上げた。
「何や! まさか、神人類を束ねるトップであるホワイトサタン様とあろうものが小娘如きを助けようなどと思ってへんなぁ?」
 冷めた目で見やられ、ホワイトサタンは硬直。表情を強張らせた。
 控えていた天使精鋭隊の一人であるタージュ・ビスは激昂するように肩を震わせる。
「はよう座れや。あんさんはトップとして威厳を示さなければならぬ身。彼女を拉致して監禁する事こそすれ、助ける義理はあらへんのや! もうちっとすれば捕まえやすくなるがな」
 冷たい物言いでホワイトサタンの前に出る。引っ込めと言わんばかりに睨みを利かせながら歩み寄る。
 それに対し、ホワイトサタンは俯く。
 脳裏には大会でうに魔女を立ち上がらせようと罵倒していた自分が映る。それを思い返す度に、彼女とは顔を合わせ辛い心境に陥る。
 そもそも彼女とは敵同士だと言う事は分かっている。
 しかし、心のどこかで後悔の念が滞っていた。故に彼は心の中で揺れていた。
「ああ、そうだったな」
 引き下がろうとするホワイトサタンにホーディアは笑みを浮かべる。
 それに耐えかねたのか、タージュビスは頭に血を上らせていた。
「ふざけんな!! 後悔したままで終わらせる気かよ!!!!」
 大声で怒鳴られホワイトサタンは目を丸くして振り返る。
「タ、タージュ・ビス……!?」
 ホーディアはタージュ・ビスを睨み据える。
「男なら四の五言わず、さっさと助けにいっちまえ――――ッ!!」
 拳を振り上げ、ドデカイ声で檄を飛ばす。動揺するホワイトサタン。
「おい、精鋭隊如きが天に唾を吐いてええのか? あんな小娘の為にたぶらか……」
 突然、天使精鋭隊が揃ってホーディアの前に立ちはだかる。
 それぞれ得物で身構え、臨戦態勢に入っていた。真剣な視線にホーディアも言葉を止めた。
「お前ら……」
「ホワイトサタン様、無礼を承知ですが私もタージュ・ビスに意見に同意します。ご自身も普通の人間。難しいと思われますが、何ぞと自分の気持ちに素直になってくだされ」
 セーイギ・ビスは振り向いた半顔で笑みを見せる。
「拙者もお主の普通の人間としての幸せを作る事に賛成する故」
 ヂャッジー・ビスは気難しそうな硬い表情で頷く。
「トップとしては優秀なあなたも人間としては結構不器用なんだから……。どうかご自愛を」
 ジーヒ・ビスは手を組み合って祈るようにお辞儀する。
「大会での罵倒は後悔する事なのでしょうが、何もしなければ後悔の念は晴れないでしょう。ここは我等に任して行ってください」
 ラゥク・ビスは他人行儀のように丁寧な言葉で述べる。しかしその言葉には温もりが感じられた。
「……行け、迷ってる暇はない」
 寡黙なペナーリィ・ビスは呟く。
「マジ行かないと間に合わないんですけど? 恋愛はその場の行動で勝負よッ!!」
 ノリノリな調子で拳を振るアイ・ビス。
「舐めたらあかんなァ――!! ここは通さへんッ!!!」
 ホーディアは指を鳴らし、周囲にたくさんの機関銃が並ぶ。黒光りし、重々しい雰囲気を醸し出す。
 すると同時に、ホワイトサタンの後ろの方から大気を破裂させるほどの威圧が膨れた。突風が広間を突き抜ける。
 漲るオーラを噴き上げるタージュ・ビスに一同は振り向いた。
「トップとしてのプライドにこだわらねーで行っちまってくだせぇぇぇぇ!!!!」
 力んでいた状態のタージュ・ビスは更に気合を発した。溢れるオーラは爆発して全てを揺るがす。
「みんな、すまん!」
 ホワイトサタンは脇目も振らず、走り出した。
 ホーディアは振り向き「あっ」と咎める。しかし目の前にタージュ・ビスが現れる。
「わりーですが、させねーですせ! どっせやぁぁぁぁぁ!!!」
 太い腕を振り下ろし、拳が広間の床を穿った。伴った衝撃波が周囲の機関銃を巻き込む。破片を散らし、大穴に開かれてゆく。
 膨れていった凄まじい衝撃波が箱舟のあらゆる穴から噴き出す。
 そして真っ二つに割れ、端から分解するように崩壊していく。
 飛び去るホワイトサタンを、別の箱舟の窓からノッポ・ビスとチ・ビスの目に留まった。
「なんか轟音が聞こえたら、すっ飛ぶように飛んでっただ」「なんか急用っスかね?」
 更に後ろにいたクリコは俯きながら見送っていた。
「……行ってらっしゃい」
 事情を知っているかのように呟き、両手で組んで祈った。


 こうしてホワイトサタンはうに魔女の元へと辿り着いたのだった。
 灼熱の息吹が所々、雲の大地を貪っていた。煙幕が立ち込め、雲の破片が舞う。
 大穴があちこち空けられ、覗く下には遠くの雲の大地が見える。見上げれば渦を巻いて台風の目のように穴がぽっかり開いていた。
 纏わり付いた灼熱の炎を振り払い、ゴーレムは睨みを利かせる。
「ヌゥ……貴様ハッ、何者ダワ!?」
 山のようにでかいゴーレムに対し、ホワイトサタンは背後のうに魔女を護るように立ちはだかる。
「何のつもり!? まだ私だけでも戦えるから!!」
 うに魔女はホワイトサタンを無視し通り抜けようとする。思わず反射的に彼女の肩を掴む。
「離して! 敵であるあんたの手なんか借りないから!!」
 睨み付けられるように振り向かれる。ホワイトサタンは絶句。目の仇のように睨まれて胸が痛くなった。
 掴んでいる手を振り払い、走り出そうとしたが体勢を崩して転んでしまう。
「うっ……」
 よろめきながらも立ち上がる。息を切らし、苦しそうな表情を見せていた。
 "診た通り、彼女の肉体はおろか精神体も酷く傷ついています。このまま戦い続ければ確実に死に至るでしょう"
 彼女の様子にヴィーゼの言葉を思い出す。
 ホワイトサタンは唇を噛む。決意の眼差しを見せる。再びうに魔女の前に回りこむ。
「邪魔する気!」
「このまま放っておけん! 一人で戦えば確実に負ける。みすみす見殺しにして溜まるか!」
 いきり立つうに魔女に対抗するように、彼も意地を通してでも護る意志を見せた。
 意外な言葉に当の彼女も驚く。当惑する。彼が突然、味方すると言い出したのだ。しかも本気の言葉にも取れた。
「……大会で色々悪い事言ってすまない。だが、この戦いは僕が必ずお前を護りきってやる」
 思わずうに魔女も呆然とする。
「何ヲゴチャゴチャシテイルダワ――――ッ!!」
 ゴーレムは怒りに叫びを上げ、そのまま大きく口を開けた。爆音のように発砲音が轟く。
 巨大な弾丸はマッハの勢いで飛び、周りの大気を裂きながら大地を抉り散らす。
 ホワイトサタンは見開き、見据える。掌から火炎の渦が生まれ、球体を象っていく。
「灼熱の煉獄恒星!! うおおおおおおッ!!!!」
 橙色に輝く一回り大きい太陽を掌の上に浮かせ、掲げたまま突き出す。缶と太陽がぶつかり合い、閃光が篭れ出る。
 大爆発が轟音を伴って撒き散らされた。衝撃波が彼方の奥にまで広がり、高熱を伴った突風が激しく吹き荒れる。
「きゃああああ!!」
 ホワイトサタンの後ろに隠れていたうに魔女は腕で顔を庇う。風で髪の毛が揺れる。
「うに魔女を傷つけはさせん!!」
 気合を込めて吠えた。しこを踏むように踏み鳴らす。途端に大地が震えた。
 巨大な威圧が吹き荒れ、全てが軋み音を立てる。うに魔女もその激しさに驚く。威圧の凄まじさが全身を貫く。
 ゴーレムも戸惑い、そして睨み据える。
「ヌゥオオ! 邪魔立テスルノナラ、マトメテ叩キ潰スマデダ――――!!」
 怒りを滲ませ、背中のロケット砲を噴出させて突進。周りを抉り散らしながら、そのままの惰性で太い腕を振り下ろす。
「うおおおおおおっ!!!」
 受け止めるべき、ホワイトサタンは左足で大地を踏み締めながら右の掌を振り上げる。衝突音が大地を震わせ、天を轟かせた。
 衝突時にホワイトサタンの背後から衝撃波が流れて、大地の破片が抉れた。轟音を立てて破片は撒き散らされた。
 背後にいたうに魔女は無事。少し戸惑う。何故か、彼女から離れた位置から大地は抉れていた。何かに守られている様な気がした。
 気付けば、ホワイトサタンとうに魔女を囲むように、足元の雲の大地は円状にオーラで覆われている。
 ホワイトサタンの漲るオーラは大地をも包み、堅強な足場を作り出していた。
「ヌウウウウウウウ!!!」「うおおおおおおおおッ!!!」
 塔ほどの幅広い腕を、片手でしっかり受け止めていた。競り合うように互いは震えていた。
 うに魔女は呆然と二人の戦いを眺める。
「「かああああッ!!!」」
 地を揺るがして激しく吠え合った。ホワイトサタンの周りから数メートル離れた位置で衝撃波の波が走り、ドーナツ状の巨大なクレーターに広がる。
 更に直径数十キロの範囲で何重ものクレーターが形成され、大地を広く深く抉っていく。
(どこまでが本音かどうか知らないけど……。流石、神人類のトップなだけに凄いわ。完全に受け止めてる)
 ホワイトサタンは護る為に本気で全力を出しているのを、うに魔女はひしひしと感じ取る。
「ウヌガァァァ――――――――――!!!!」
 もう片方の腕を振り上げ、受け止められている自分の腕を杭打ちするように叩き込む。再び衝撃音が重々しく響く。
 更に重みを増し、ホワイトサタンの足元が更にめり込む。
「させるかぁ――――――――ッ!!」
 絶叫と共に、受け止めているゴーレムの腕を両手で押し上げる。超振動が大地を震わせ、衝撃波が暴れまわる。
 更新されるように巨大なクレーターが何重ものクレーターを削り去り、直径数百キロ範囲に広がっていった。舞った破片が塵と化していく。
「す……すご……!」
 二人の途方もないレベルの競り合いに、うに魔女は呆ける。
「今だ!! うに魔女、鈴を叩き込んでくれ!!」
 ホワイトサタンの声にうに魔女は気を取り直す。怒鳴るのでもなく、急かさせるのでもなく、まるで共に力を合わせた仲間が言いそうな声に聞き取れた。
 大会での罵倒が嘘のように思ってしまう。不思議と心に蟠っていた何かが消えたような気がした。
「うん!」
 うに魔女は頷いた。羽を羽ばたかせ、飛び立つ。素早くホワイトサタンとゴーレムの腕を通り過ぎた。
 軽やかに舞い、ゴーレムの頭上へ目指す。迫ってくる彼女の姿に見開くゴーレム。
「うに魔女、行け――――――ッ!!」
 堪えながらもホワイトサタンは激励。その声に応えるべき、うに魔女は決死の表情で特攻を仕掛ける。
「うにあ――――――ッ! 開闢の鈴ぅ――――ッ!!」
 顔面に向かって、渾身の一振り。間近で鳴った鈴は力強く音色を放った。希望に満ちた光の波紋が空の彼方にまで広がる。
 大地を震わせながら、花畑のように咲き乱れた洋蘭がゴーレムを包む。
「グゥアアアアアアアアア――――ッ!!!」
 ゴーレムは苦悶の絶叫を上げ、打ち上げ花火のように四方八方に数百数千もの魂の流星が弧を描いて散った。
 たたらを踏んでゴーレムは仰向けに倒れていく。重々しく大地が揺れた。
 うに魔女は宙返りしながら、ホワイトサタンの側に舞い降りた。
「よっしゃ! あと25万4000!!」
 ナイス、とばかりに互いに手を叩きあう。二人の笑顔が映えていた。

「おおっ、二人ともいい感じのコンビじゃん――!!」
 その様子をモニターで眺めていた天使精鋭隊は和気藹々に盛り上がっていた。
 それを遥か後ろから眺めるホーディアは表情を歪めていた。憎悪に歪みすぎて瞳まで楕円形に歪む勢いだった。
(うに魔女……、絶対に許さへん……!!!)
 軋むほどに歯と歯が擦り合って、きりきり音を立てた。


あとがき

 なんか深い悔恨を新たに残してしまう気がするけど、これは人としての感情を持ちうる限りは振り払えないものなんですー。
 それでも丸く収まるように話を考えなきゃいけないっす。仲直りできるかな?(−−;
 一応、頭には話の構想が浮かんでいますが、出すタイミングも分からんw
 そのまま一気に無理矢理解決して即効で終わるかも知れんけどねー。なんせラスボス寸前だしー。(−△−; スグオワリタイナー

 え、ホワイトサタンがラスボスだったと言う設定? えーっと、その場のノリでよろしくっw(^^;(ダメだ〜w

330話 「うに魔女の復讐」 2009,7,28
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


 ゴーレムことキムカネは対峙して来る一人の女性を見下ろし、少し戸惑う。
(既に守る者を失った。この私が吹き飛ばしたと言うにも拘らず、あの暴走を止めてしまった。しかもッ……)
 うに魔女の気丈な双眸は潤いがあって輝いている。
 絶望しているからでもなく、憎しみに駆られているからでもなかった。
 まるで先の将来を見据える"希望の目"のように見えてならなかったのだ。ゴーレムは表情を歪めた。
「何故、貴様ハ怒リヤ憎シミヲ持タナイ? 全テヲ奪ッタ、コノ私ヘ復讐ヲ遂ゲタクハナイノカッ!?」
 しかしうに魔女は毅然とした態度で見据える。
「うん。正直言ってアンタは憎い。怒りたいって思っている」
「ナラバ何故ッ!?」
 うに魔女は人差し指と親指を咥え、口笛を吹いた。突然、辺りの空が夜空に変わる。煌く星々が蠢き始める。
 ゴーレムはその風景に動揺しながら見渡す。
 星々は白いアゲハ蝶となって緩やかに舞い降りていく。
 数え切れないほどの蝶々がうに魔女の元へと収束されていく。
「アンタの息子から「憎しみから救ってください」って頼まれたから!」
 白いアゲハ群は球体状に固まっていく。羽を重ね合わせるように張り付き、凝縮されていく。数え切れないほどの蝶々がピンポン玉ぐらいに超圧縮されていくのだ。
 次第に純白の輝きが溢れていく。
「ソ、ソレダケノ理由デ自分ノ復讐ヲ諦メルノカ!! ソレデハ憎シミハ永遠ニ晴レマイ! 一生抱エルノダゾ」
「……精神が切れている事から、恐らくアリスも死んだ。さっきまで戦ってくれたダグラス達もウロボロスの暴走で巻き込まれた。みんなもアンタに吹き飛ばされた。アンタが言っていた通り、私は一生、心の傷を抱えてこれから生きていくのかもしれない」
 ゴーレムは絶句する。目の前のいる女性は自分が生き残った独りだって言う事を認識した上で、目の前の敵を救おうとする強い気持ちが窺えていたのだ。
「それでも苦しむあんた達を救う事が、私の復讐よッ!!」
 うに魔女の葛藤を孕んだ言葉に反応するように、純白の輝きは明るく彼女の顔を照らす。純白の賢者のうにが彼女の真上に浮く。
 圧縮されている超威力が感じ取れるように光の波紋が幾重に広がりながら威光を撒き散らしていた。
 ゴーレムは歯軋りする。
「……聖女ニナッタツモリデイルノカ? 貴様ハ自分デ特別ナ存在ダト思ッテイルヨウダナ。甚ダシイッ!」
 うに魔女は否定するように頭を振る。
「私だって普通の女性でもあり、人間なんだからね。ただ、相手を苦しませて死なせる復讐が私の性分に合わなかっただけよ!」
「ナッ!?」
 小さな鈴を取り出し、頭上へ放る。鈴と白いうには重なる。閃光を放ち、光飛礫を撒き散らしながら巨大な鈴が生まれた。それを彼女は手に取る。
 軽やかに回るように踊り舞う。鈴が軽い音色を発する。その度に洋蘭が浮かび上がっては掻き消えてしまう。
「覚悟しなさい!! アンタから復讐と言う牢獄から解き放ってあげるから――――!」
 白い羽を羽ばたかせ、地を蹴る。直向な彼女の表情が映える。これから先の未来を希望を持って歩むように。
「フザケルナァァッ!! 今一度、貴様ヲ完全ニ葬リ去ッテクレルワァァア!!」
 両腕を大仰に振り上げた。大噴火が大地から噴出し、ちっぽけなうに魔女をあっという間に呑み込んだ。
 大規模に噴火が広がり、熱気を撒き散らす。激しい地鳴りが響き、眩い光が辺りを照らす。凄まじい衝撃波が広がって周りの雲の大地を焼き尽くす。
「アーッハッハッハッハッハ!!! 口ダケノ小娘メッ、生意気言ウカラ悪イダワ――!!」
 灼熱の息吹が大地を蹂躙する最中、ゴーレムは哄笑を上げていた。

「……アイツ、アンタが本気で死んだと思っているわよ」
 引きつりながらアイゼルは振り向く。アリスは笑みの口を開く。
「ふふ、精神リンクを一時的に遮断できるって事を知らなかったようねぇ」
「まさか……」
 ジト目調にアリスに視線を見やる。
「信じ込むってさ、怖い事だよねぇー」
 遠い目でそっぽを向くアリスに、アイゼルは愕然と口を開けた。
(コイツ、自分自身の分身すら騙しやがってるし――――!)
「って、そんな場合じゃないの! まだゴーレムは40万も残っているのよ!! 太刀打ちできないじゃないッ!?」
 ゴーレムの頭上にはまだ40万相当の数値が浮かんでいる。
 アリスは笑む。
「確かにね、もし40万がゴーレム自身そのものの強さだったら敵わないわぁ。一瞬で吹き飛ぶでしょうね」
 怪訝そうにアイゼルは眉を潜ませた。
「色んな生命体の精神体を吸収して、強くなる性質が攻略の鍵?」
「良い所に目がつくわねぇ。レベルはね、精神体に刻まれていく"樹齢"の数なの」
「確か、木は年を取るごとに樹齢を重ねて太くなっていく……。あれと同じ?」
「ふふ、その通りよぉ。幾多の苦難を乗り越える事で精神体に刺激が与えられる。その時に一つずつ樹齢を増して、それに伴い精神体と肉体が強化されていくって事ねぇ」
「苦労してたものが、ある日からグンと楽になった感覚を感じる事もあるけど、これも自分の樹齢が増えたって事かしら?」
「ええ、それを踏まえた上で説明するわ。ゴーレムは取り込んだ他人の精神体を無理矢理結合して樹齢を上乗せしてるの。だから無制限に強くなれる。当然、取り込まれた魂は解放されたいと反発し合う為、ゴーレムは常に不安定状態になってんのよぉ」
 アイゼルはハッと気付く。
「射出される度にレベルが減少していくのはその為?」
「YES! その通りよぉ〜。その性質を利用して"開闢の鈴"で浄化しちゃったらどうなるかな?」

 灼熱の息吹が歪む。ゴーレムは見開く。一つの亀裂が縦に走り、モーゼの奇跡の様に噴火は真っ二つに割れた。
 その中から、開闢の鈴を上空へ振り上げたポーズでうに魔女は姿を見せた。息を切らしていた。
(賭けは成功だったようね……)
 脳裏にアリスが説明している場面が映し出される。
 "最悪な事態になった時の事だけど、万が一そうなったら開闢の鈴で戦いなさぁい。確証はつかないから、最初っから試そうなんて思わないでね。下手すると全滅するからぁ〜♪"
 当時、うに魔女は息を飲んだ。
 外界人も含め、多くの人の命運もかかっているから着実な方法を試していくのが常套手段だと察した。
「バ……バカナッ!? ソンナ事ガ出来タ奴ハコレマデイナカッタノニッ!?」
 大きく道を空けるように割れた噴火を目の辺りにし、ゴーレムに動揺が走る。
 噴火は割れた端から分解し、魂となって天空へと上昇していった。
 その隙を突いて、うに魔女はゴーレムの顔面上に舞い降りる。煌びやかに光の粒を撒き散らす鈴が振り下ろされる。
「うにあぁぁぁ――――ッ!! 心に響け! 開闢のグラヴィーベルッ!!」
 気合と共に鈴は炸裂し、光の波紋を伴って音色が響いた。洋蘭が咲き乱れ、同時に三万以上の数値が飛ぶ。
 更にゴーレムの体からいくつもの流星のようなものが弧を描いて四方八方に散る。鈴の音色を受け、魂が解放されたのだ。
「グ……オオオォォッ!!?」
 そのまま横倒しされるように体勢を崩した。重量感たっぷりにそのまま倒れ込んだ。
「おしっ、行けるッ!!」
 畳み掛けるように、急下降しながら鈴を振り鳴らす。
 連発されるように光の波紋が数度広がった。その度に音色が広く響き渡り、数え切れない量の魂が飛び去っていった。

「なんとか上手くいっているようだけど……」
 アイゼルは懸念に表情を曇らす。アリスもそれを察していた。
(実はあれ一発限り……。万が一、開闢の鈴の効力が切れればジ・エンドってか、ゲームオーバーね)

 ゴーレムの重火器が火を吹き、巨大な爆発球がうに魔女を包む込む。更に膨れ上がって超高熱の熱気を撒き散らす。
 雲の大地を蒸発させるほど広がっていく。
 しかし、それを掻き分けてうに魔女が飛び出す。鈴を引っさげながら再びゴーレムへ間合いを縮める。
「クッ! マダ……立チ向カッテクルカッ!!」
 機関銃のように缶を射出。しかし、開闢の鈴がそれをことごとく迎撃していく。連発花火が空を覆った。
 飛んでくるうに魔女に焦り、太い腕を振る。それを軽やかにかわし、ゴーレムと通り過ぎざまにうに魔女は音色を叩き込む。
 光の波紋が炸裂。洋蘭がゴーレムを包む。花びらが舞う。
「グアアアアアアッ!!」
 響いてくる音色が全身を貫き、その衝撃に悲鳴を上げる。体勢を崩し、魂が飛び散る。
 ゴーレムは悔しそうに歯軋りする。
 スカウターのように視界に映るうに魔女にターゲットがロックオンされ、数値が浮かびだされていた。
「何デッ、タカダカレベルガ五千如キノ小娘ニ翻弄サレネバナランノダァ――――――!!」
 怒りのままに巨体を回転させ、太い腕を振り回しながら缶ミサイルを撒き散らす。爆発球が雲の大地中を蹂躙した。
 大陸ごと崩れていくかのように広範囲に渡って破壊が撒き散らされ、衝撃波が荒れ狂った。
 一つ一つの爆発だけでも孤島を完全に吹き飛ばすほどの超威力が秘められていた。直接被弾を被らなくても、その熱気や衝撃波だけで普通の人間なら黒焦げ、あるいは木っ端微塵に吹き飛ばされるだろう。
 それでもそれらを潜り抜け、うに魔女は飛び舞った。
 白いドレスも少しずつ破け始め、息を切らし始める。それでも尚、羽をはばたかせて果敢とゴーレムへ立ち向かう。
「もっかい食らえぇぇ――――ッ!!」
 三度、近距離で鈴の音色を響かせた。咲き乱れる洋蘭がゴーレムを覆い被さるほど勢いを増す。
「オオオオオッ!!!」
 全身を貫く衝撃に呻き、ゴーレムはよろめく。追い詰められていくと言う感じで後退りする。
 うに魔女は額に汗を噴きながら焦燥を帯びる。
 手に伝わる鈴の悲鳴。鈴の端に違和感を感じる。ヒビが入る一歩手前。
 それでもまだゴーレムは30万も余分に残っていた。今のペースでは完全に削れ切れないと察する。
(もしクレインがいてくれたら、きっと……)
「うにああああ――――ッ!!」
 最後まで戦い抜こうと鈴を振る。必死さが伝わる光の波紋が大気を伝わって広がっていく。

 キムカネはゴーレムの中で違和感を感じ始めていた。背後に忍び寄る怖気。無数の魂が精神体が悪霊のように象って群がり始める。
 開闢の鈴の影響を受けていたせいか、押し込められていたものが溢れ出したのだろう。
 怨念の念がキムカネにまとわりつき、寒気が恐怖を呼び寄せる。ドス黒い思念が頭に入り込んでくる。
 "許さん! 殺してくれたな!!" "何の恨みがあって俺達を食った!" "うああ……苦しいよぉ。苦しいよぉ"
 キムカネは腕を振り回し、もがくも怨霊は沸いて絡みつく。その恐怖に耐え切れず見開く。
「ウガアアァァァァァ――――ッ!!」
 どうしたのか、ゴーレムは狂ったように腕を振り回す。空を切るばかりで見えない何かと戦っているようにも感じた。
 うに魔女は怪訝に眉をひそめる。
「ふふ、当然の結果でしょうねぇ。復讐は復讐しか生まない。自分の戦力の為に殺しまわったから自業自得なんだけどねぇ」
 アリスはせせら笑う。
 アイゼルは引きつっていたが、向き直る。
 狂っているが、図体から繰り出される衝撃波は離れた所も破壊する。うに魔女も辛うじてかわしている。
「貴様ノセイダ!! 貴様ノセイデ……私ハ苦シマナケレバナラナクナッタンダァ――――!!」
 責任を転嫁してゴーレムはキレた。両手で引き裂かんばかりに覆いかぶさる。影に覆われ、うに魔女は突然の事に驚く。
 そのまま押し潰されようとする寸前、脳裏にクレインが浮かんでいた。
(た、助けてッ!!)
 そんな折、轟音と共に辺りが明るくなった。
 うに魔女は瞑っていた目を開けると、広い背中が視界に入った。太陽に照らされるかのように頼もしく感じた。
 流れる金色の長髪。気付けば、ゴーレムは灼熱に包まれながら遠くでもがいていた。
 その人が敵勢力のボスだと言う事にうに魔女は呆然とした。しかし、徐々に表情を険しくする。
「あんたッ! ホワイトサタン!!!」
 うに魔女は敵意を剥き出しに怒鳴る。ホワイトサタンはしばし沈黙を保つ。
「余は……お前を守りたい」
 微かに呟かれた声に、うに魔女は戸惑う。何を言っているのか分からなかった。何を企んでいるのでないかと、心音が高鳴る。
 それでもホワイトサタンは両腕を広げ、か弱い女性を守る騎士のように身構えた。


あとがき

 キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
 何の心境があってホワイトサタンは来たんでしょう? 次回が気になる所か!?
 カップルを目指そうなどと魂胆は存じませんよ?(・・; ドキドキ

 レベル数値の経緯を説明すると言った通り、説明が入ってますw(^^b
 精神体の樹齢によって強さが変わっていくと言う設定。これならゴーレムの性質も納得がいくって感じでw
 アリスのレベルは二万。故に樹齢は二万もあるって事になると数えるの大変そうw(^^;

329話 「うに魔女、立ち上がる!」 2009,7,27
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


 渦巻く暗雲の下で、ヒロは目の前のアトリエに立ち尽くしていた。
 以前にザールブルグで復讐を行おうと訪れていた記憶と投影してしまう。
(ここが……うに魔女の精神世界!?)
 ヒロは自殺をし、晴天の妖精の羽に魂を捧げた。その行き着いた先がここだった。
 不穏な雰囲気が立ち込めるように怪しげな霧が辺りを漂う。
 嫌な威圧が自分の胸を強く締め付けられたかのように、ヒロは重圧を感じていた。
 それでも決着をつけたいと、足を踏み出して扉のノブに手をつけた。拒まれてしまわないかと怖れも抱いた。
 だが、そんな思いとは裏腹にあっさり扉が開く。逆に戸惑いすら覚えた。
「うおっ!」
 強烈な殺意が溢れ出した事に怯む。
 畏怖しながら見渡すと、あちこち壊れた器具が散らばる。血の様な赤い液体が机や床にぶちまけられていた。それは徐々に広がっていく。
 寒気が全身を襲う。
 そして台所で包丁で何かを刻んでいる人影を見かける。ヒロは息を呑む。彼女が刻む度に血が零れ、床まで伝っていく。
「……誰ッ!?」
 以前に訪れた時と同じように、うに魔女はこちらを見据えた。
 しかし、今度は憎々しげに睨みを利かせていた。手には包丁が握られていた。気付けば腹が酷く刻まれたような傷が付いていた。
 台所で刻んでいたのは自身の腹だった。
 赤い血が滝のように流れ落ち、床に広がっていく。気泡が表面に浮かぶ。
「あんたはッ? テチャックに似てる……!?」
 そう確信すると、憎悪に表情が歪んだ。血の涙が頬を伝う。充血した眼がヒロを捉えて離さない。
「うに魔女……!?」
「全ては独裁者テチャックが諸悪の根源だったわ。それを退治した。……なのに、なんで復讐を考えるの!」
 噛み付くような勢いで叫んだ。
 ヒロはうろたえ、動揺に体が竦む。まるで蛇に睨まれた蛙のようだった。
「そしてあんたら鬼蛸族の下らない逆恨みで……、無関係の外界人を巻き込んで皆殺した!!」
 怒りを込めた包丁で床に突き刺した。轟音と共に地響きが床を伝い、亀裂が走る。項垂れたままうに魔女は肩を震わせる。
 呪うような表情で顔を上げた。
「あんたを引き裂いてやりたい……!! そんな事しても生き返る訳じゃない、だけどッ」
 包丁を強く握り締め、歯軋りする。納まらない気持ちを晴らそうと包丁で自分の腹を抉る。血が噴出す。
 何度も何度も抉っても彼女は自分を締め付ける想いから抜け出せない。
「この怒りの……この怒りの気持ちがッ、収まらないのよ――――ッ!!!」
 慟哭と共に黒い衝撃波が吹き荒れた。工房中のあらゆるものが吹き飛ばされた。
 ヒロは吹き飛ばされ、壁に背中を打ち付ける。
「ぐあ……」
 床にずり落ちるヒロ。ゆっくり歩み寄るうに魔女。憎しみに満ちた眼が向けられている。
「みんな死んだ。アリスもライナーもクロアもフェルトもッ」
 包丁で腹を何度も刺し、更に表情が悲痛に歪んでいく。深い悲しみと罪悪感が彼女の心を責めている。
 仲間を救えなかった自責の念が、こんな行為を繰り返させていたのだろう。
 ヒロはそれを察し愕然する。自分の母であるキムカネも同様に怒り狂っていた。その怒りが自分に向けられていなかったから分からなかった。
 しかし、怒りの矛先が自分に向けられて初めて、その恐ろしさを実感した。
 復讐される事の恐怖。罰される畏怖。罪の意識による恐縮。
「鬼蛸族を皆殺しにしてあげる!! 死んで――!!」


 荒地のように黒く汚れた雲の大地。夜のように暗い大気。
「ギャオオオオオオン!!!」
 白いうにっ子は吠えた。その度に濃度の濃い大気による海流がうねり、波紋のように広がる。
 その波紋は凄まじい水流を伴って全てを吹き飛ばしていく。
 すると、うにっ子を囲むようにマグマの噴出のようなものが巨大な火柱を吹き上げた。同時にその中から数え切れないほどの缶が零れていく。
「ガガァ!!」
 うにっ子は手足を広げ、全身を包むうにの形をした濃度の濃いエネルギー球を生み出す。それは境界線が目視できるほど何重も層が出来ていた。缶を受け止めながら破裂するように膨れた。
 破裂音と共に放射状の衝撃波が四方八方に広がり、気泡が泡立って吹き荒れた。
 凄まじい超海流が雲の大地を全て巻き込んで引き裂く。創世卵の聖域の表面が少しずつ膨らみ、その中心から赤いものが覗く。
「サッサトクタバレェェェェ――――!!」
 爆炎の余韻の最中、ゴーレムは傷つきながらも吠え、狂ったようにうにっ子へと攻撃を繰り出していた。
 爆発の連鎖がうにっ子を飲み込む。数千個もの核爆弾を同時に炸裂させたような大規模の爆炎が噴き上げた。灼熱の余韻が層を作り破壊を撒き散らした。
 それでもうにっ子はそれに耐え、分裂を繰り返す。一瞬の内に大小のうにっ子が散らばる。一斉に両手を天に掲げる。
 ゴーレムの周囲に真紅の煌きが星々のように輝いた。
「あ、あれ全部が……賢者のうにッ!?」アイゼルは絶句した。
「普通なら、到達者ですら出来ない事を……、ウロボロスによって可能にできるんだわぁ」
 アリスは心地良い怖気に身を震わせる。
 ゴーレムの周りに数百数千もの"賢者のうに"が練成されていたのだ。無数の煌きが徐々に数を増やし、真紅の輝きが純白へと変貌する時、一斉に連鎖を引き起こした。
 うにの形をした爆発球がそれぞれ融合して膨らんでいく。
 それはやがて空間にすら亀裂を入れ、通常空間の亀裂が破裂するように吹き荒れていく。
 その空間の破片が全てを綺麗に容易く切り裂いていく。裂かれると言う過程を吹き飛ばし、裂かれた結果がそのまま出る事で完全な切断を生み出した。
 数え切れない空間の破片が吹き荒び、大群のイナゴのように全てを食らいつくしていく。
 完全な切断が木々を切り裂き、人々を切り裂き、山をも切り裂き、大地すら細切れに消し飛ばす。
(本来ならありえない"純白の賢者のうに"の一斉起動。数兆倍、数京倍……、無量大数にまで増幅された究極の破壊が空間を引き裂いた。そして……)
 再び黒い渦が立ち込め、全てを吸い寄せていく。やがて白いうにっ子は黒く変色していく。
 以前よりもっと強い吸引が空間の歪みを生み出し、風景が引き伸ばされていく。長く長く伸ばされて全てが平べったく見える。
 流星のように光の粒が流れる。光の粒は尾を引きながら渦の中心へと吸い込まれる。
(結局は自滅に陥る運命から逃れられない……。悪循環とは正にこの事ね)
 アイゼルは愕然と膝を地面につく。側に立つアリスは笑みながら、深遠の渦を眺めた。


「お願いだ!! それでも僕のママを救ってくれ――――――ッ!!!!」
 許しを請うように頭を強く地面に下げ、叫んだ。
 包丁を振り下ろそうとするうに魔女は硬直。震える。
「そんな都合の良い事を言って、それで私の気がおさま……」
「厚かましい事は分かってる。けど頼む、復讐に取り付かれたママを救ってあげたいんだ。僕だけじゃ、もうどうしようもないんだ。だから……」
 大粒の涙を流し、顔を見上げた。
 うに魔女は表情を歪ませながら、うろたえの色を覗かせた。
「うに魔女しかできないって分かっているから、頼んでいるんだよぉぉぉぉぉ!!!!!」
 それしか出来ないと言わんばかりに必死に土下座して頭を下げ続けた。
 流石にうに魔女も躊躇いが生じていたが、死んでいった人達を思い返し、憎しみが湧き上がる。
 色んな人と楽しく奔走した事など、走馬灯のように流れる光景が更に憎しみを募らせる。
「……そんな事しても、あんたらが奪ってきた人の命が蘇ると思ってんの? 返して! 返してよ!!」
 それができない事ぐらい、うに魔女自身も分かっていた。だが沸きあがる怒りが行き場を失ったまま、彼女の中で暴発していた。何処かに怒りをぶつけずにいられないほど心は沸騰するように滾っていた。
「うに魔女さんよ。僕はさ……今でもあんたが嫌いだ。だけどテチャックが極悪人だって事は分かっている。ママも逆恨みで暴走している。大罪を重ねている事は百も承知。代わりに謝りたいよ。だけど、このままじゃ嫌な気持ちは永遠に晴れないんだと思う。
 嫌いだ。嫌いだけど……、僕は……僕はッ、こんな僕にでも優しくしてくれたうに魔女が……悪くないと思っている」
 再び頭を下げる。深々と言葉に気持ちを込めて、一言を伝える。
「お願いです……。憎しみから……僕達を助けてください…………」
 涙が床に滴り落ちた。芯の底から懇願を申し出た。うに魔女は硬直。頭に響く懇願の言葉。
「う……うう……ッ」
 激しい頭痛に襲われたようにうに魔女は頭を抱え込んだまま、屈み込んだ。
 ヒロの言葉によって揺り起こされ、今まで救ってきた人々の笑顔が走馬灯のように流れた。満ち溢れた心地よい感情が、心を巣食っていた罪悪感と怨恨を押し流してしまう。
(私は……優しさを貫く)
 アリエルと融合する時に誓い合った一言が脳裏に響いた。
 うに魔女の表面に亀裂が走る。徐々に表面は黒くなっていく。亀裂から閃光が篭れ出る。
(やっぱ偽善者って言われても、それでも私は困っている人を放っておけない――!)
 その想い一つで黒い殻を跳ね除け、純白のウェディングドレスを身に纏ったうに魔女が登場した。
「――――分かったわ、任せなさい!!」
 うに魔女らしい優しい笑顔が太陽のように光り輝いた。
(そうだ。僕の大嫌いなうに魔女はこうでなくちゃいけないんだッ!!)
 ヒロは綻び、思わず嬉し涙が零れた。感動が心を震わせる。心惹かれるものが全身を貫く。

 潮が引くように深海が徐々に薄らいでいく。黒い渦は勢力を弱め、中心からは眩い光が篭れ出る。更に光は膨らんでいく。
「あ、あれは――――」
 絶望に暮れていたアイゼルはその光に視線が行く。アリスは「待たせすぎだわぁ」と綻ばせる。
 急速に光の粒となって収束されていく。まるでブラックホールがホワイトホールへと変わるかのように錯覚した。
「お、おお……ッ」
 成り行きを見守っていたホワイトサタンは驚嘆の声を上げ、王座から立ち上がる。
 渦からうに魔女が飛び出す。光飛礫が四散。純白に輝く羽を羽ばたかせ、白いドレスを揺らめかせ、踊り舞う。
 掲げていた両手の上に真紅のうにが一つ。それを包むように源素が吸い込まれていく。
 大いなる海を連想させ、尚且つ海面に陽が反射して揺らめくような暖かい光が閉じ込められた巨大なうにが生まれた。
「うにあぁぁあああ!! 賢者のうにエリキシールッ!!」
 それを下方に叩きつけた。
 眩い光と共に、巻き戻されるかのように破壊された雲の大地が復元されていく。割れた空間も逆戻りするように閉じていく。
 時間が巻き戻されるかのようにザールブルグ大陸もそこに生まれた。しかし人気はない。うに魔女はそれを察し、悲観に暮れる前に向き直った。
 未だに立ち聳える山のような黄金のゴーレム。ちぎられた腕も戻っていた。何事もなかったかのように全て元通りになっていた。
 うに魔女は自身を落ち着かせるように目を瞑る。深呼吸する。
(もう皆は生き返らない……。アリスとの精神の繋がりは未だに戻っていない。ライナー達の復元の為に消費した自身の満身創痍は変わらず。全てを失った最悪な状態のまま……。だけどッ)
 希望に輝く瞳を見開き、ゴーレムへ向き合う。
 自分に想いを託してくれたヒロの願いを叶える為、彼女は身を奮い立たせた。
「キムカネ、待たせたわね!! 最終決戦よ!」
 最後に生き残った鬼蛸族を止めるべき、対峙した。
(憎しみの連鎖はここで断ち切る! そんなもん繰り返させはさせないから――ッ!!)


あとがき

 エリキシール。ヴィーゼが協力して出来るようになった回復系最強の秘術。それでも死んでから時間が経った生物には効力が及ばないっぽい。
 ご都合主義でエリキシールによって全員生き返ったなどとチートくさい事はやりませんでした。
 そんな事が出来たら生死の境がおかしくなっちゃいますもんね。(^^;

 ちなみにエリキシールに使った源素はウロボロスがブラックホールみたいなの出していた残骸からです。
 そしてアリスの生死について、うに魔女が認識しているのと矛盾が起きているようです。
 精神体が繋がっている為、精神はリンクされていて連絡を取り合う事が出来る。それができなくなると言う事は片方が死んでいるって事になっちゃうのです。
 なのにアリスはまだ生きているっぽい。これは何か深い訳がありそうだ。
 勘違いしちゃったうに魔女は無謀にも単身で挑もうとしています。大丈夫か!?

 それでもうには頑張っちゃうぞー! ○(>_<)○

328話 「罪と罰は自然の摂理?」 2009,7,26
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


 本の上に浮いていた宝珠が再び落下。溶け込むようにページに潜り込む。水に飛び込んだかのように波紋が立った。
「……そんな」
 リイタはクレインが手に持つ本に呆気に取られていた。
 クレインは静かな表情で溜息をつく。
「ったく、アリエルを尊敬してしまいそうになるよ。今まで嫌悪こそすれ、尊敬の念を抱く事はないと思ってたのにな」
 円陣を囲んで本棚が立つ広間。床はチェス盤のように白黒のパネルが張られている。
 ここはアリスが工房として構えていたと言う"アリスのアトリエ"。
 創世界の零階層で漂う球体型の浮遊無人島だったのだが、クレインとリイタが研究の為に長らく居候していた。
「だから錬金大戦の時にアリエルが放った禍々しい威圧に、憎しみや恨みの念が篭ってなかったんだわ」
「ああ、純粋な悪と言えばいいのかな? 善悪を考えず……いや、罪と罰を考えずに悪事を働いていたと言う事になる」
 クレインの脳裏に尊厳高いアリエルが浮かび上がる。常に笑みを絶やさず、殺気を撒き散らすその姿が。
 宝珠の中にはアリエルの歩んできた邪悪な歴史が詳細と綴られていた。
 平気な顔で躊躇なく、吐き気がするほど酷い悪事を何度も繰り返してきた。だが、彼女の目的はその中から生まれ出でる"何か"を模索しようとしていたらしい。
 それと別に悪人の心理や癖を理解し、それを自らのただの知識として留め、悪事に生かさなかった。
「彼女は恐らくウロボロスの倒し方を探していたのではないかと俺は見ている」
「え……、あの自分の尻尾を食ってる爬虫類の事ぉ?」
「こら、爬虫類って言うな。ここは蛇だろう」
 間の抜けたリイタの発言にクレインは頭痛そうな顔で突っ込みを入れる。彼女は照れながら舌を出す。
「ともかく、今までの書物に記述した通りだとウロボロスは"悪"の象徴。そして"善"の象徴とも言い、更には錬金術では"完全"の象徴とも言われている」
「なーんか、どっちだよって感じだね」
「だが、アリエルが記述していたのはウロボロスを"無限の罪と罰"と象徴していた」
 リイタは眉をひそめ、首を傾げる。クレインは半ば呆れる。錬金術士じゃないから仕方ないか、と腹を括った。
「つまり、三つを同時に表しているという事さ。無限は完全、罪は悪、罰は善。俺の解釈でだが、そう言う風に感じた」
 クレインは閉めた本の表紙を手の甲でポンポンと叩く。
「無限の罪と罰……!?」
 それでもリイタは理解不能か、首を傾げたまま頭上にハテナマークをいくつか浮かび上がらせていた。
 深い溜息が静かな工房に漏れた。
(だが、それが本当だと言うのならば完全なウロボロスは絶対に倒せないのではないのか? アリエ……いやアリスよ)


 底知れない暗黒の渦。辺りは深海のように静かで凍えるほどに冷たい。所々気泡が舞う。
 ここは理の扉を全部開いた先の深海。
 うに魔女はもがきながら沈んでいく。抗う事も出来ず、そのまま黒い渦へと吸い込まれていく。
「何故もがく? 我は望み通り、扉を開いたものの望みを叶えた。受け入れよ!」
 どこからか声が聞こえた。
 寒気が背筋を走り、震えた。怖気が全身を貫く。辺りを包む強烈な存在感の正体を彼女は察した。
「ウロボロス……?」
「罪深きものよ。苦痛から逃れたくば、憎しい相手を罰し続けよ! その為に力を与えた」
 うに魔女は絶句する。罪深きと言われ、胸が痛む。同時に全てを奪った鬼蛸族への恨みが募った。
 自分が望むものとは裏腹に嫌な気持ちを晴らすべき、無意識にそれを望んでいた事に気付いた。ウロボロスはただ、それを叶えてくれただけなのだ。
「違う! 違う!! 私はそんなものなんて望んでないからッ!!」
 動揺したまま、己を否定する思いで叫ぶ。
 そんな彼女を囲むように二頭の龍が現れだし、回り続けていく。二頭の龍は互いの尻尾を食らい始めた。
 狂ったように相手の龍を食らい尽くし、そしてまた自分の尾が食われていく。
「お主の気持ちが望んでいる!! 晴らしきれない強い恨みと罪悪感が!!」
「違う! 違う!! 違うよぉぉぉ!!!」
 頭を抱え、目を瞑ってかぶりを振った。それでも自分の心に冷たくて切ない気持ちが沸く。それらが心の中で回り始め、徐々に増幅されていく。
 悩み、迷い、痛み、悲しみ、恨みなどが絡み合い、膨らんでくる嫌な気分が彼女の理性を奪おうとする。
 それに反応するかのように徐々に龍は巨大化していく。
「ああああああああ!!!!!」
 逃れられない負の感情に耐え切れず、彼女は涙を零しながら絶叫を上げた。

 黒い渦が空間を歪ませながら、あらゆるものを食らいつくしていく最中、ある二人は周りに障壁を張って眺めていた。
「最初っから"罪"と"罰"に終わりがないのよぉ。ただただ繰り返し続ける……」
 絶句するアイゼルをアリスは笑った。
「そんな! それじゃ、歴史は……晴らせない想いによって堂々巡りが起き、血塗られた争いで築かれていたっていうの!?」
「他に何があるのぉ?」
 アリスは嘲った。アイゼルは曇った顔で考えに耽る。
(復讐心を満たす為に"正義"という名目で相手に罰を与える。そして罪を背負うものは"悪"の烙印を捺されて悩み苦しみ続ける。
 いずれにしろ、どっちも碌でもない感情よね。聞こえは"勧善懲悪"で世間体としては正しいように思えるけど……)
 普通の生活でも人間なら誰でも感じる事でもあり、それをなくして社会や法を語れない。
 つまり自然に存在する摂理とも言っても過言ではない。
 普通の人間なら罪悪感を抱けば悩み苦しむ。それに付け入った悪党が最後までしゃぶり尽くす。
 悪行を働けば、必ずと言っていいほど他人や環境のせいにする。
 逆に他人からの悪行で苦痛を与えられた時、罰を与えたいと復讐心を募らせる。
 そして相手に罪があるという認識だけで、自らの責めを正当化できると思い込む。それ故に殺人衝動に駆られる事もある。
 これらは日常でもよくある事でもあり、誰もその運命から逃れられない。
 アリスはそれを分かっていながら悪事を働いた。ウロボロスの研究などの為に長い歴史を使って、それを繰り返した。
 この過程で"罪"を感じないようにしたのは自分を追い詰めない為と、相手に付け入る隙を与えぬ為だった。
 自分の悪行を正当化せず、自ら"悪"を名乗って振舞ったのは"罰"を与えない為。
(そうよね……。アリエルがやらなくたって、別の誰かが同じ事を繰り返していたのでしょうね。これは許す許さないの範疇を超えているわ)
「想いは限りなく深くて狭い。自分の想いで精一杯だもの。誰だって自分が可愛いものねぇー。あはははは」
 アリスは哄笑を上げた。アイゼルは眉間にしわを寄せる。
 主観的に聞けば嫌悪を催す発言である。だが、観客的に聞けば理に適っている発言だ。
「だから、争いが起こるのは摂理そのものなのね……」
 切羽詰った表情のアイゼルの呟きに、アリスは快く笑む。


 ウロボロスに囲まれたうに魔女は蹲る。背中から純白に輝く羽を生やす。
「うにああああああああああ――――ッ!!!」
 全てを振り払おうと絶叫を上げた。
 眩い光が深海を照らす。明かりが徐々に広がっていく。
「アンタの言いなりになんかならない! そして復讐もするつもりはありません! お生憎さまっ!」
 ウロボロスを光が覆う。しかし反応する事もなく呑まれていく。
 うに魔女はそれに違和感を覚えた。それでも、現状のままでいられないと思い、晴天の妖精の力を発揮し続けた。

「ったく、うに魔女どうしたんだよ!! いい加減正気に戻れっつーに!」
「ホントにね!」
 何とか吸い込みを逃れるダグラスとネル。互いに手を握り締めて飛び続けていた。
「お、おお!?」
 自分の飛行が加速し始めた事に戸惑いを覚える。吸引が弱まる事で、飛行の推進力が勝ったからだ。
「ああっ、あれを見て!!」
 ネルの指差しにダグラスは目でそれを追う。あっと口を開く。
 ウロボロスの体に亀裂が走る。その亀裂から破片が零れ落ち、閃光が篭れ出る。あちこちから閃光が溢れ出して行く。
「やっと克服しやがったか! ったく遅いぞ、あんの魔女はー!!」
 ダグラスの顔に綻びが入る。
 ウロボロスと言う殻をぶち破るように破裂。破片が四方に吹き飛ぶ。篭れ出た閃光が深海を覆った。
 地響きを揺るがし、創世界は揺れた。
 同時に吸引の力は掻き消えた。ダグラスは綻んでいたが、徐々に強張らせていく。
「なに……これ……?」
 ネルは唖然としたまま呟いた。
 今度は白い巨人うにっ子だった。円らな黒い目、背中に白い悪魔の翼。その両翼が左右に大きく広げられる。
「グオオオオオオオオ!!!!」
 見た目とは裏腹に獰猛な咆哮が大気に響いた。未だに深海のままの大気に振動が伝わり、広がっていった。
「な、なんだよ!! あれ、晴天の妖精じゃねぇのかよぉぉぉ!!?」
 ダグラスとネルは戸惑いながら、押し寄せる海流の波に揉まれた。
「グ……ググゥ!! アリス!! 貴様……ヨクモ!」
 所々亀裂が走っている黄金に輝くゴーレム。憎悪に表情が歪んでいた。
 足を踏み鳴らし、白いうにっ子へと近づく。
「グシャグシャニ、ブチ殺シテアゲルダワ――――ッ!!!」
 背中からロケット砲が火を噴く。音速を超えてうにっ子に飛び掛る。強烈なパンチがうにっ子の胸元を打ち貫く。
 重々しい衝突の衝撃波が大気に伝わって広がった。
 しかし、白いうにっ子はそのまま二体に分かれた。ゴーレムは見開く。
 腕からうにメイスが生み出され、二体同時で振り下ろす。ゴーレムの胸元を穿ち、吹き飛ばす。
 巨躯が遠くまで吹っ飛び、雲の大地をバウンドして数回噴火を噴き上げた。
「うぉわあああああ!!!」「きゃああああ!!!」
 ダグラスとネルは広がった海流の大波に押し流されそうになる。
「ウガガァァァァァ!!」
 うにっ子は唸りを上げ、雲の大地から数え切れないほどの白いうにが舞う。それらは次々とうにっ子へと形を成す。
 同時に本体の白いうにっ子は両の手首と頭上にうにっ子の頭がこんもり出てくる。
「あ、あれは……、大会中で見せたカスタムうに魔女状態じゃねぇか!!」
 無数のうにっ子が一斉に飛び立ち、ゴーレムへと殺到。驚天動地に爆発球を重ね、広範囲に膨れ上がった。
 広がる衝撃波が雲の大地を巻き上げ、破壊を撒き散らす。地平線が眩く輝いた。
「グオオオオオ!!」
 震撼する大地の下で、白いうにっ子は遠吠えのように吠えた。
「あちゃー、罰のウロボロスが顕在化したままだわぁ」
 アリスはせせら笑う。
(まだ彼女は怒っているんだわ。恨みの念が心の中で燻っているッ)
 アイゼルは力むように唸る。拳を握る。唇を噛む。
 復讐心はしっつこく心に纏わり付く。そのしがらみを止めない限り、うに魔女がウロボロスから解放されないのだと察した。


 ホーディアは白いうにっ子が映し出されたモニターに眉をひそめた。
「……分裂。これじゃいくら攻撃しても堪えへんやないか?」
 ホワイトサタンは思い当たる節があり、絶句した表情のまま固まっていた。
(バカな……。あれは余を延命させる為に身に纏っていたホワイトサタンの神仏像と同じだと……!?)


あとがき

 長く待たせちゃったね。色々紆余曲折を経ていたの。(−−;ムズカシイ テーマ ダケニ
 なんだかウロボロスがラスボスくさくなってきたなーw

 今書いてて思ったんだが、ホワイトサタンの命に限りがあると言う事を今まで忘れてた。まぁいいか。(汗

ドラクエ9楽しんでますか? 2009,7,25
 待たせちゃったかな? ついにDSとDQ9を買いました。
 意を決して買った甲斐があって、バッチグーだぞ☆

 だってこれほど防具に重要性を見出せるRPGって中々ないでしょ? (^ー^b
 大抵は武器屋ましっぐらだしネw
 結構沢山あるので、あれこれ買って色々と着せ替えして楽しめるのって新鮮な感じだよ。
 しかし守備力とバランスを取りつつ、コーディネートするのって結構大変だしね。強さ重視してもいいけど、見た目が気になるっす。 (汗
 個人的に鎧を着せるのはなんかゴツゴツしてて好きじゃないなぁ。

 欲を言えば同じ服でも色を変えられる要素とかあった方がいいんじゃないかなと思う。
 ペアルックならまだマシも、同じ服を着ているのが何人もいたらおかしいじゃない? 
 例えば、みかわしの服を三人に着せてるけど、他の防具でバランスバラバラ。
 それだと何となく納得いかないっしょ? 
 と言う訳で色を変えられる要素を次回でやって欲しいです。

 キャラは何故かアトリエキャラばっかになっちゃったw (^^;
 主人公はもちろん、かの銀髪の剣士です。そしてヒロインは魔法使いで茶髪&橙の奴ですよw (照w
 そこまで再現しなくてもいいのに、金の指輪を二人に装備させました。(マテw
 あと戦士に登録しちゃったダグラス遅すぎ。空気化してて泣けた。アトリエでは結構世話になったのに。
 なのでハズしてから以降、ずっとお蔵入りw
「なん……だと……!?」
 って感じにダグラスの苦悩の声が聞こえてくるようだね。メンゴ。(汗

 フィーは髪パーツで悩みました。ツインテールあるにはあるんだけど、しょぼすぎて他のにしました。長い奴にしてくれ。あとパーツもっと増やせw 少なすぎw
 でもフィー大活躍過ぎw 絶対に外せない主力メンバーの一人ですよーw (^о^)/
 鎌はないので扇で代用させました。せめて二刀流仕様にしてくれればなぁ。
 四人目は使い分けで入れ替えしてます。
 僧侶はボス専用。盗賊はアイテム収集用。
 もちろん、医者志望のノルが僧侶で盗賊はまんまシュワルベw クリスタでもいいけど、パーツがね。(泣
 あと、クレインも作ってたけどパッとしないので削除しました。
 うに魔女は特異な髪型とかあるから再現できねぇっすw(当たり前w

 と言う訳でDQ9を充分に楽しんでいますw (*^_____^*)


327話 「\(^o^)/オワターw」 2009,7,24
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


 空間が捩れ、亀裂が螺旋状に走っていく。中心部の亀裂が捻る毎に酷くなっていく。
 更に大気の濃度が上がって、辺りは夜のように暗くなっていく。
「グオオオオオオオオ!!!」
 黒い巨人うにっ子は咆哮と共に、全てを吸い尽くそうと大きく口を広げていた。
 周りの数え切れないうにっ子も更に数を増やし、小規模だが本体と同様、全てを吸っていた。
 大気が悲鳴を上げ、振動が激しく伝っていく。
 その影響は創世界だけに留まらなかった。

 何処かに散らばる一つの世界球。平穏で緑生い茂っていたであろう自然の風景。今や地脈に亀裂が走り、その中から噴火寸前のように赤く輝くものが覗く。
 常に地鳴りが続き、山は次々と噴火していく。溶岩が流れ、火山弾があちこちに散らばって森に火の手が広がる。
 高層ビル群が集う都市。絶えぬ地震により、次々とビルは倒れ、流れ込んできた溶岩が全てを焼いていく。
 逃げ惑う人々は混乱に陥っていた。
「うわあああああ、こ、これはテチャックの最後の時と同じだ――ッ!」
 悲鳴が大歓声となって響き渡る、大群衆は既におしくら饅頭状態だった。
 道路でも一杯の車で渋滞状態。乗り捨てて走る人も居た。
 船が次々と陸を離れて行くも、突然の渦潮郡が飲み込んでいく。
「逃げられない! 逃げられない! もはや逃げられないぞぉ――ッ!!!」

 他の世界球でも、同じ事が起きていた。高度に発達した文明か、六角形リングを重ねたような立体の都市。
 天空の暗雲が稲光を発し、大津波が押し寄せ、立体の都市はなし崩しに裂かれ、崩れていく。
 リングの中の無機質な通路。機械とモニターに囲まれた華やかな風景。しかし絶えない振動と共に床が傾斜に傾く。逃げ惑う人々は床を滑っていく。
 灯りを失いながら急激に倒れていき、崩壊の轟音と共に人々の悲鳴が響き渡る。
 バックファイアのように爆炎が通路を通り、哀れな人々を呑み込んだ。
「こ、これはッ! 前に起きたのより更に酷い――!!」
「天災と言うレベルじゃねぇぞ――――ッ!!!」
 もはや阿鼻叫喚の地獄絵図そのものに陥っていた。

 空の大陸のみで構成されている世界。特異な環境も問わず、世界崩壊の影響は変わらなかった。
 雷雲に囲まれ、烈風が激しく吹き荒ぶ。大陸はそれに煽られ、揺れる。
「……まるで世界の終わりを意味しているとしか思えぬッ!!」
 王冠とマントを羽織る鳥人間。王族の人達は揺れる神殿の中で焦りに戸惑っていた。
「大変です! 民の中でも……」
「ぬっ、暴動でも起きたか!?」
「い、いえ……」
 町の中で震える人が数人。体表から泡が吹き出す。たちまち海のゼリーが体全体を覆う。
「ひええええ!! 理の使い手、いっぺんに"浅瀬状態"になっちゃったぞー!!」
 溢れ出す様に徐々にドス黒い化物へと変貌し、辺りの大気が深海のように濃くなっていく。
「ギィアアアアア!!」「グオオオオ!!!」「ギャオオオオン!!!」
 咆哮を上げ、全てを食らい尽くそうと虚無の口を天に向ける。

 どこの世界の大陸も沈没しそうな勢いで破壊の規模が広がり、滅亡へと道を歩んでいた。
 しかし、それに抵抗する人も居た。
 空を大軍団が飛び、空間の歪へと一直線に目指していく。裏の権力者達が数々の世界球から軍隊を出陣させ、創世界へと向かわせていたのだ。
 数千億もの軍隊が創世界の闇へと集合していく。
 しかし、その様は地獄の奈落へと呑み込まれるかのようにしか思えてならない。


「あーっはははははは!!!」
 コミカル調にアリスは狂乱するように哄笑を上げていた。
「みんな滅べ、滅べ、滅べぇ――!! 破滅に金も未練も権力も関係を問わないのだ――ッ!!」
 諸悪の根源のように高笑いが劈く。
 流石にアクシャカも後頭部に汗を垂らし、引いていた。
(チッ、こうなったら曼荼羅陣を敷き続けるのは無駄……。ここは何とか逃げ)
 身を翻そうとした瞬間、足を掴まれた。振り向くと鎖状にうにっ子が並んで繋がっていて、先端の一人が足にしがみ付いていた。
 驚きに見開く。ニヤリと笑むうにっ子。
「あらぁ? どこへ逃げたって関係ないじゃん? 一緒に逝こ?」
 アリスの艶かしい笑顔にアクシャカは怖気を感じた。背中を寒気が襲い、恐怖に駆られた。
「離せ、離せッ! うおおおおおおおおおお――ッ!!」
 割り振り構わず、全身から凄まじいオーラを噴出させた。そして全身全力で逃亡に全てをかけて飛び去っていった。
 振り切られたうにっ子は転がり落ち、煙となって掻き消えていく。
 それを傍目で見ながら妖しく笑むアリス。
「……計画通り!」
 すると、どこからか誰かが接近してくる気配を感じた。
 翼を羽ばたかせ、死に物狂いでやってくる火の鳥。もとい五芒星を冠する妖精王。そしてそれと融合しているアイゼル。
「じゃないでしょーがッ!!」
「ぐはぁ★」
 突進の惰性と共に力を込めたビンタでアリスの頬をはっ叩く。
「どーしてくれんのよっ!! 確かに各世界の軍隊が煽られてノコノコ出てきたまではいいけど、どう収拾つけんのよっ! アンタの事だから暴走したウロボロスを抑え込める術あるんでしょうけど」
「あらぁ、抑え込める術なんてないわ」
「へっ!?」
 しれっと答えたアリスにアイゼルは目を点にする。
「どの道、既に私は"ある事"で力を使い果たしてるけどねぇー。魔法炉を十個ぐらい一気に使っちゃったかな」
 よく見れば額に汗が滲み、息を切らしていた。
「ちょ! おま! なんで勝手に力尽きてる訳っ!! 私に一言の相談もしないで〜〜〜〜ッ!!」
 こめかみに怒りマークを浮かばせながらアリスの胸倉を締め上げ、思いっきり揺らす。
「痛いって、痛いわぁー。……だから私はうに魔女の"あれ"に賭けたの。一世一代の大博打だわぁ」
「あれを賭けるって、何……?」
 斜めに首を俯かせ、不安そうにジト目でアリスを見やる。
「優しさ」
「ああああ! もぉ、ダメ!! 世の中終わりだわぁぁぁぁ!!!!」
 きっぱりと答えるアリスに、アイゼルは泣き叫びながら絶叫を上げた。


 もがくゴーレム。うにっ子との距離は既に数百メートルもない。ヒロは切羽詰ったまま眺めるしか出来なかった。
「ガ!?」
 その時、ゴーレムの体に異変が起きた。
 周りのうにっ子の群集の中いるせいか、体表に亀裂が走っていく。戦士達がどんなに攻撃しても傷一つ付かなかった体にである。
 そして腕の付け根に無数の亀裂が走り、もげた。
 千切れた腕は塵と化して虚無へと飛び込んでいった。
「ウガアアアアァァァァ!!!」
 激痛か、悲鳴を上げるゴーレムの様子にヒロは歯を食いしばった。
「ギァガガァァアアアアァァァァアアァァァァァ!!!!」
 咆哮を上げながら更にうにっ子は徐々に変貌していく。黒かった体も岩のような硬質に浮かび上がり、両腕は二頭の龍らしく、尻尾が長く伸びていく。白目に瞳が宿り、円らだった目の形も変わっていく。
 うにっ子の容姿から離れ、龍の形を象った魔神に身を変えようとしていた。
 巨躯だった体も更に大きくなり、山のように聳えていく。
「ウロボロス顕在化もクライマックスねぇ。この様子だと、完全体まで間はないかもね」
 ブラックキャットは呑気に笑う。
 ヒロは観念したのか、全身の体から力を抜く。項垂れる。そしてウロボロスを見据えた。
(アイツ、全てを失って怒り狂っているかもしれない。深い悲しみに暮れているかもしれない。結局、復讐は心に傷を付ける事以外なんでもないんだ)
 "偽善者って言われてもいい! でも、これだけはヒロに言いたかったのよ!! "
 必死に訴えるうに魔女が脳裏に浮かぶ。
 こちらを哀れんでいる表情だったが、そんな顔を向けてくれる人は未だかつて居なかった。
 翌々思い返せば父であるテチャックは傍若無人の振る舞いをするだけで、自分の息子には無頓着だった。
 母は厳しい人だった。ただ、それだけかもしれない。優しさなんて微塵にもなかった。
 世間からのイメージの為にエリート教育を強いられて育ってきた。競争社会が激しいせいか、テチャックの七光で、周りの同胞からも嫌な目をされていた。避けられていた。話し掛けようとする人も居なかった。
 コネでなんとでもなる。ヒロは大してよい成績ではなかった分、コネで卒業していった事も少なくなかった。
 マサヒと言う兄貴からも眼を飛ばされ、注意をされ続けた記憶しかない。
(誰も、ほとんど僕の名前を碌に呼ばなかった。そして哀れんでくれるのさえも……)
 今まで家族と同胞が大切で、それを失ったから復讐に燃えている自分が情けなくなってくる。
 うに魔女がそんな風に相手してくれなければ、自分で気付かなかったかもしれない。
 ほんのり触れた暖かいコミュケーション。初めてで最後だったけど、悪くない気がした。
 覚悟を決め、ウロボロスを見上げた。
「何するつもり?」
 ブラックキャットはヒロを見下す。何を思ったのかヒロはナイフを取り出し、彼女へと向き合う。
「へぇ?」
 ヒロはブラックキャットを睨む。彼女は脅威に感じてないせいか、構えずに余裕の態度を見せていた。
 ナイフを握る手に汗が伝う。緊張して震える。唾を飲み込む。
(この身が"悪役"と言う役割から抜け出せないって言うのなら……)
「つまりはこうすると言うことだっ!」
 逆手に持ったナイフを振りかぶり、自分の胸に深く突き刺した。赤い血が噴出す。口から血が零れる。
 ブラックキャットも驚きに見開く。ヒロは笑む。
「復讐さ……、鬼蛸族としての自分自身に対してな……」
 自嘲しながら、崩れ落ちた。
 うつ伏せになった背中から光輪を放つ魂が抜け出す。
 邪悪な性質を課せられた身体に宿っていたにも拘らず、その魂は純粋無垢のように美しく輝いていた。
 その魂は煌きを放ちながら、吸引の影響を受けずウロボロスへと向かっていった。ウロボロスの背中から五枚羽が浮かび、魂がそれに飛び込む。


あとがき

 アリスの行き当たりばったりには呆れちゃいますねーw アイゼルも手を焼いているようですw
 思ったけど何だかホワイトサタンより、よっぽどうに魔女の方が"禍の源"なんじゃw
 もうアリスとかラスボスでいいじゃんw(マテw
 次回でどうなるんやら〜? (^ー^)


花鳥園へ行って来たでござるの巻 2009,7,23
 神戸の花鳥園に行ってきましたーッw

 見渡す限りのジャングルって印象でした。鳥の群衆が飛び交うのかと思いきや、そうでもなくて結構静かでした。


 フクロウは実はティメアの作り出した生きたアイテムのスパイでしたw(嘘w
 お土産店の所にもフクロウネタ多すぎw


 家庭では普通に見かけない花ばかりで、どれも世話が難しいレベルかな?
 世話をしている人をチラホラ見かけました。

 100kgまでは耐えられるんだって。私なら余裕で乗れちゃいそうだネw
 マリオみたいにちょいちょい足場飛んで行く想像してみたりしてたりしました。
 でも、100kgオーバーのデブさんには無理だなぁ。90sくらいなら乗れそう?(失礼w

 ボタンのような花〜。他にも多種多様の色のものまであるよ。
 外国の奴だと大きいのが多いんだなぁ。
 売っているのもあったけど1000以上クラス揃い。でも大抵は小さな花の奴が多いです。
 胡蝶蘭と比べれば随分と安いと思うんだけどネw


 ピンクのインコw 飼えないかなぁーと思ってたりするけど……。
 結構大きいので噛まれると痛そう。(インコは市販のものでも噛む力が強い)
 っていうか名前“りんご”って言うより“ぴーち”なんじゃ? とか突っ込みは野暮ですネw

 仲良し三兄弟〜w 市販のインコより三倍強の大きさで、オレンジが目立ちます。
 他にも十倍の大きさのインコ?オウム?もいたよ。

 って事でたくさんデジタルカメラに撮ってあるんだけど、一部を載せときましたw
 春だったらもっと華やかに花が咲き乱れていたのかな? とか思ったりするけど、温室なのでさほど変わらないのかもしれませんね。

 あとバイキングで食べたいもの食べ過ぎて腹が痛くなっちゃったりしましたw
 でもこれなら晩飯は浮くッ!(笑
 見た目は変わらないけど、体内で食べたものをストックして時間を経ていくたびに消化すると言う体質だったらいいなとか想像をw
 そうすれば美味しいもの食べ放題w ……だったらいいなー。(´д`;

明日はDSとドラクエ9を買うでござるよの巻〜w


326話 「世界終末ムード(´д`)」 2009,7,22
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


 黒く濃く、深海のようなもやもやしたものが広がる最中、気泡が一気に四方に流れた。
 まるでそこを中心に海が滞ったかのように、大気の濃度が深くなっていった。
 中心では破けた紙のように蜘蛛の巣状に亀裂が走り、その破片が揺れていた。なおも亀裂は徐々に大きく広がっていく。
 その下で幼児のような黒い人影には二つの円らな目ときざきざの口が覘く。
「ギィオオオオオ!!!」
 黒いうにっ子は大きく口を開け、吠えた。

「さ、さーしゃと空猫がッ!! ああああああ!!!」
 涙を零しながらクローシェとルカは泣き崩れた。
「イ、イリスが……。イリスがッ……!!」
 泣き崩れるヴィーゼを映し出されたモニターにフェルトは悲痛な表情を浮かべる。
「くり王子ィ……!? うそ……?」
 うに姫は青ざめたまま、へたり込む。
 大陸にいた大切な者との思い出が走馬灯となって一同の脳裏を走ってゆく。絶望に打ちひしがれ膝をつく人もいた。
「アリス! 身代わり人形で回避してたんじゃないか!?」
 フェルトはアリスに通信を繋ぎ、問い質す。だがアリスは首を横に振る。
「……身代わり人形は大陸にも収納されているわ。従って、もろとも消されれば意味がなくなるのよ」
「平気な顔をしてて、何で落ち着いてられるんだよっ!!」
 堪えかねたのかフェルトは激情を露に吠えた。それでもアリスは澄ました顔で表情を変えない。
「守れなかったから、私を恨む? それで気が晴れるのなら好きなだけどうぞ。あんたが大会で言っていたように私も所詮、普通の女性でしかない。悪いけど"神様"みたいな特別な存在じゃないからね。"運命の鍵"で出来ない事はないけど、私を犠牲にしてでも望むぅ?」
 しれっと答えたアリスにフェルトも唇を噛み締めて身を震わせた。やり場のない怒りをどこにぶつけていいのか分からない。
 側で泣き続けるヴィーゼに胸がズキズキと痛む。
「グゥアオオオオオオオ!!!」
 なんとか怒りを抑え、変わり果てたうに魔女に視線を送る。未だ咆哮を上げている。何処か悲痛さが滲み出ていた。
「……そうだった、うに魔女も辛いんだな。辛いのは俺だけじゃないんだッ……!」
 拳を握り、震わせる。涙が零れる。俯く事しかできない自分が歯痒かった。
「グオオ!!」
 うにっ子は両手を天に向かって掲げた。
 気泡が溢れ、そこらじゅうに吹き荒れた。濃度の増した大気が水中のように圧迫感のある波が広がった。
 うにっ子を中心に雲の大地が徐々に分解していく。
「ナ、何ダコレハッ!?」
 当のゴーレムも戸惑いを覚えた。底知れない悪寒が走る。眼前の化け物が世界を食らっている事を身に染みて理解した。
 徐々に周りのもの全てが塵へと変わっていく。それらは塊に凝縮されると、さっきまで丸まっていたようにうにっ子が手足を広げる。
 次々と黒いうにっ子が増殖を重ねていく。
「ナ、ナ、ナントイウコトダワ!! コノ化ケ物メガァァッ!!」
 畏怖を感じたゴーレムは腕を振って薙ぎ払う。灼熱の息吹が大地より吹き荒れ、広範囲を覆った。うにっ子もそれに呑まれ、姿を消した。
 轟音と灼熱の熱風が辺りを吹き荒れた。
 濃い大気から振動が伝わって、呻くライナー達。

 悲しみにくれる一同の目の前にアリスが映ったモニターが浮かぶ。
「みんな聞いてッ!! あれはウロボロスよ!! 知らなかったと思うけど、この際説明するわぁ。誰にでも必ず"理の扉"があるのよ。何かの拍子に開く事があり、限定的だけど何かを生み出せる力を得るわ。私が“うに錬金”を使えるようにね。
 万が一全部開く事があれば、奴が顕在化して世界を食い潰してしまうわ。そして、この創世界も限界ギリギリなのよぉ! これ以上、ウロボロスを顕在化させ続けたら、全てがなくなっちゃうから!!」
「そ、そんなどうすれば……ッ!?」
 衝撃的な事実を知り、うろたえた。アリスは唇を噛み、苦い顔を見せていた。
「なんとか一計を講じてみるわ。間違っても止めようなんて思わないで!!」
「あ、ああ……」
 ダグラスもそう言うしか出来なかった。
 うに魔女がああなった以上、復元を繰り返して戦うと言う策はもう使えない。
「眺める事だけしか……、できねぇってんのかよ」
 自らの無力に打ちひしがれ、騎士達は悔しさを噛み締めた。拳で地面を打つ人もいた。

 灼熱の息吹が燃え盛っている最中、異変が起きた。
「ガガガァ!!」
 うにっ子が天に向かって吠えると、破裂するように一時的に灼熱の息吹は跳ね除けた。その拍子に重い波が吹き荒れ、気泡が吹き荒ぶ。
「うおおおおおッ!」「きゃああッ!!」「ぐおわッ!」
 ライナー達も流石に堪えきれず、吹き飛ばされていく。慌ててクロアはココナの手を掴み、抱きしめた。フェルトとヴィーゼは互いに手をしっかり握り締め、剣を突き立てて堪えきる。
「くうぅッ!」
 海の中を荒れ狂う海流。獰猛で高圧的で何もかも吹き飛ばす勢いだった。しかしそれはすぐに収まり、静まる。
「……止まったの?」
 クローシェの腕の中にいたルカは怪訝に眉をひそめた。
 黒いうにっ子はウサギのような座り方をしたまま、天に向かって大きく口を開いていく。周りの小さなうにっ子も揃って口を開いていく。
 僅かに残った灼熱の息吹を吸い込んでいく。そして海流もまた、その口へと流れ込んでいく。千切れかけた雲の大地から順々に全てのものを吸い込もうと、吸引の力が強まっていく。
「こ、今度はなんだよッ!!」
「吸い込まれちゃうよ――――!!」
 危険を感じ、クロアとココナはこの場を去ろうと地を蹴った。途端に雲の大地が競りあがり、塊ごと飛んでいく。
 一同は吸い込まれまいと、急いで離れていく。しかし吸引の力の方が強く、抗えなくなるのも時間の問題だった。 
 大きなものまでお構いなく、うにっ子の口へと吸い込まれていく。吸い込まれる寸前で引きちぎられて塵芥にされていたのだ。
「ウ……オオオッ!?」
 ゴーレムの足が徐々にうにっ子の方向へと少しずつ滑っていく。
 何百トンもの重さの巨体が吸い込まれつつあるのだ。畏怖を感じた。抗えるべき、腕を振るう。
 缶が撒き散らされ、次々と大爆発を起こし、連鎖を重ねていった。
 しかし、それも虚無の口へと飛び込んでいく。
 たちまち螺旋状の海流が形になって見えていく。海中の渦潮。なおも規模を広げていった。
「うおああああああ!!! どうなってんだよ――――!!」
 岩にしがみ付いたままダグラスは必死に堪えていた。
 ゴーレムが必死に抵抗を続けるも、全ては虚無の永久へと吸い込まれてしまうのみ。
「ウ……ウガガガァァ!!! ア、アリス、アリスゥゥゥ――――――!!!!」
 そのままゴーレムもろとも吸い込もうとうにっ子の口が大きく開いた。引き裂かんばかりの大きな口。中には何も映らない虚無。
 増殖していくうにっ子たちも大きな口を開け、吸い込み続けていた。徐々にその身が大きくなると、本体の巨躯へと融合していく。
 不気味に増殖を繰り返し、大きくなっていく度に本体へと少しずつ近づきながら融合を果たしていく。

「うふふふ、どう? 復讐って面白いわねぇ」
 ブラックキャットは目の前の男の背中を見やる。男は鬼蛸族だった。震えていた。
「母様……! お母様!! お母様!!!」
 ヒロは耐え切れず叫び続けた。
 もがくゴーレムが口へと距離を縮めていく。蟻地獄に嵌った蟻のような場面に居ても立ってられない気持ちに駆られた。
「何とかしてくれよ――!!」
 悲痛な表情でブラックキャットに向き合って嘆願を申し出た。しかし彼女は鼻で笑う。そんな態度に見開く。
「あら? 望み通りにしたんじゃない? ご覧の通り、うに魔女は全てを失った。そして自滅するのを待つのみ」
「ふざけるな! 俺はそんな結末を望んでない!!」
「結局、復讐したらされるだけだもの。必然でしょう?」
 からかうようにあざ笑うブラックキャットにヒロは頭にきた。殴りかかるが、身を翻されてかわされてしまう。
 転んで地面に顔面を掠ってしまう。
「復讐? 馬鹿みたい!」
 見下すようなブラックキャットの表情が冷たく映えた。
 ヒロは涙を流し、唇を震わせ、自身の無力と愚かさに憤慨を持つと共に、やるせなさが虚しさを心に生み出した。
 そんな折、脳裏にうに魔女が浮かんできた。
 "復讐は自分を苦しめるだけ。そんな生き方をしても楽しくないよ……"
 "ヒロ。みんなと仲良く楽しんでいこうって考えた事ないの? "
 短い間であれ、焼きついた彼女の言葉が横切る。涙が溢れ出した。
 心にしがみ付く憎しみが無性に憎くてしょうがなくなってきた。
「ちくしょぉぉぉぉ――――――!!!」
 ヒロは絶叫を上げ、涙が散らばった。

 青ざめたアクシャカはうに魔女を眺める。反応が気になり、一瞥する。静かにアリスは見下ろしていた。驚くほど冷静沈着だった。
「キミ、どうして慌てないんだいッ!? そのまま世界の崩壊を眺めるつもりなのかッ!?」
 動揺したままアリスに叫ぶ。
「それも悪くないかもねぇ」
 笑んだ彼女の口元にアクシャカは見開く。ドス黒い思念が篭れ出てくるような寒気が走った。自身の身震いに戸惑う。
「……世界が存在している限り、生物なら誰でも争う運命にある。本当にキリがないわ。憎しみの果てがこの結末なら、それは世界の運命。誰も止められやしないもの」
「な……? 正気で言っているのかいッ!?」
「いっそ、全て消えてしまえ」
 凍えるような据わった双眸。暗い表情が窺えた。底知れない闇が心の中から垣間見えてきたような気がした。
 そして笑んだ口元が粘着性に歪んでいるように感じた。
 アクシャカは絶句した。
(し、正気の沙汰じゃないッ!!)

 創世界の騒動を映すモニター。慌て戸惑う騎士達。冷徹にせせら笑うアリスの表情。黒いうにっ子が周りのうにっ子と共に全てを吸い込まんとする様子。
 増殖を繰り返す数百体ものうにっ子が漂う光景は怖気すら超えるものを感じさせた。
「緊急事態だ……」
 暗闇の最中、影の最高権力者達は微動だにしないほどに座り込んでいたが、頬には汗が伝っていた。
「国を内部から破壊する侵略戦争所ではない。せっかく不法入国させた我らスパイが全滅した。創世補完計画もお陀仏だ」
「まさかアリスが世界の崩壊を望んでいたとは……!」
「は、話が違うぞ! 奴は民の為を思う人情家ではなかったのか!!」
 机を拳で叩き、激昂して叫ぶ人が出てきた。苛立ちに唇を震わせている。
 世界の崩壊へと引きずり込まれる危機感に、動揺と焦りが彼らに走っていた。
「我々が思っている以上に、奴は煮ても焼いても食えない危険人物のようですな」
 モニターの映像が乱れ、程なくしてプツンと切れた。何も映さぬ漆黒のモニターから静寂が満ちた。
 それは世界の終末を暗示しているかのようだった。
「ええい、こうしてはおれぬ!! 今から大世界連合軍を出撃させる! もはや一刻の猶予はならん!」
「ああ、そうだ! 最高軍事力で叩き潰さねば“大いなる秘術”を獲る所の騒ぎではない!!」
 滲みよってきた世界破滅に炙り出された彼らの焦燥。決起を促そうと次々と立ち上がり、隠していた感情を露にしていく。


あとがき

 破滅願望……? アリスの真意は掴み所がない? 本当に望んでいるのか!?
 錬金大戦時のアリエルも芯の底から悪の極みに入っていただけに、これからの展開が読めない!!
 誰もアリスとうに魔女を止められないのか――――ッ!?

 欲望は未練を強く残す。それ故に生きようともがく。生物として必然の本能。
 間違えれば焦りを生む事によって自滅を誘いかねない。
 誰もが危機に直面して冷静さを保つ事は非常に困難。世界崩壊レベルならなおさら。

 これヒントw(^^;ハンテン ダヨーw


325話 「うに魔女、ウロボロス化」 2009,7,21
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


 目を細めたままホワイトサタンは目の前に映るモニターを眺める。
 うに魔女と共に戦士達でゴーレムと奮闘し、その上空でアクシャカに足止めされているアリスの様子が映っていた。
「ホワイトサタン。これでしまいやろ。交代できずに力尽きるのを待つだけや」
 両端が尖ったサングラスが煌く。ホーディアは白い法衣を靡かせた。
「ホムンクルスを失い仲間を見殺して、全てを失ったアリスに調教。監禁して連れて行くって計画……。どや?」
 粘着性の笑みを浮かべ、ホーディアの表情に影が差す。
「……随分と残酷な事を思いつくものだな。一応、一緒に行動した事があるにもかかわらず」
「はっ、そらウチは楽しかったけどな。まぁ、それだけっちゅー話やで。元々うに魔女は好きじゃあらへん」
 ホワイトサタンは未だ冷静な表情で聞き入っていた。しかし、椅子の取っ手に置いた拳は震えていた。
 壁に沿って並んで警護についていた天使精鋭隊は冷静を装いつつ、ホワイトサタンの心情を察していた。


「うおらぁぁぁ――――!!!」
 レグリスは高速回転する盾を突き出し、ゴーレムの胸元を深く抉る。
 ダグラスとネルが交差し、無数の打撃が顔面を打ち据える。とどめにアマリエの放った矢とエリーとヴィーゼの爆弾が爆炎を撒き散らす。
 しかし微動だにする事もなく、総攻撃を浴び続けるゴーレムに違和感を抱いていた。
(どうしたのかしら? 諦めた……?)
 うに魔女は今だ警戒を緩めない。大技が来るのを予想して天使のうにっ子を次々と生み出す。
「今カラ、貴様ラニ同ジ絶望ヲ味ワセテヤルダワッ!!」
 双眸を光らせ、突進を始めた。全てを弾き飛ばし、城壁を貫く。豪快に破片が飛び散った。
 しかし戦士達は復元される。
「無駄だ! いかなる攻撃であろうと……?」
 そのままゴーレムは過ぎ去っていく。
「不味い!! 奴の狙いは……ッ!!」
 うに魔女たちは青ざめた。ゴーレムが向かう先にザールブルグ併合大陸がある。
「冷静になって、勝てない事を悟ったのね!」「そんな事になるなんてッ!!」「回り込まなくちゃ!」
「十戒、テレポートを頼む!!」
 空へ向かってうに魔女は叫ぶ。
「一日にそんな回数は出来ません。多少危険ですが、大陸より数百キロ地点に転移させます!」
 うに魔女は唇を噛む。テレポートは遠い距離を移動させるほど力を使う。何回も使えるほど気軽な技ではない。
 万が一の時のために最低でも一回余分に出来る状態で余力を残さなければならない状態だった。
「分かった! 急いでッ!!」

 うに魔女たちは第十三城壁に転移され、身構えにかかっていた。
 地平線から煙幕が上がる。ゴーレムが音速を超えて加速をしていた。このまま突っ切る気でいるようだ。
「くっ、まともに戦うつもりないみたいー」
「当たり前でしょう。復讐の為に、わざわざ敵の土俵で勝負する訳ないでしょ」
 焦るルカにジャクリは目を細める。
 脳裏にさーしゃと空猫がよぎる。大陸にはその二人がいるのだ。ここで食い止めなければダメだと気を引き締める。
 大きくなっていく巨体。衝撃波を撒き散らしながら、城壁をぶち破る勢いで突っ込みにかかった。音速によって大気が悲鳴を上げる。
「なんとしても死守しろッ!!!」
 ダグラスと戦士達が総攻撃で一点集中攻撃で足止めにかかる。
 剣閃が飛び、火炎が渦巻き、爆発球が連鎖を重ねる。
「無駄ダワァ――――――――ッ!!!!」
 総攻撃を一気に跳ね返し、破裂した衝撃波が数キロ範囲に撒き散らす。破片が飛び、烈風が吹き荒び、雲の大地を震撼させた。
「うわぁぁぁ――――!! ダメだ――――ッ!!!!」
 吹き飛ばされながらも復元する。だが止められないと絶句する。ゴーレムはそのまま通り過ぎていく。
(パワーが強すぎて止められない!! まだ容量は60万をキープしているッ……)
 一同は危機感を募らせ、自らの無力を呪う。
「ダメ――、行かないで――――――!!」
 うに魔女は這い蹲りながらも掌を差し出す。しかしその呼びかけに応える気は更々ない。
 羽を広げ、飛び立とうとする。
 するとゴーレムの前にいくつかの光柱が舞い降りた。
「見てられねーぜ! 行くぞ!」「どうせうに魔女が交代できねーんなら同じ事だろう」「おお、俺達も参加するぜッ!!」
 ゴーレムの眼前に第一陣であるクロアとライナー達が現れる。
「フェルトー! お願いッ!!」
「うおおおおおっ!! エターナルマナ・ファイナルエッジィ――ッ!!」
 フェルトが先制を仕掛け、交差気味に巨体とぶつかる刹那、放った奥義で真上に弾き飛ばす。
「ウ……オオオオオオオオオッ!!!!」
 次いで、ライナーとクロアが裂帛の気合を発して同時攻撃を繰り出す。剣と槍が刺し貫く。
 凄まじい衝撃波が胴を穿つ。張り付ける様にそのまま大地に叩きつけた。大地を地鳴りが響いた。
 それでもゴーレムは鋭い眼光を光らせ、両手足を広げた。缶型の爆弾が四方八方に放たれ、爆発球が撒き散らされた。
「きゃああっ!!」「うおわぁぁぁ!!」「ぐうぅ!」
 灼熱の熱風が雲の大地を焼き払い、凄まじい衝撃波が全てを木っ端微塵に吹き飛ばす。

 大陸を明るく照らす。不安と恐怖を招く明かり。誰もが震え上がった。
「あああっ、あれはッ……!?」
 ザールブルグの王城からアイゼルは地平線の爆発球に呆気に取られた。
(接近を許したんだわ。やはりこうなるのは必然だったわね)
 背後におぼろげな炎が燃え盛る。五芒星を模した冠が特徴的な巨大な妖精王が悠然と姿を現した。
 地面に響いてくる地鳴り。家の中で、住民は恐怖に震え上がった。時々大きな地震になって、皿が零れ、タンスが倒れていく。
 戦時中の空爆を恐れるかのような恐怖が住民に走った。それでも力なき人々は隠れて耐える事しか出来なかった。

「邪魔ダァァァァ!!! ドケドケェェェェーイッ!!!!」
 両腕を振り回し、戦士達を弾き飛ばす。悲鳴が飛ぶ。
「待て! コラァ!!!」「通させないッ!!」「いい加減、ここで止めろよッ!!」
 ダグラスが切りかかり、フェルトが残像の剣で切り裂き、ライナーが剣閃を飛ばす。
「ウガアアァァァァァ!!!」
 しかしゴーレムは全ての攻撃を地面へ叩き伏せた。衝撃波が雲の大地を突き抜け、風穴を開けた。
「インフィニティィィィ――・スラストォォォォォ――――!!!」
 クロアの全身全霊を込めた突進が割って入る。
 気力を振り絞った連続の突きが巨体を押し、何度も連打を繰り返す。
 しかし振り回された太い腕に巻き込まれ、遠くにまで吹っ飛ばされた。
 遥か遠くに叩きつけられ、雲の噴火が吹き上げた。突発的にココナは彼の名を叫んだ。
「イイカラ、オトナシク復讐サセロォ――!!」
 腕を振り回し、ダグラス、フェルト、ライナーを同時に吹き飛ばす。
 轟音と共に三人はそれぞれの方向に吹き飛ばされ、バウンドして地面から噴火を吹き上げた。
「賢者の……大氷河レヘルン!!」
 ヴィーゼの放つ賢者の石とエリーの放ったシャインレヘルンが放たれ、氷山がゴーレムの足から立ち聳えた。
「まだまだニャー!! サウザントレヘルン・パス!」
 周囲に数十個のレヘルンが生まれ、殺到した。更に氷山は木々のように枝分かれして巨大化していく。
 しかし、極太の光線が氷山を突き破る。そしてそれはザールブルグ大陸にまですっ飛ぶ。
 掠った程度か、それでも城の上方が吹き飛んだ。
 這い蹲ったままうに魔女は荒い息を漏らしながらも、天使のうにっ子を解き放つ。
 次々と再生されていく戦士たち。
「破壊シテ、アリスニ絶望ヲ――――――ッ!!」
 突進を始め、大陸へと目指す。
「させるかァァァァ!!!」
 ライナー、フェルト、クロア、レグリス、ダグラス、ネルが一斉に得物で足払いをかける。
 突進はそこで終わり、回転しながら地面をバウンドした。
 そのまま畳み掛けるようにヴィーゼとエリー、ノルンの追撃が開始された。
「止めるんだ!! 絶対に止めるんだァ――――!!」
 必死になって戦士達は一斉に総攻撃。旋風が渦巻き、大地を震撼させ、爆炎が巨体を包む。
 それを跳ね除けるように立ち上がり、構わず突進を始めた。ザールブルグへ距離を縮めようとする。
「そうはさせるかってんだ!!」
 再び足払いをかけようと数人の戦士が地面を滑る。それを見計らい、ゴーレムは飛び上がってかわす。
「な!!!?」
 そのまま遠くなっていくゴーレムの背中を眺めるしかなかった。
 うに魔女はなんとか羽を羽ばたかせ、追いかけていく。
「ダメ! 単体で飛び出しちゃ……!!」
 レーヴァティルは制止しようとしたが間に合わない。焦りながらも追いかける。
 黄金に輝くゴーレムは大きな口を開けた。顎が外れるかのように更に下へと落ちていく。
 そしてパーツが分解するように顎に合わせて、胴に大きな穴を開けていく。
 収束された光の飛礫。
「うおおおおおッ!! 待てよォォォォォッ!!!」
「止めてぇ――――――――――――!!!!!」
 戦士達とうに魔女が追いかけるが、間に合う気がしない! 絶望に駆られる最中、光線が放たれた。
 扇状に放たれた灼熱の息吹。一気に大陸が吹き飛んだ。破片が砂のように分解し、跡形もなく消し炭にされていく。
 うに魔女はそれを目の辺りにする。
 一気に絶望と悔恨が心から湧き上がった。彼女の中で感情が弾けた。一気に心の扉が開かれていく。そして溢れる深遠の海。
「うおあああああああああああッ!!!」
 うに魔女は絶叫を上げ、空間に雲の巣状に亀裂を走らせ、海がどっと溢れた。それは辺りの空間を支配していく。
 突然吹き荒れた黒い威圧が一気に辺りを支配した。
「あ、あれは……あの時のッ!? ヒトデやマリモの時と……ッ!?」
 戦士たちはうに魔女の豹変に呆気に取られた。
 雲の大地が大きく揺れ上げ、台風のように烈風が吹き上げる。その中心部で黒い何かが起き上がる。
 巨大な黒いうにっ子がギザギザ状の口を広げた。漆黒の渦が纏わりつく。
 まるで指が牙に思えるかのように、手首にうにっ子の顔が生まれていた。
「グゥオオオオ……!!!」
 理性を失い、黒いうにっ子は咆哮を上げた。
 ゴーレムは静かにそれを見据える。
「ドウダ苦シイダロウ? アハハハ、イイ気味ダヨ。ソノママ悩ミ苦シミナガラ殺サレナサイナ!」
 嘲り笑うゴーレムに指差され、黒いうにっ子は怒りのままに敵意と殺気を漲らせた。
「ギャオオオオオオオオンッッ!!!」

「あああ――――!! なんでよぉ――――!!」
 そんな様子にアリスは泣き叫んだ。
「ちょ、理の扉を全部開くバカがいるかってんのよぉ!! 大体私は開かないって言ってたのにぃ!! まさか理の扉を開くと出てくる化け物の正体が"ウロボロス"だったとぉわ―――!!!
 しかもウロボロスと直接繋がっている分、これ以上顕在化を進ませると創世界オジャンなのよぉ――!!
 こんな時にヒロインが鎮めるべきなんでしょうけど、誰もいなかったのが悔やまれるわ――――!!!」
 悶えるように叫び狂うアリスの様子にアクシャカは後頭部に汗を垂らした。
「キミ、なんかやけに説明口調になってない?」


あとがき

 ついにうに魔女も理の扉を開いてしまった!?
 うに女帝やヒトデの時もそうだったように、創世界の世界に亀裂を入れてしまうぐらい禁断の召喚魔法?

 本当は粘って戦う内に、交代しても回復が間に合わなくなってどうしよう? って展開にする予定でしたw
 あれこれ考えを詰めている内に、主人公としてのうに魔女の足りないものを埋める為に、敢えてこういう方向に選択した訳です。
 主人公の足りないものを次々と埋めていくのが物語の一つの核心な訳で、不確定要素に崩す必要がありました。
 こう言うと、行き当たりばったりでいい加減な創作だと言われても仕方ないかもネw

 更に言うと、この話はホワイトサタンの葛藤を書く為に一話分を使おうとしてたけど止めました。
 ここでウロボロスの正体を明らかにしてもいいかなって、出しちゃったw


324話 「悪を見抜けるのは悪!」 2009,7,20
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


 ファビオンゴーレムが吠えながら破壊を撒き散らす。そしてなおも復元していく城壁とその戦士。
 爆発球が広範囲に幾重に連鎖し続ける。
「クタバレァアアア――――――!!!」
 ゴーレムが両腕を振り回し、缶型の爆弾を撒き散らす。驚天動地の爆発球が戦士達を呑み込む。
 しかし何事もなかったかのように戦士達は抜け出した。
「テラブレス!!」「アーンド、インパルス・ブロウ――ッ!!」「インフィニティ・スラストォォ――――!!」
 竜人グレイが灼熱の息吹を吐きかけ、ライナーが連続攻撃を仕掛け、真上に飛ばす。
 そこをクロアの連続突進攻撃で猛攻を仕掛けていく。
 天高くにまでロケットのように巨体を突き上げ、その先には剣を構えていたダグラスが待ち構えていた。
「おっしゃ、シュベートストライクだぁぁぁ――――ッ!!」
 ダグラスが渾身の一刀両断を放つ。天と地を割るほどの剣閃がゴーレムを断ち割る。
 雲の大地が割れ、綿菓子のような破片が吹き飛んだ。
「グアアアアアアア――――ッ!!!」
 凄まじい烈風が吹き荒れ、地面を震わせる。
「おーっし!! フォーコンボ炸裂だぜッ!!」
 ライナーとクロアは手を叩き合う。

「ウッフフフ、みんなパーティで楽しそうに盛り上がっているようだ。どうせなら我を招待して欲しかったな」
 嘲り笑うような不気味な笑顔で、黒い神仏像が虚空から姿を現す。
 遥か上空で高みの見物のように彼らの様子を眺める。
 そして見えない床に座るように胡座を組み、曼荼羅風の光る魔法陣を展開していく。
「今度の『曼荼羅其の九・烈火陣』は回復効力を攻撃力に転化するにする効力。晴天の妖精の為に練り込んだんだ。
 だから、きっとアリスのお気に入りになってくれるさ。ククッ」


 床に本が落ちた。
「な、なんですって……!?」
 アイゼルは驚くべき事を知り、呆然とした。
 ここはアリスの寝所。王室として恥じない物が揃えられている。豪華なベッド、ソファー、テーブル。
 そして壁を埋め尽くすかのように本棚が並んでいた。たくさんの本が隙間なく敷き詰められていた。
 床にはあちこち無造作に散らばっている本。
 本人のいない机には本がたくさん積まれている。夜の星々が覘けるベランダ。一面の壁ごとガラスが張ってあった。
「アリエルって、昔は今の時代よりも極悪非道な悪行を重ねていたの……?」
 かつてアリエルは歴史を変えるほどの悪行を重ね続け、何度も繰り返していた。
 現在でうに魔女たちの奮闘のよって、アリエルの悪行は潰えたと誰もが思っていた。
(思い返してみれば、生命の樹って結構万能の効力を持っているわよね。創世界で使ってきたのを考えれば、錬金大戦での使用はかなりいい加減だったとも取れる……。
 その気になれば、ハウロもうに魔女勢力も太刀打ちできないほどの陣を敷く事も可能だった筈。情報、言動などを規制する効力を持った生命の樹を世界中に敷き詰めれば、それで終わりでしょうし)
「なんで、私達の時代でしなかったっていうの? 侮っていたから……?」
 本を拾い上げ、開く。すると光る液体が噴出する。それは粘着質を帯びていて、徐々に球体を象る。
 アイゼルの目の前にオーシャンブルーに輝く球体が浮く。
(こいつはアリスの極秘情報。生命の樹での魔法文字ルーンでパスワード設定された封印式を普通の本にかけていた)
 本の表紙を見れば、美少年の恋愛物語のような娯楽系のタイトルと絵が描かれていた。
「アダルトな本を封印用に使うとはね。まぁ、プライド高い王族が多いから誰も盗み見る気はないかもだけど……」
 半ば呆れながら、球体に手で触れようとする。
 指が触れた瞬間、球体の表面に波紋が広がる。吸い込まれていく感覚を覚える。膨大な情報が全身を突き抜けていく。
 アリエルが幾千年も長い歴史を生きて得てきた情報の全て。
 創世民のいた時代、千重臨という化け物を練成して戦争の日々を作った。ハートポールと言うヘルミーナみたいな容姿の錬金術士が全てを終わらした事。幾度なくドルニエが出てきてアリエルと共に謎の組織を作り上げてホワイトサタンを封印し続けてきた事。
 失われし大陸で自らの分身であるクゥニーと対立し、敗北した歴史は本人も言っていた。
 それ以外の歴史で何をしてきたのか、本人も言わなかった事がこの本に詰め込まれていたのだった。
 厳しい規制を張って自分の思うがままにしようとしたり、武力で恐怖統制して戦国を支配しかけてたり、捏造した歴史で国を貶めて金を巻き上げたり、宗教で政治を統制して民を洗脳したり、思いつく限りのあらゆる侵略を尽くしていた。
 うに魔女たちの時代とは比べもんにならないほど、残虐な方法でいくつもの国を手玉に取ってきた。
 今の時代に至るまで、アリエルは何度も国を巻き込んだ悪事を働き、そして全て敗れている。
「でも、いずれも直接戦う事なく敗走している……?」
 そこが気になる所だった。彼女は到達者だ。錬金大戦の時を考えれば、単体で国を滅ぼす事も容易。
 自らの手を下さずに悪事を行ってきた風に見えるけど、実力行使してもいいタイミングが何度かあった。
 その当時、うに魔女達ほどの戦闘力を持った戦士は存在していなかったらしい。
 なのに裏社会の普通の悪人がするように、スケープゴートを利用して逃避するような方法で退いていた。
(この事はどこの国の歴史書でも、その時に起きた悪事を記されている。それを繰り返させないように各国は教訓を刻んできた。だからザールブルグやグラムナートはこれまで平和だったのね)
 そのタイミングでアリエルが暗躍してきて、そして自らの実力を見せ付けるように現れた。
 幾度なくうに魔女と直接対決したりしていたのだ。
(そのお陰で彼らはレベルアップして強くなっていった訳だけど……。それが本当の目的?)
「なんで昔に悪事を繰り返していたのかしら? どれも過去の失敗を教訓にしてなかったみたいだし」
 アリエルの意図が読めず、アイゼルは憮然とした表情で星空を見上げた。


 曼荼羅が複雑に絡み合いながら展開されていく。誰も気付かぬままに完成までこぎつけると、嬉しそうに笑みを浮かべた
「はい、そこまでぇ! このパーティに参加する招待券を提示してくださぁい!」
 魔法陣が空中を飛ぶ蛇のように曼荼羅へ襲い掛かった。
「……なっ!?」
 一部が破壊され、曼荼羅は勢いを減じた。更に魔法陣が覆い被さって、少しずつ削っていく。
 意外な邪魔に神仏像はあからさまに驚きに満ちた。
「無断でパーティに入ったらおイタよぉ……。主催者として見過ごせないわ。アクシャカ!」
 銀色の羽を羽ばたかせ、不敵の笑みでアリスは目の前の神仏像を見据えた。
「アリス……!? チッ、何故分かったんだい? 多重の亜空間でステルスしながら陣を敷いていたのに……」
 うろたえながらも動揺を隠すように、目を細めながら問い質そうと睨み付けた。
「こぉんな絶好なタイミングを見逃す馬鹿はいないでしょぉ?」
 ビシッとアリスはアクシャカを指差した。
(バカな……。我は混乱に生じて何人もの獲物を仕留めて来た。今まで仕損じた事はない。大体、何故この位置が分かったッ!?)
「私が貴方だったら、確実にこの時間でこの場所で陣を敷く。爽快でしょうねぇ……。訳も分からずにもがき苦しむ人々を見納めるのは」
 心を見透かされたと、アクシャカは目をおっぴろげた。
(コイツ……、策略家の心理を知り尽くしているのかッ!? いや、我の性格も把握されて……?)
「Yes!!」
 アリスは鼻で笑い飛ばす。
「ウッフフ、してやられたよ。まさか、そんな簡単に見破られていたとは思わなかった。流石にムカつき加減度が高いよ……」
 再び曼荼羅を描くアクシャカに、アリスは表情を強張らせた。それを阻止する為に魔法陣を描く。
 両者の魔法陣の羅列がぶつかり合って相殺されていく。
「アンタッ!」
「ウフフ、動揺して退くと思ったのかね? 少しはダンスに付き合ってくれたまえよ」
 更に曼荼羅は勢いを増し、広がっていく。アリスは唇を噛み、指を躍らせる。
「生命の樹セフィロト!! 曼荼羅陣をアンインストールせよ!!」
 花火のように煌きが散った。
「ああー、なんでよぉ! 激昂して襲ってきたり、ビビって逃げ出すと思ったのにぃ!」
 コミカル調に両腕を振り上げて不満を漏らす。
「言葉を返すよ。君にはずいぶんと借りがあるのでね。激情して痛い目にあった事があるんだ。だから、今度は冷静に君の事を見るよ……」
 アリスは動揺の表情を浮かべた。ある人物像に投影し、何かに気付いた。
「アンタッ! やっぱりホワイトサタンの命令で来ているのではないのね!!」
「Yes! そ〜の通りよッ」
 ニンマリと笑みを浮かべる。それはこの布陣で勝利を確信しての満面の笑みだった。
「うに魔女と交代しながらやる予定だったのに! 話が違うじゃないのぉ――!!」
 アリスはコミカル調に怒り狂いながらも、指を踊らして文字をなぞっていく。
 編み込まれた魔法陣が絡み合い、互いの尾を食らうように削りあっていた。


「みんな、後は頼みます!」
 会釈し、クロア達は光柱の中に消えた。代わりにセロット、ネル、ノイン、レグリス&アマリエ、マッキー、エリー、ヴィーゼが揃って姿を現した。
 その他の騎士達も交代してたらしく、元気満タンの様子で現れる。
 そしてレーヴァティルもオリカ、ミシャ、ラステルからクローシェ、ルカ、レプレに入れ替わっていた。
 ジャクリだけは相変わらず場に残って妖しい笑みを浮かべていた。
「よっしゃ、第二陣か! 負けられないぜ、うおおおおおおお!!!」
 無様な所を見せられないと思ってか、一番に切り込んでゴーレムを叩く。数千もの数値が弾き出される。
「そんなに張り切ったらバテちゃわない?」
 うに魔女は苦笑い。
 ダグラスは到達者級の騎士なので一日交代でやる事にしていた為、残っていたのだ。
「ワンダフル・スターワッカ!!」
 セロットは頭上に星の形をしたワッカが浮かび、キラキラと煌き始める。
 レグリスは両腕に装備された盾を回転させ、アマリエは弓を取り出して矢を添えた。ノインは鉄のグローブを握り締める。
 マッキーは銃弾に弾を込める。
 槍のようなレイピアを引っさげて、ネルはダグラスを追いかけるように疾走していく。
 ヴィーゼは杖を振り上げ、練成を始めた。大量の源素がかき集められ、たちまち真紅に染まった宝石へと形を変えていく。
「いくわよー、メガフラム百個大奮発ッ! えーいっ!」
 エリーは図鑑からメガフラムをばら撒き、一斉に爆発の連鎖を起こす。ゴーレムは突然の爆炎に包まれ、怯んだ。
 それを機に、戦士達は一斉に飛び掛った。
(頑張って! みんなっ!!)
 うに魔女は必死に焦りを抑えながら、晴天の妖精を維持し続けていた。
 ファビオンゴーレムの真上の数値は70万そこそこのまま。まだ残量に余裕が残っていた。
(どこまで持つか分からない。けど、踏ん張らなくっちゃ!)
 額の汗が滲む。気張った表情で、足元の花畑を展開し続けていた。その花畑に戯れるように天使のうにっ子が飛び交う。
 ゴーレムは佇むまま一身に攻撃を浴び続けながら、双眸を赤く光らせた。
(コノママデハ……カテナイダワ。ナラバッ)


あとがき

 一転一転と戦況が変わっていく……はずなんだけど、下手な展開ですみません。
 ゴーレムは怒り狂っていたが、長く続かない。いつしか落ち着くようになり、何を見据えていくのだろうか?
 冷静に戦況を見れる人ほど、厄介な相手はいないからね。
 次回の話でとんでもない事になるのかもーw(^^;

 アクシャカの介入について、今回は考えていなかったのです。
 ですがアクシャカ自身の考えでいけば、そんな好機を見逃すはずはないですもんね。
 それから、実は分身ジェロニモのような状況が起きてたりしますw(汗
 マッキー継続してるかもw あと交代陣、なんか偏ってない?
 ライナーやクロア、フェルトらが一斉に抜けたようなもんですし。チョイスミスしたかも。(−−;


323話 「まさにゲーム展開!」 2009,7,19
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


「アリスゥゥゥゥオオオオオオ――――――!!!!!!」
 蓄えられた憎悪が解き放たれるように、ファビオンゴーレムの咆哮が嵐を呼び起こす。
 吹き荒ぶ激しい突風は、足を踏みしめて堪えるのも精一杯なほどだった。雲の大地が騒ぎ、防波堤のように聳え立つ城壁は震えた。
 今にも崩れ去りそうな地鳴り、飛び交う岩飛礫。上空には稲光を発する暗雲が渦巻く。
 まるで世の終わりが来るかのような雰囲気に誰もが戦慄を覚えた。
「マナ・チェンジ!!」
 勢いよく横一線に閃光が煌き、風貌を変えたダグラスが姿を見せた。
 "光白華の聖騎士パラディン・オブ・ホワイトニング ダグラス"
 白く輝く鎧を纏い、鏡のように澄んだ剣が煌く。その雄姿に、ネルは体を奮い立たせた。
「おい、戦うんだろ? ビビってると、本当に全てがしまいになっちゃうぜ!」
 ダグラスの檄が飛び、ライナー、クロア&ココナ、ジャック、デルサス&マレッタ&ノルン、テオ、その他の聖騎士隊、フェルト、フィー、グレイ、ポウ、うに姫は気を引き締めた。
 テオも武者震いに震え、口元が不敵の笑みに変わる。
(さすが、聖騎士隊長ダグラスだ!!)
 マナチェンジできるものは全員、次々と容姿を変えていった。
 うに魔女は彼らが戦闘態勢に身構えるのを見て、支援しようと舞い踊る。咲き乱れている花畑から、うにっ子が続々と花の蕾から顔を出し、縮んでいた翼を伸ばしていく。
 晴天の妖精状態は人間の時と違い、念じるだけで源素が自然に集まってくる。そして遠く離れた位置からでも練成が可能だった。
 まるで天国の花園を飛び交う天使のように、無数のうにっ子は飛び交った。
(こちらは準備オッケー!!)
 うに魔女の頷きにダグラスは笑む。
「行くぞ!! デカブツッ!」
 戦士たちは一斉に地を蹴った。
 その時、ファビオンゴーレムは太い腕を重たそうに上げた。刹那、その腕が左右に薙いだ。
 振り払うように灼熱の息吹が雲の大地から噴出した。それは大陸を飲み込まんとするほどの広い範囲で噴き上げる。
 まさに太陽の表面をその地表に召喚したかのように、その光景は明るく白く輝いた。
 戦士たちは一瞬にして飲み込まれる。白光の光景の最中の刹那の一瞬で、鎧は蒸発し、皮膚が吹き飛ばされ、肉が削げ落ち、内臓や脳漿などあらゆるものが融け、最後に白骨は崩れ落ちていく。
 跡形もなく戦士達は蒸発。
 創世卵の聖域を揺るがすほどの震撼が弾けて伝わった。凄まじい熱風が周りのもの全てを焼き尽くし、溶け尽くし、そして吹き飛ばした。
 数百キロ程度の比較的近くの福餅族の町も数百度の高熱に晒され、生き物は苦しみもがきながら黒炭に縮んでいった。
 とてつもない眩い光すら遥か彼方にも行き届き、目に入った人は目を押さえながら転がった。
「アリス、シんだ! シんだ!! シんだァァァ――――!!!」
 灼熱の世界の最中、ゴーレムは歓喜に叫びを上げた。正気を失ってさえも、その結果を見納め喜んだ。
 しかし、灼熱の息吹が収まると共に何事もなかったかのように、城壁防波堤とライナー達が無事な姿で現れた。
 微かに所々、光飛礫が淡く弾けていた。
「ガ、ウォノレェェェェ!!!」
 理由すらも分からずにゴーレムは口惜しそうに唸りを上げた。
「諦めない限り、何度でも復活するわ!!」
 白い羽を羽ばたかせ、うに魔女は力強く吼えた。広がる花畑と共に、天使のうにっ子が飛び交う。
 回復アイテムと同質のうにっ子が、破壊されてしまった全てに効力を発揮した。晴天の妖精の影響下にある回復アイテムは通常の数千倍もの効力を発揮できる。
 例え、一瞬にして蒸発してしまってもたちどころに復元され、元通りにしてしまうのだ。
 ダグラス達は胸を撫で下ろす。
「……上手くいったようだな。でもあれが"死"か。痛くも痒くもなく、自分がなくなっていく。今でも信じられねぇな」
「はー、ドッキリしたわよォ」
 うに姫は疲れたような顔で肩を落とした。
 呆然としたココナはクロアに見やる。クロアは微笑んだ。
「な、大丈夫だったろ?」
「うん……」
 ファビオンゴーレムはその女性に目が行く。アリスの面影を見出し、怒りの眼差しを向けた。
「アリス、コロしてやる! コロしてやるゥゥ!!」
 その時、巨体の懐に飛び込む影。途端に、無数の打撃が巨体を打ち据えた。すると連続で150前後の数値が飛び出してくる。
 さっきの衝撃でぐらりとよろめく。
 一同は目を凝らせば、フィーだった。鎌のようなトンファーを両手に握り締め、緩やかなフットワークで佇んでいた。
「アインツェルカンプ……! 今だ、続け!!」
「おお!!」
 フィーの号令と共に、ライナー達は地を蹴った。
「プラティナ騎士団ライナー流・フルスタンプ!!」「クロアランス・ブースタースラスト!!」「ブラストフィル・ダンス!!」
 ライナーの一振りで胴を打ち、クロアが突進して肩に強打。ココナは詩を謳いながら舞って、顔面に打撃を叩き込む。
 すると180、220、60+70+59+64+67+72+64と数値が巨体から弾き出された。
 呆然とするフェルト達の側に、アリスの顔が映し出されたモニターが浮かぶ。
「数値出たと思うけど、それはファビオンゴーレムの蓄えられたレベル数値の消失数値。ダメージを与えたり、攻撃を放つたびに弾き出されるのぉ。それを目安に戦いなさぁい」
 気付けばゴーレムの頭上には「987654」と数値が浮かんでいた。
「へっ、あれがファビオンゴーレムの最大ヒットポイントって事か。面白ぇ!!」
 ダグラスは自嘲気味に笑みを浮かべた。
「うるさいハエどもめ――――!!」
 怒り狂ったゴーレムは手刀を天に掲げ、一気に振り下ろす。
 ガツンと凄まじい衝撃波が吹き荒れ、大地もろとも全てを木っ端微塵に打ち砕いた。そして平均5000もの数値が何度も飛ぶ。
 破壊範囲は急激に膨らみ、雲の大地をなし崩しに吹き飛ばしていく。
「リフュールオールこと、うにセラフ!!」
 六枚の天使の羽を供えた巨大なうにっ子は緩やかに浮かび上がり、数千もの羽毛を撒き散らす。
 光球が灯っていき、次々と戦士達は元通りの姿に復元されていく。
「なんかゲームやってるみたいだな。おい」
「……だな。こちらから出る数値がダメージ値みてぇだ」
 ライナーとジャックは苦笑し合う。
 実際はゴーレムが繰り出した攻撃で放出されたレベル数値である。
「よーし、こちらもっ! ファントムエッジ・ガイアニードル!!」
 フェルトは地面に向かって剣を突き刺す。雲の大地から数え切れないほどの残像の剣が突き出てゴーレムを刺し貫く。
 平均200の数値が連続で出る。
「ガガ……ァッ!?」
 地獄から召喚されたかのように剣の針地獄によって、煙幕と共に巨体が仰向け状態に突き上げられた。
 上空からダグラスが急降下。気合と共に剣を振り下ろす。
 渾身の一撃必殺の軌跡が四つ重ねられた。
「シュベートストライク"四界"!!!」
 四つの巨大な剣閃が雲の大地ごとゴーレムを切り裂く。轟音が鳴り響き、破裂音を響かせ、生じた衝撃波が弾けた。
 破片が吹き飛び、嵐のような旋風が吹き荒れた。
 一気に平均1300もの数値が四回弾き出され、ライナー達は目を丸くする。
「うわ、すげ……!」
「あいつ大会では見かけなかったが……? しかし、そんなに凄い奴だったとはな」
 竜人間のグレイは感嘆を漏らす。
「負けないわよォ!! うに猛虎奮迅撃ィィィ――――ッ!!!」
 血気盛んに叫び、うに姫はうにを拳にまとう。突進しながら拳の弾幕を巨体に叩き込む。210の数値が出た。
「行くにゃ! エアロナーゲルッ!!」
 既にマナチェンジを済ませて、パワーアップしていたノルンは半透明のブーメランを投げつける。
 高速回転を繰り返し、削り散らすように股から始まって、胴、胸、顔面へと通り過ぎていく。風の刃が金属を刻む、金切り音が響く。
 連続して平均200の数値を叩き出す。
 銃持ちのジャック、マッキー、ポウが銃弾を撃ち、爆音が轟く。ばらつきが激しいが、平均80前後の数値が何発も飛ぶ。
「グアアアアアアアア!!!!」
 痛みに怒りを覚えて奮起し、大の字に両手足を広げると共に、無数の缶を四方八方に放つ。
 増殖するように巨大な爆発球が連鎖し、戦争でも起きたかのように大規模に破壊範囲が広がっていった。
 同時に1000〜6000もの大きな数値が何度も幾重にも飛び交っていく。
 灼熱の白光が大地を蹂躙し、全てを解かし、ありとあらゆるものを跡形もなく消し飛ばす。
 コブを膨らますかのように、球体状の創世卵の聖域の表面に一つの爆発球が顔を見せた。
 凄まじい地震と突風は雲の大地のみならず、ザールブルグとグラムナートの併合大陸にも及んだ。
 突然停電し、揺れる教室。
「きゃあ!!」
 生徒達は大きく揺れる地震に驚き戸惑い、混乱に陥ってしまう。机に隠れたり、教室から逃げ出したり、震えたまま縮こまったり、様々な反応を見せていた。
 魔女ヘルミーナは机にしがみ付き、立ち堪えながら汗を垂らす。
(気が気でならないわ。想像を超える戦闘が繰り広げられている……。負けてたりしないでしょうねぇ)
 流石の彼女も不安そうに曇った表情で窓を見上げた。稲光を発する暗雲が立ち込めている。

 何にも残らぬ風景をうにっ子が飛び交い、光飛礫を撒き散らす。
 そして細胞レベルから完全に復元されていくフェルト達。構わず攻撃を繰り出し、数値を出していく。
 何度でも復活する彼らにファビオンゴーレムは怒り心頭に表情を歪めた。うに魔女を見据える。
「グゥゥゥ!!! アリスゥゥゥゥ――――――!!!!」
 咆哮と共に、周囲の戦士達を爆炎と共に弾き散らす。
 怒りに赤く染まった頭上を向け、その砲身が覗く。収束されていく光の飛礫。目標はうに魔女。
「ファビオン・アルティメットカノン――――ッ!!!!!」
 爆音と共に勢いよく放たれた極太の光線はあっという間にうに魔女を飲み込み、羽を散らした。
 そのまま地表を抉り、軌道上のあらゆるものを貫き、雲の大地を幾重に突き抜け、そして零階層に舞う破片を消し飛ばしながら過ぎ去っていった。
「うに魔女――――ッ!!!」
 粒々がくっつきあって人の形を成していく。見る見る内に彼女は復元されていく。白い羽を羽ばたかせ、不敵な笑みを浮かべた。
 ゴーレムもフェルト一同も驚きを隠せない。
「な、なんですって!!?」
「ガガ……!?」
 晴天の妖精と言えども、自身に復元は効かない。
(最初の攻撃でも数百キロも及ぶ破壊範囲だった。うに師匠も巻き込まれたんだろ? なんでだよ?)
 疑問に首を傾げるテオ。
「だから、あたし達がいるのよ!!」
 懸命に謳うオリカとミシャ。詩は紡がれ、その歌が風に乗って広がっていく。
「そうか! 晴天の妖精の影響を受けた回復系詩魔法は極限にまでパワーアップされ、復元レベルにまで高まったんだ。それをうに魔女にかけているんだ!」
 マッキーは彼らの意図に気付き、解説をした。
 ライナー達は笑む。
「ほー、そうなると相手がどんなに桁外れに強くても復元のループで粘って勝とうって策ってなるな!」
 ダグラスは不敵に笑む。グレイは無言で頷く。
(理論上は確かに無敵だろう。ただ、晴天の妖精は莫大な力を使うのではないのか?)
 晴天の妖精は生き返らすほどの巨大な力を有しているが、その時に消費されるエネルギーは想像できないほど多い。沢山の人を生き返らせれば、あっという間に底をつく。
 それは晴天の妖精を知っている人には周知の事実。そしてライナー達も作戦会議で詳細を知った。
 グレイはうに魔女の表情を一瞥し窺ったが、まだ余裕が見て取れた。
 うに魔女は自信ありげに笑む。自分でも驚くほどの余裕が自身からも感じられた。
(回復アイテムを作り出せば、晴天の妖精による消費はかなり激減する……。今までの私なら知らなかった事。クライスはその事に気付いていたのね)
 内心、クライスに感謝を告げた。そしてうに魔女は白い羽を羽ばたかせた。天使の羽を羽ばたかせ、うにっ子が飛び交う。
「アリスゥゥゥゥ、ゥオノレェェェェッ!!!!」
 憎々しげにファビオンゴーレムは歯軋りした。
 

あとがき

 でた! インフレをものともしない策!!
 タイトル通り、HPの馬鹿でかいボスを相手に回復しまくりながら戦う展開。
 流石に復元するとかはないでしょうが、流れそのものはゲームっぽいでしょw(*^ー^*)

 そんな凄い事を今までやらなかったのは、うに魔女がそんな事を思いついていなかったことですネ。
 それでなくても出来なかったかもしれません。
 うに女帝の"鎮魂歌の鈴"、そしてテチャックの四神が繰り出す洗脳技や"理の扉全開のマリモ増殖"など、いやらしい効力で攻めてきていたので通用はしなかったでしょう。
 だけど、今回は単純な力勝負でのインフレが相手です。

 まぁ、相手が力尽きる前提じゃないと粘り勝ちは無意味ですケドw
 フリーザに最終形態100%出させてピークを過ぎさせたり、ハオに巫力を出し尽くさせたりさせるようなもんかな?

 この復元エンドレスでゲームセットか!? ←なってないフラグww


322話 「レベル100万の敵!」 2009,7,18
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


 嵐の前の静けさ、しかし上下に立ち込める雲の大陸は黒く淀んでいた。
 木の葉が舞い、路地を抜けるように吹き抜けていく寂しげなそよ風。
「大丈夫かな?」
 空を見上げ、リノコは曇った表情で呟く。その他の大勢の生徒も不安そうに小言を言い合う。
「そろそろ教室へ戻りなさい」
 通りかかっていた魔女ヘルミーナは険しい表情で咎める。
「あの、校長先生。本当に大丈夫なんですか?」
 多数の生徒が教室へ戻る最中、リノコは魔女ヘルミーナの前へ歩み寄る。
 厳粛な表情でリノコをまじまじ見つめると、妖しげに笑む。
「気持ちは分かるわ。けど、あの人に任しておけば心配無用でしょうね。分かったら教室へ戻りなさい」
「……はい」
 リノコはそう頷くと、魔女ヘルミーナを通り過ぎて行ってしまう。
 生徒たちがいなくなり、彼女一人。しばしの沈黙。遠くを見つめるような目で空を見上げる。
「しくじったら承知しないからね。うに魔女」


 ザールブルグとグラムナートが重なった併合大陸。その地点から、遥か数千キロ離れた所で。防波堤のように、高さの異なる城壁が阻んでいた。
 左右に行き渡った城壁は途方の彼方までに延び、どこまで続いているのか想像できない。
 そして、幅は実に一キロもの距離で幅広く、高低差が目立つ。大陸への方向ほど、高くなっていた。
 前線地域では疎らに戦士風の人々が散開。そして最後方の城壁の頂上辺りには一人の女性を筆頭に数人の女性が一定の距離で離れて待ち構えていた。
 筆頭に立つ女性はうに魔女。既に晴天の妖精状態で、白い羽を伸ばしている。足元に花畑が咲き乱れている。純白のウェディングドレスを纏う。表情を引き締めている。
 目の前にモニターが浮かぶ。
「そろそろ来るから!」
 アリスは険しい表情で警告を促す。
 うに魔女と同様に、目の前に現れたモニターに緊張を走らせる一同。
「……なんだか緊張するぜ」
 ライナーは僅かに身を震わせながら、近くの浮かんだモニターの中にいるクロアにぼやく。
「ああ、そうだな」
 クロアは素っ気なさそうな口調で返す。しかし、内心では緊張して強張っていた。
 側を見やると、ココナは全身を震わせて表情を強張らせていた。クロアは優しく彼女の頭を撫でる。
「大丈夫だ」
「本当に? 死んじゃう事はないってアリス言ってたけどホント? 嘘だったらぷーのぷぷーだよっ」
「いや、確かだろう。アリスは確かな勝算を見出しているからこそ、この作戦を実行する意義がある。それに俺がついている」
 クロアはココナの肩に手を置く。少し安堵したのか、ココナの震えが静まっていく。
(怖くて仕方がないのも無理ないな。俺だって怖い。怖くないなんてのは嘘だ。しかし、敵のレベルが信じられなさ過ぎて目を疑ったよ)
 溜息をつく。

 作戦を練る為に、ライナーやクロア、そしてダグラス率いる聖騎士隊を招集された会議部屋。
「レベル100万!!?」
 どよめく一同。絶句する聖騎士隊。ダグラスも汗を滲ませる。彼らの様々な反応にアリスは目を細める。
 アリスがこれから来るであろう残党の巨人兵器のレベルを告げたのだ。
 あらかじめ、彼らには自分のレベルを知らせた。数千程度の数値。彼らはその差であらゆる意見が飛び交った。
 ライナーは自分がクロアよりも低いレベルだと言う事に対し不満の言葉が漏れた。
 だが、うに魔女のレベルが五千八百だと言う事に関してはフィーもクロアも見開いていた。自分より下のレベルの相手に負けたのだから。
 しかし、機転を利かせた戦術でレベルの差を気にしなくてもいい事実もあるため、彼らは納得した。
 そうした事を踏まえて、敵のレベルを告げたのだった。
「作戦に参加したくなくなってきたら、去りなさぁい。別に咎めはしないわ」
 アリスはそう告げ、引き気味になっていた聖騎士隊は逃げる言い訳を並べていた。それに対し、テオは自分のレベルの低さに憤慨していた為か、勇敢にも参加を決め込んだ。
「オレは絶対に退かねぇぜ! 守るもんを守らねぇで"戦士"と名乗るなんて、伊達もいいとこだろ」
 ダグラスもそんな風に平然と強気な発言で参加を告げ、それが引き金となってか数人が踏み止まった。
 そして、皆の前でアリスは戦略の説明を述べていった。

 食堂のような広さの控え室で落ち着きなく、クローシェは歩き回る。緊張してしょうがないのだ。
 同室にはセロット、ネル、ルカ、ノイン、ジャック、レグリス&アマリエ、マッキーなどが黙々と座する。
 やけに静かで重苦しい空間で、クローシェの踏み鳴らす音だけが響いていた。
「ねぇ、落ち着きましょう〜」
 ルカは耐えかねたのか、俯いていた顔を上げた。
「落ち着いていられますか! そうやって半日もここで待機させられるのですよ!」
 我慢できない、と言わんばかりにヒステリー気味に声を上げる。
「それも作戦の内だろう。戦場の最中で待つ事もまた、戦う事と同じだ」
「そうだぜ〜。レグリスってたまにいい事を言うね〜。交代する為に控えている訳なんだけどさ、お嬢ちゃん?」
 解すようにセロットが軽い口調でしゃべりだす。しかしクローシェにきつく睨まれ、萎縮する。
「お〜怖。気丈な方で……」
「無理もないよ。だって、これから実行する戦略って危険な賭けなんだ。あたしだって死ぬのってどういう感じなのか気にかかることだけど、何回も死んじゃうって言っていたからね。まともな神経なら信じられない作戦さ」
「……そうだ。言っちゃ悪いが俺も信じられん」
 ノインの言葉にレグリスが同意する。
「でもでもさ、どうして参加しちゃうの〜?」
 今度はアマリエが不安そうな顔で一同を見渡す。
 普通なら作戦の内容を疑い、疑心暗鬼から不参加を決めてしまう。
「うに姉さんだからだよ」
 割って入ってきたのはマッキーの言葉。場にいたものは皆、彼に視線を注ぐ。
 少年も恐怖で顔を真っ青にしながら、震える拳を握り締めている事が窺えた。
「そうよね〜、うに魔女も妙な特殊能力を使ってたもんね。大予選の時、蝶々の羽生やしてたモン」
「それだけじゃない。彼女には信じさせてしまう何かを秘めているのだ」
「そうだ、うに魔女はその信じられない奇跡の力で数々の困難を打ち破ったからな」
 今度はマレッタが立ち上がる。
「おお、そうだぜ! 俺が見込んだ女性なんだからな」
 マレッタの肘が彼の脇を鋭く突いた。
「あたしも信じるにゃ! うに魔女はあたしをソネの呪いから救ってくれたにゃから!」
 それに触発されてか、ネルが立ち上がる。大きく目立つ胸を張る。
「……あたしも信じるよ」
(本当は信じられない気持ちの方が強い。けど、フォルトナー女王が命を賭して"エクスクーラリオ"の力を託した人だから……)
 唇を噛み締め、押し寄せてくる不安に精一杯堪えている様子に、一同は心情を察する。
「そうだな。ダメもとで信じるしかねーよな」
 ジャックはヤレヤレと肩を竦ませる。レグリスも無言で頷く。
 どの道、尋常ならざるレベルの敵が攻めてくる。アリスが述べた策を受け入れようが受け入れまいが、侵略を許せば一貫の終わり。
 そうなれば再びテチャックのような独裁体制が敷かれ、絶望と失意の中で暮らさなければならなくなる。
 なにせ、相手は百万のレベルの敵。普通に武力で戦っては絶対に勝ち目はない。
 だからこそ、うに魔女の持つ妖精王の力を中心に戦略が立てられたのだ。
(レベルのインフレを埋めるには理論的に正しい筈だ)
 数々の戦略を目と耳で覚えてきたレグリスも信じられない作戦内容だが、これしかないと腹を括った。
「みんな、先行は頼んだぞ……」
 レグリスは千里眼で向こうを見るような目で呟く。

「本当に上手くいくのかな?」
 呑気な口調でフェルトはモニターに映るヴィーゼに視線を送る。
「多分……ね。でも、ここで踏ん張らなきゃイリスちゃんがいる大陸が危ないんだから!」
「ああ、必ず止める!」
 表情を引き締め、剣の柄に手を添える。
 緊張する胸の高鳴り、腰に差したエラスムスの形見の剣に心の中で語りかける事で心を宥めた。
「来たぞッ!!」
 吼えるダグラス。その言葉に反射し、ライナー、クロア&ココナ、ジャック、デルサス&マレッタ&ノルン、テオ、その他の聖騎士隊、フェルト、フィー、グレイ、ポウ、うに姫、は表情を引き締めた。
 空のどんよりした雲が動きを変える。雲の大地が蠢き、城壁にも振動が伝わる。
 地平線の彼方で、何かに押しのけられるように雲が捩れて行く。
 滲みこんで来る威圧が息苦しく感じる。
「……く!」
 晴天の妖精の羽を羽ばたかせ、唇を噛むうに魔女。そして、後方の陣に配置されているジャクリ、オリカ、ミシャ、ラステルなどのレーヴァティルが息を呑みながら、彼方の地平線を眺める。
 徐々に橙に滲んでくる。こちらを目指して太陽が押し寄せてくるような錯覚を覚えるほどだ。
 小刻みに震えていた振動も大きくなっていく。
 前線で待ち構える戦士達も固唾を飲み、身構える。
 途端に、爆発球を重ねた津波が雲の大地を焼き払って押し寄せた! 破片が風に乗って飛んでくる。
 吹き付ける突風。吹き飛ばされまいと踏ん張る。
「アリスゥゥゥゥ――――ッ!!!」
 絶叫を上げて、一体のゴーレムが威圧を放ちながら巨躯の姿を見せた。
 まるで山のように聳え立ち、上空の雲の大地に及ぶ勢いだ。ライナー達は呆気に取られた。
 キャタピラを備えるドレススカート。胴や胸など至る所に、数え切れないほどの缶が並べられ、ガラスで覆う。頭はジュースの缶を模して作られていた
 まるで黄金に輝く自動販売機をロボット化したような姿だ。
「みんな、行くわよ! ここから絶対に通さないッ!!」
 うに魔女は羽を羽ばたかせ、叫ぶ。一同もモニターを通して頷く。
「アリスゥゥゥゥ――――――――!!!!!!」
 猛獣のように獰猛な咆哮が響き渡り、大地を揺るがしながら嵐のような烈風が吹き荒ぶ!


あとがき

 ドラゴンボールで例えると、第二形態フリーザ(100万)を前に初期ベジータ(18000)とナッパ数人(各4000)が戦いを挑むようなもんでスw
 マンキンだと、ハオ(125万)に対して葉(1万)と蓮(5721)数人かな?
 普通に考えれば絶望的な力の差じゃんw
 何回全滅すれば勝てるんだよーw

 ここからは描写命。インフレした力の描写は意外と難しいのです。
 数値や勝負の優劣だけで力の差を描写する作家は結構多い。数値が信じられないほど高くても、破壊描写は毛が生えた程度で雰囲気でインフレを感じるだけのシーンも多い。
 姿形で強そうなのを思わせたり、パワーアップさせて勝負の優劣を見せるだけで終わってる事もある。
 上手くインフレした力の描写を描けている作家は限られてます。

 何を隠そう、実は私も描写不足で矛盾を生み出した事もあるので、痛感してたりします。
 と言う訳で私も頑張らなくちゃね。


321話 「仕組まれた勧善懲悪」 2009,7,17
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


 うに魔女の足元に花畑が咲き乱れ、床や壁に広がっていく。そして彼女の背中から白い羽が羽ばたきながら生えていく。
 大気の濃度が上がったように何か抵抗感を肌で感じる。
 花吹雪が所狭しと廊下に吹き荒れる。幻想的な光景にヴィーゼは息を呑んだ。
(こ、これが……うに魔女の晴天の妖精!?)
 間近で見える普通ではないものに息を呑む。大会では遠くから見ていたが、近くで見ると印象が違って見えた。
 そして暖かい光が体を突き抜けてくるような感覚を覚える。
「くそォ……!」
 鬼蛸族のヒロは悔しがり、萎びたナイフを床に投げ捨てた。跳ねず、転がらず、僅かなバウンドの後、そこで留まった。
 首を締め上げているリノコを絞め殺そうと力を入れる。
 しかし空気のクッションのようなものがリノコを包んでいるかのように、首を締め切れない。
 懸命に力むが、震えるまま全く食い込まない。
「くそぉ――――ッ!!」
「離しなさい!」
 うに魔女は掌を向ける。花吹雪が螺旋に撒き散らされ、ヒロを吹き飛ばす。
 リノコはすり抜けるように彼の腕の元から滑り落ちた。空気がクッションになるかのように落下が緩み、静かに床に寝転がる。
 吹き飛ばされたヒロは行き止まりの壁に背中を打ちつけた。
「がッ……!」
 そのままずり落ちる。ヒロは汗を滲ませながら、畏怖と怨恨を混ぜたような表情で見上げた。
 悠然とうに魔女はゆっくり歩き始める。咲き乱れる花畑も後をついていく。
「……え!? な、なに?」
 リノコは上半身を起こし、瞬きする。状況が飲み込めないようだ。
「大丈夫!?」
 しゃがみ込んできたエリーに、リノコは戸惑いながらも二回頷いた。
 庇うようにヴィーゼは二人の前に立つ。
 うに魔女とヒロは互いに視線をぶつけていた。ヒロは憎悪の眼差し、うに魔女は厳粛な目線で対峙。
 しばしの間を空けて、うに魔女は羽を引っ込めた。それに従い、花畑も萎縮して散っていく。花吹雪も虚空へ解け消えた。
「悔い改めれば、これ以降の生活を保障するわ。これから数多くの異世界人が集まってくる。そこで見聞を広めて仲良く――」
「ふざけるなぁぁぁぁ!! 貴様が苦しんで死んでいく所を見なきゃ気が済まないんだよぉぉぉ!!!」
 いきり立ち、うに魔女へ掴み掛かる。うに魔女は溜息。
 倒す覚悟を決めようとした矢先、鋭い一筋の光線がヒロの胸を貫いた。
「……な!?」
 胸と口から零れれる血。震えながら、手に濡れた自分の血を眺める。
 うに魔女は振り向いた。階段を上って、上半身から少しずつ姿を現す少女。黒い髪。赤き模様が彩る。色っぽいボンテージ。ねめつけるような視線。
「ジャクリ!? なんでッ?」
 彼女の疑問を一笑するべき、唇に笑みが歪む。
「どうせ彼は話を聞いてくれないでしょ。復讐を諦めるつもりはないし、改心する様子もないからねぇ……」
 よろめくヒロ。口惜しやとばかりに血眼で睨む。立ち堪えながら歯を食いしばる。
「く……そ……。ここで……仇を取れないとは……。僕は……僕はッ……」
 力が抜け、床に手を着く。苦しそうに表情を歪ませ、口から血を零し続ける。狼狽しながら頭から倒れる。
 地に伏し、血の絨毯を広げていく。
 うに魔女はしばらく眺めていたが、放っておくのを耐え切れなくなったのか、切羽詰った表情に歪む。
「うにエンジェルッ!!」
 叫びと共に、宿の窓を割って天使のうにっ子が急降下した。そのままヒロに突っ込む。光飛礫を撒き散らし、癒しの光が溢れた。
 その様子にエリーとヴィーゼは呆然。ジャクリは仏頂面で見下ろすが、笑みに歪む。
「ふふ……、アリスと違って甘いわね。アナタ」
 うに魔女はジャクリに真剣な表情を向けた。
「ジャクリ、彼とは私との問題よ」
「ふぅん? それでも彼は感謝しない。感動しない。謝罪もしない。それでも?」
「……見殺しに出来ないわ」
 毅然と言い返した。うに魔女の澄んだ双眸。後悔する事になっても、それが出来ないと顔に出ていた。
 ジャクリはそんな彼女にライナーを投影した。
 かつてジャクリ自身がミュールだった頃、シュレリアの管轄にある塔を乗っ取って世界を左右する大事を引き起こした。
 普通の人なら、ミュールは倒すべき存在。だがライナーはそれを選ばなかった。
 彼女を理解しようと努力をし、そして戦った。倒す為の戦いではなく、和解する為に戦ったのだ。
(ライナーは私の凍りついた心を解かしてくれた。彼以外にそんな甘くて馬鹿な人なんていないと思ったのだけれど)
 自嘲気味にジャクリは笑む。
「偽善者ね。晴天の妖精の効力が利かないのに、そんな大した口を叩いてくれる……」
 目を細めながら、鋭い事を告げた。うに魔女は見開く。エリーが目配せしてくる。
「……うに魔女! VIOの時のように属性を転化させて転生させる事は出来ないの?」
「無駄よ。出来るものならとっくにそうしているもの。彼らは何故か、絶対的に殺される為に作られている――」
 代わりにジャクリがかぶりを振り、答えた。
 うに魔女は彼女の言っている事が間違ってない事に、息を呑んだ。
「まさに"悪役"でしょ?」
 ジャクリは残酷な事実を突きつけるように、ズバリと一言を告げ場にいる人を唖然とさせた。
 その反応を面白がるようにジャクリは粘着質の笑みを浮かべた。
「貴様ら! なぜ、僕を助けた!!」
 怒鳴り声に一同は振り向く。ヒロは立ち上がっていた。血眼で息巻く。
「助けたのはうに魔女よ。皮肉ながらもね」
 皮肉るようにジャクリの口元が歪む。
 それを聞いたヒロは怖気に震え、嫌悪の眼差しをうに魔女に向けた。
「うう……、絶対に許さん! 貴様だけは惨たらしく殺してやる!! 貴様だけはッ……」
「ヒロ。みんなと仲良く楽しんでいこうって考えた事ないの?」
 まっずぐ見つめるうに魔女の一言がヒロの胸を突き刺した。
 エリーとヴィーゼは直向な台詞にただただ呆然する。時が止まったように静かになる。
 悲哀の眼差しにヒロはどこか毒気を抜かれた気がした。
 煮えたぎっていた怒りの炎が引いていくのを自分でも感じる。
「復讐は自分を苦しめるだけよ。どれだけ父様を愛していたのか知らない。だけど、そんな生き方をしても楽しくないよ……」
「てめぇッ、我々を絶滅に追いやっておいて偽善者が聞いた風をッ……」
「偽善者って言われてもいい! でも、これだけはヒロに言いたかったのよ!!」
 怒りを喚き散らす手前、うに魔女の叫びが遮った。
 ヒロは面食らって、呆然。
 静寂の空間が廊下を支配し、彼らを包み込んだ。ヒロは次第にトーンを落とし、俯く。
「……誰が何を言おうとも、僕にとって貴様は父様と鬼蛸族の仇」
 力のない一言を述べると、静かに背中を見せて歩き去ってしまう。
 見送るうに魔女達。それを見納めるジャクリ。更に最後方からそれを眺めていたリノコ。彼らの背中を見て、悲壮感を感じる。
(うに魔女さんって、物凄く遠い存在のように思っちゃいます……)

 その後、うに魔女はエリーとヴィーゼの指南の元で一心不乱に錬金術に取り組んでいく。
「何か起こると真剣になるんだなー。普段からそうしてくれればいいのに」
 そんな様子に苦笑いしながらマッキーはいくつかのカードを弄んでいた。
 カードには材料、器具などが描かれていて、テキストが説明文になっている。品質と効力、威力などが数値となって表記されていた。
 マッキーは何も描かれていないカードを取り上げる。
 目の前にあるアイスクリームに向かって、掠るようにカードを振る。カードが灯り、アイスクリームは消えた。
 カードを翻せば、そこにはアイスクリームの絵が描かれていた。
「錬金術カードゲーム。その実、全ての錬金術をもっとも簡易に、そして時間を短縮する効力を持つカード。
 普通なら作成に数日かかる錬金術も、数時間で済ましてしまうんだよね。最も、消費する精神力は通常の数十倍。短い時間、そして精密な作成ほど、消費量が倍加してしまう諸刃的な作成用アイテムなんだけど」
 脳裏には、カードで練成しようとしていた生徒が次々と倒れ込む事件がグラムナートで起きた場面が浮かんだ。
 魔女ヘルミーナがアリスと共謀する事で作り上げたらしいけど、その高コストや危険性を事前に知らされてなかったらしい。
 彼女曰く「一流の錬金術士たるもの、これくらい出来ないで名乗れる価値なんてないわ」との事。
 教授イングリドが声を上げて非難したのは記憶に新しい。
 よほどのレベルが高くなければ、カードに精神力を吸い尽くされてしまう。レベルが百以上でも簡単な錬金アイテムを数個作るだけでへばってしまう。
 素人には扱いにくい玄人専用の錬金器具として、隅っこに追いやられたと言うのは言うまでもない。
 苦笑いしながら、カードを振る。しかしすっぽ抜けて、うに魔女に当たる。急に現れたアイスクリームが顔にぶちまけられた。
 マッキーは苦笑いのまま引きつる。
「つめた〜〜〜〜!!!!」
 顔を抱え、悶えるうに魔女に、イリスは面白そうに笑った。フェルトとヴィーゼははにかんだ笑みで首を傾げた。
「くぉらー!! マッキィ――――!!」
「わぁあ、ごめん! 今のは事故だよ。許してくれぇ――!!」
 うに魔女とマッキーの追っかけにエリーも微笑む。
 ジャクリは誰にも別れを告げずに部屋を出る。廊下を歩きてがら、笑む。
「案外気付いていないのね。アリス以上のセフィロトの呪縛が鬼蛸族に施されている事を。殺害以外に彼らを解放する術なんてない……。そう思わない? ブラックキャットさん」
「ふふ……、食えない子ね」
 虚空から猫の目のような双眸が見開かれる。具現化した幽霊のようにブラックキャットが姿を現す。共に妖しい笑みを向け合う。
 そして交錯するようにジャクリは彼女を通り過ぎた。
 猫の目だけがそれを追い、鋭い視線を向け続けた。妖しく眼光が煌く。

 既に日は沈み、欠けた月が真上で輝く深夜。寝静まった宿の二階の窓だけが一層明るく灯っていた。
 机に置かれた壷に向かって五芒星の魔法陣が描かれる。イニシャラズが済み、複雑な源素変換情報が頭に流れ込む。
「これで"エリキシル剤"完成だー!」「エリキシール、かんせいだー!」
 万々歳でうに魔女とイリスは共に手を上げて喜んだ。
 いつの間にか帰っていたフェルトはヴィーゼと一緒に笑顔で見守る。エリーも満面の笑顔で祝福してくれた。
「やったねっ!!」
 こうして回復系アイテムを一日で極め、うに魔女は明日の決戦を万全に望める事が出来たのだった。


あとがき

 やっぱりアトリエでの練成過程がすっ飛ばされましたw
 我がキングク○ムゾンは時間を吹っ飛ばす……。これで錬金過程を吹っ飛ばしたッ! ドォーン!
 ……と冗談はさておきw

 カードは平たく言えば一括払いですネw 普通の錬金術は数日かけて作成するのがあるので、分割払いって事。
 とは言え、リアルに作成したコツとか呼吸とか感覚で知り尽くさないとカードで精密に作れないって設定なんでスw

 それから鬼蛸族の生き残りであるヒロは本来なら殺されてしまう予定だったんですが、急遽予定を変えました。
 タイトル通り、テーマを優先するなら殺したほうが無難かもしれません。
 絶対に相容れない。常に敵対意識を抱く。精神癒し系能力を受け付けない。妥協すら許せぬこの三つを持つ鬼蛸族。そしてそうなるように仕組んだ裏の事情を描写するためには必要だったんですが……。


320話 「怨恨の涙」 2009,7,16
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


 どんより雲が上空に立ち込めている。嵐の前の静けさのように、人気のない路地に風が吹く。
「……うう、う……、アリスはあっちか? 奴は"うに魔女"って偽名を使ってたな」
 全身を包むように黒いフードを纏い、顔は闇に覆われ双眸しか窺えない。足元のマントの裾からぬめったような蛸足が覗く。
 引きずるように蛸足で歩き去っていく。
 数分かうろついていると、出会い頭の角から声が聞こえてくるのに反応する。
 角から覗けば、銀髪の少年と赤髪の少女らしき女性がいた。
「ああ、君は外界人のリノコさんだね。うに姉さんなら、あっちを曲がって行けばいいよ。宿屋の上のちょっと煤けた壁が見えると思うから、そこだよ」
「ありがとう。えっと、うに魔女の弟さん……?」
 丁重のお辞儀し、そこで少年が誰なのか首を傾げてしまう。
「マッキーだよ。血縁と言う訳じゃないんだ。赤の他人だったけど、今はもう家族みたいなもんかな?」
 そう言ったが、マッキー自身も内心戸惑った。
 レガルザインで名を馳せた到達者ムルの息子。息子の不治の病で父親は苦悩し、それが元で狂った。そして究極の違法秘術を極めんとする所で命を落とした。
 兄貴のような存在のムルの結晶も行方知れず。以前の歴史での錬金大戦で死んだままなのかもしれない。
 身を寄せる所がなかった筈なんだけど彼女の元で暮らす内に、いつの間にかそういう親密な間柄になっていたからだ。
(そっか、異世界人って言うか外界人だったのはオレもそうだったなー)
 後頭部を掻きながら自分で呆れた。
「どうして姉さんの所へ?」
「えっと、彼女の家に行って見たいかなーって。せっかくの友達だから……」
 俯き、照れながら応えた。
「姉さん忙しいと思うけど、会ってみても別にいいんじゃない?」
(ヴィーゼやエリーが側にいるから、工房が爆発するなんて危険性はないだろうけど)
 何度もお辞儀しながら去っていくリノコに、手を振って見送った。
 マッキーとリノコの会話を盗み聞きしていた怪しい人は黒いフードを翻させ、踵を返す。
「うっ、うっ……。ついに居場所を突き止めたぞ……! 我ら民族を貶めた悪の元凶を!!」
 涙が零れながら、憎しみに満ちた双眸が歪む。
 その成り行きを見守る人影が、家の屋根の上に佇んでいた。


「うにああぁぁ――――ッ!! イニシャライズッ!!」
 叫びながら、目の前のアイテムに向かって五芒星に指でなぞる。光の魔法陣が浮かび上がり、眩い光を放ち掻き消える。
 頭の中にマナの心の声が聞こえた。
 アイテムに関する構造を源素に変換する為の情報が頭に流れ込んでいく。
 作成に必要な属性と源素量、そして効力を忠実に発揮させる為の練り込み方などをうに魔女は把握した。
「よし! これで自由自在に作り出せるようになれるねっ!」
 うに魔女はガッツポーズにヴィーゼは苦笑いする。
(さっきのイニシャライズ、別に叫ばなくてもいいんだけどなー。なんか男みたいだね)
 それもその筈、うに魔女は昨日の大会までは拳を交えて戦っていたのだ。男勝りな性格で、数多くの強敵を打ち破ってきた武勇伝があった。
 引退したとは言え、多少の強気な性格は中々消えない。
 初めて戦いに身を投じる前は普通の女性と変わらない性格だったかもしれない。ヴィーゼは想像した。
「やったじゃん!」 
 控えていたエリーが笑顔でうに魔女へ駆け寄る。
「イニシャライズ、どう? 見た見たー!?」
「これで完全回復アイテムの"リフュールリヒト"と範囲内の人々を回復する"オールリフュール"をマナ錬金で出せるようになるんだよねー」
「うに! もちろんだよー!」
 同年期の友達のように喜びを分かち合い、共に手を掴み合って笑顔を見せあう二人にヴィーゼは綻んだ。
 調子に乗ってか、うに魔女は源素をかき集める。光の飛礫が彼女の合わせた掌の間に集まっていく。
 それは徐々に小さな天使の形を象る。金髪のうに頭のうにっ子。柔らかい白鳥のような翼。純白の天の衣。
「リフュールリヒトと同じ効力を持ったうにっ子。その名も"うにエンジェル"ッ!!」
 うにっ子を掲げ、翼が広く羽ばたく。羽毛が撒き散らされ、舞いながら虚空へ解け消える。
 リリースされ、解き放たれたうにっ子は工房を軽やかに飛び回る。
 驚きのヴィーゼ。綻ぶエリー。うに魔女は自信に満ちた笑みでうにっ子を見送る。
 そして、何気なく開いていた窓から飛び去っていってしまう。
 しばしの間。
「あああ、逃げられてるしぃ――!!」
 涙目で絶叫。呼び戻そうと叫ぶが、うにっ子は空の彼方。
 溜息をついて呆れるエリーとヴィーゼ。
「でも凄いね、うに魔女さん。それでも割と上級の回復アイテムなんだよ?」
 涙目のうに魔女にヴィーゼは微笑みかけた。
「うん、そうなんだ。でもうにっ子って私と精神がリンクされていながら、個性的に性格があるんだもんー」
「へー、自我があるんだ。知らなかったな」
 エリーはうにっ子に自我があった事に驚いた。今まで単なる分身アイテムだと認識していた。誰もが思っていただろう。
「それじゃ、この調子で戦闘不能から完全復帰の"アルテナの導き"や範囲内の人々を完全回復させる"フルリフュール"を作れたら、今度は多数の戦闘不能者を復帰させる"リフュールアンク""奇跡の杯"と重症はおろか体力も精神力も完全回復の究極回復アイテムの"エリキシル剤"を目指しましょ!!」
「ふう……」
 突然、うに魔女は萎えていく。疲れたような顔で深い溜息。
「もぉ、才能あるのに! さっきまでの回復アイテムも普通の錬金術士も練成が難しいものなんだよ? 半日で完成できるのに勿体ないじゃないー」
 ヴィーゼは頬を膨らませ、子供っぽく怒りを漲らせる。
「いやぁ……。さっきまでメイスを振っていたし、こういう工房に篭るのって性に合わないって思ってたし」
 苦笑いで後頭部を掻くうに魔女。
「ったく、フェルトじゃあるまいし! さ、きりきりやるー!」
「え――!」
 強引にヴィーゼに引っ張られて嘆くうに魔女に、エリーは苦笑いする。
 ノックの音が聞こえ、振り向く。
「はい、どなたですかー?」
 エリーはドアへ駆け寄り、ゆっくり開ける。見慣れない異世界人に目を丸くする。
「……あ、うに魔女はいません?」
 緊張してか、ぎこちなくお辞儀される。
「リノコだ――!」
 ヴィーゼから逃れるようにうに魔女が駆け込んできた。当のヴィーゼは頬を膨らます。
「え、知り合い? 異世界人の友人、多いわよね……?」
「ううん、今日知り合ったばかり」
 首を振った。リノコはうに魔女の言葉を肯定するように頷く。
「あ、リノコって言います。グラムナートアカデミーに入学予定で、本格的に錬金術を学ぼうとしております」
「へー、そうなん……」
 エリーが綻ばせたその時、黒い影が横切ってリノコを浚う。一瞬の出来事に見開く。
 廊下に出ると、離れた位置に怪しい男がリノコを抱えたまま佇んでいた。黒いフードに包まれているが、ガタイの良い体格。闇から覗く双眸、そして垂れる涙。噛み締めた白い歯。
 軽々とリノコを首に腕を回して持ち上げたまま、取り出したナイフの切っ先を首に突きつけていた。
「動くな! うっうっ、人質の命が惜しくば抵抗しない事だ。ううっ」
 リノコは突然の事で恐怖に震えている。青ざめたまま、出る言葉もない。
「誰ッ!?」
 うに魔女を筆頭に、エリーが慎重に待ち構え、ヴィーゼが佇む。
 男は笑みを浮かべ、顔を見せるように頭のフードを剥ぎ取った。全体的に肌は赤く、大きな口には牙が覘く。蜘蛛の目のように三つの目が怪しく光る。後頭部に黒い角が伸びる。
「あんたはッ? て、テチャックに似てる……!?」
「……うう、初めましてだな。この僕は父上のテチャック様の三男である"ヒロ"だ」
「ど、独裁者に息子が三人も!?」
 エリーは驚きを隠せず、動揺を露にする。
「くぉらッ、独裁者って言うなー!! 平和の世を守り続けた"神"であるぞ!」
「……その神は死んだんでしょ?」
 皺を寄せたヴィーゼの言葉に、ヒロは額に血管が浮かぶ。怒りの形相で一瞥。
「それはそこの諸悪の根源アリスのせいだァ――!」
 息巻きながら、うに魔女へナイフの切っ先を向ける。
 ヒロは俯き、震える。垂れる涙は止まらない。睨み据えるように歪んだ双眸をうに魔女に向ける。
「父様を殺害するだけに飽き足らず、貴様ら異世界移民どもを引き連れて我らの土地を乗っ取ったからだッ!
 そのせいで我らが民族は住む故郷を追われ、肩身狭い思いをしている。母様はそれが原因でファビオンゴーレムと合体するほどに狂ったッ! その余波を受けて兄貴とその同胞は跡形もなく消えた! 鬼蛸族は僕だけになったんだよぉぉッ!!」
 怒鳴り声が宿中に響く。恨みの骨髄が伝わるかのような負の感情が孕んでいた。
 涙ぐみ、何度も涙を拭った。しかし涙は滝のように流れるままで止まらない。
 うに魔女は呆然とする。
「ヒロ……」
 慰めの言葉を模索しながら、救いの手を差し伸ばそうとする。
「くそ、あんなに楽しそうに大会を開きやがって!! 僕が孤独に苦しんでいると言うのに、お前は我らに対して何にも感じないのかよぉ――!?」
 辛辣と、悲痛な表情で訴えかけるように問い詰める。悔しくてたまらないと、何度も地団駄を踏む。
 可哀想に思ったうに魔女が言うよりも早く、エリーが前に出る。
「人質を離して! あんたのやってる事は立派な犯罪よ。それに民族の不幸をうに魔女のせいにするのも大概にして!」
 ヒロは目をおっぴろげ怖気づく。うに魔女もまたエリーに驚きを見せる。
「え、エリー!?」
「うに魔女、人質を取るような卑怯者に同情しないで! 同情したら付け込まれるからッ!」
 真剣な表情のエリーの言葉にうに魔女はハッと気付く。連想するようにアイゼルの警告を思い出す。
"被害者面して他人の慈善を食い物にする人って、世の中に結構いるのよ? "
 心配そうな顔で咎めて来た言葉。うに魔女は気を引き締め、厳しく見据える。ヒロは脅え、ナイフをリノコに近づけた。
 リノコはいっそう恐怖を募らせる。
「可哀想だけど、人質を取るような卑怯者なんかには絶対に屈しません!」
 気丈に胸を張るうに魔女に、エリーとヴィーゼは綻ばせた。
「卑怯者って言うなってんだろォ!!!! 何ンだよ、偉そぉぉに!! てめぇあは神にでもなったつもりかよぉ、ああ!?」
 血眼で暴言を吐くも、動じないうに魔女に怖気づく。
 低く唸り、呪うような目つきで唇を噛む。
「そんなにこのアマが死んでもいいのなら、望み通りにしてやるぁああァ――!!」
 自暴自棄に駆られ、衝動的にナイフを人質の首に食い込ませる。その時、ぬいぐるみのように刀身が柔らかく逸れた。
「うァあ!?」
 見開き、萎びたナイフに驚きの呻きを漏らす。
 うに魔女の足元に花畑が展開され、床から壁へと勢力を伸ばしていく。迫り来るような錯覚を覚えたのか、ヒロは畏怖した。
「晴天の妖精、デコレーションフィールド! 攻撃無効化。アナタの卑怯な行為も、これで終わりよッ!!」
 白い羽を羽ばたかせ、うに魔女は掌を翳しながら気丈に言い放った。


あとがき

 ホントは、こういう話を一話で纏めたかったんだけどね。
 実は、この暗殺者の話は大会開催中で、うに魔女が病院にいる時にやるつもりだったんです。
 318話の後書きで述べたように、ネタバレかも? って事で言わなかったネタがこれです。

 鬼蛸族の視点で書いたので、心情は上手く表現できたかなと。
 異世界人が攻めてきて故郷となっていた地を追われ、肩身狭い想いを抱いた彼らの立場に立ったつもりで書きました。
 今まで主人公側の視点ばかりで書き続けていましたが、ある友人からの指摘で変われました。感謝です。
 ですが、もっとリアリティーがある心理描写が出来るように改善の余地があるかもしれません。
 自分がその改善の余地と言うものに気付いていないだけと、考えるようにして精進を重ねていきまっス。


319話 「新たなる風の予感」 2009,7,15
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


 燃え上がる灼熱の草原。橙に照らされる謎の巨人。形状としてはロボットに近い。
 火の手が上がっている、瓦礫が散乱した町。
「ば、化け物……」
 福餅族は震えた口調で呟く。
 巨人は何人かの福餅族を握り締めている。それを口の方へ持っていくと、そのまま飲み込む。
 口をもごもごと動かす。肉がちぎられ、骨が砕かれる音が響く。
 生きていた人もいたのか、悲鳴が聞こえてきたが掠れて消えていく。
 一通り終わった巨人は屈み込み、一瞬にして灼熱の世界に光景は覆われた。何もかも塵芥に帰した。ただ真っ白のみが映る。

「ふむ、神々の住まう天上の世界――すなわち創世界では、意外と我々のいる世界と変わりませんな。
 かように国や政権を奪い合う血塗られた侵略戦争の歴史が、そこでも繰り返されていると言うわけだ」
 白く映るモニター。それを鑑賞して呟く。表情はおろか、双眸すら見えぬ一文字に引かれた仮面で表情を覆いつくした人が数人。
 不気味に静まった暗闇の中。床も見えぬ深淵。ただ、鈍く光る金属質の曲線を描くカウンターのようなテーブルとモニターのみが浮かび上がっている。
 彼らはそこに座し、黙々と向き合う。
「で、異世界同士の我々がここに召喚された訳は?」
「……他でもない、創世界に存在する"大いなる秘術"を得るという好機が生じた為、少々会議を」
「ふむ」
 堅苦しい厳粛な空気。寡黙な男同士が重い言葉を発するこの場。
 創世界の零階層に散らばっているいくつかある異世界、世界球一つ一つを代表する影の最高権力者が集まる極秘の会議室。
 創世界の存在に気付いていたのは、何もアリス達勢力だけではなかった。
 既にその存在は彼らの膨大な情報網で割れていた。しかし、今の今まで創世界に手を出さなかったのは独裁者テチャックの独裁体制によるものだった。
 だが、アリス達の活躍でテチャックと独裁政権は倒れる。
 その時に、息を潜ませていた彼らは好機とばかりに蠢き始めた。
「信じられないようですが、アリス達は個体で軍隊に匹敵する戦闘力を誇る。しかし、極悪非道のテチャックとは違う。民衆の為を想い、身を削る政策を行う人物像。我々が突くのはそこかと」
「確かにな、偽善者どもは民衆を相手に暴力を振るう訳にはいかないからな」
「上手く行けば、それをネタに貶める事も容易。主要権力を握って民を洗脳すれば、いかに力があろうが関係ない」
「だが、失敗すれば逆にこちらの世界が危機に立たされる恐れもある」
「その為にこそ、最高科学技術の粋を集めた兵器を蓄えている。負けない自信はある。しかし武力戦争を起こせば、共に不毛な消耗戦に陥るだろう」
「だからこそ、敵勢力の内部から破壊していく侵略戦争を我々は選択した」
「そして、それは既に始まっている」
 佇む仮面の最高権力者たちの上で、怖気の走る赤いマークが怪しく灯る。
 尖ったハートの形、それを囲む悪魔の両手を模した紋章。
 悪魔が愛を象徴する物を支配しようとする雰囲気ではなく、まるで愛を武器に悪魔が狂乱するかのようなイメージに近いものを醸し出していた。
「……創世補完計画が!」
 危険な臭いを漂わせる呟きが、この場の暗闇をより深いものに感じさせた。


 平和を象徴するかのような晴天の空。ザールブルグ大陸は平穏に浸るように、雲の大地に半分を埋めている。
 剥き出しになった断崖絶壁。しかし所々、崖に沿うように上り下りできる階段が設置されていた。
 そしてその側にはグラムナート大陸が重なっている。
「大会がまるで昨日のようだねっ」
 路地を歩きながらうに魔女は振り向いた。マッキーは色々な物を詰め込んだ袋を辛うじて抱きかかえながら歩いていた。
「実際、昨日じゃん。でも忘れんなよ? 明日、鬼蛸族の残党が攻めて来るんだよ」
「あ、グラムナートアカデミーだ。なんか新規入学生が集まってきてるー」
 うに魔女は大衆の方へ目が行く。ザールブルグアカデミーとは少々形が違うが、それに負けない建造物だった。
 そこでは錬金術を学ぶ学校。グラムナート大陸に訪れたリリー達が建築した第二の錬金術学校。
「聞けよ!」
 マッキーは溜息をつく。
 様々な人々が集まっていた。異世界からやってきた人達までいる。
(へぇ、ライナー達みたいな物好きな異世界人が入学を申し込んでいるのか)
 マッキーはまじまじと見慣れぬ格好の人々を眺める。その中にライナー達がいるのかなと期待してたりしたが、姿は見えない。
 見も知らぬ異世界人ばかりだった。
「なんか新しい息吹が吹き込んでくるみたいでワクワクしちゃうね」
 うに魔女の笑顔。まるで女性のそれに近くなってきた雰囲気が伺えた。マッキーはポカンとする。
「なぁに?」
「いや、なんでもない」
 首を傾げるうに魔女。マッキーは慌てて目を逸らす。
「あ、うに魔女さん?」
 声に気付けば、一人の女性がこちらに歩み寄ってきていた。
 服装こそ、規定の錬金服だが風貌は異世界人の雰囲気が漂う。うに魔女よりも背が低く、小学生のようにも見えたが顔立ちは高校生ぐらいで、地味目に目はやや細い。燃えるような赤い髪のおかっぱ。屈託のない笑顔で白い歯を見せている。
「あ、あなたは?」
 うに魔女は雰囲気の違う異世界人に戸惑いながらも言葉を返す。女性はお辞儀する。
「ええ、私はグランドガーア世界のフィルピア国から来ました。名前はリノコ・カリデロスと言います」
「うわー、本当に異世界人だー!!」
「……ってか、レガルザイン地域出身の癖して外人呼ばわりするなんて」
 驚くマッキーにうに魔女はジト目で見やる。リノコは微笑む。
「こうしてみると私達と変わらないんだなーって思っちゃいます」
「そりゃね、ライナー達もそうだったし」
 片目を瞑って一息をつく。
「厚かましいかもしれませんが、友達になってくださいますか? 少々不安でしょうがないのです」
「うに! もちろんだよっ!」
 満面の笑顔でうに魔女は頷く。そして二人は握手を交わす。
 その時、学院の方からチャイムが鳴る。
「あ、体験入学始まっちゃいます」
 リノコは慌てて何度もお辞儀をすると、駆け気味に学院へと去っていく。
「また会おうねっ!」
 うに魔女は手を振る。するとリノコも振り向いて手を振ってくれる。
 なんだか心の奥から温かいものが湧き出してくるような感覚を覚えた。周りに花が咲き乱れてそうな満面の笑顔のうに魔女に、マッキーは溜息をつく。
「何が目的で来たのも知らないで、のん気だなぁ」
「そういうのは差別よ! 何が目的だっていいんじゃない? 人それぞれなんだから」
「そりゃそうだけど」
 たしなめるうに魔女に対し、マッキーは相槌を打つ。


 煤けた天井。薬品の臭いが鼻につく。錬金器具が並ぶ工房の一室。
 大きな釜が火に煮られて、中の液体が沸騰している。
「遅いよー?」「おそいのー!」
 ヴィーゼが頬を膨らまして待っていた。ませたイリスも同じようなポーズで頬を膨らましていた。
「あはは、ゴメンゴメン」
 うに魔女は苦笑いで頭を下げる。後ろから袋を持ちながらマッキーが通り過ぎる。机に乗せる音が聞こえた。
「今日は回復アイテムの指南だったっけ?」
 ひょいと顔を見せるエリー。ヴィーゼは頷く。
 うに魔女は錬金術のレベルは非常に高いが、偏っていた。攻撃系アイテムの作成に優れるが、回復アイテムはおそらかにしていた。
 戦いに慣れすぎた結果によるものだろう。大会以前までは攻撃アイテムを頻繁に多様をしていた。
 回復アイテムはほんの一握りしか使っていない。
「と言う訳でエリーさんがマテリア錬金術を、そして私がマナ錬金術に変換するイニシャライズを指南します」
「うーん、なんか面倒くさそー」
 苦い顔を見せるうに魔女。マッキーは相変わらずだなと苦笑いする。
「ダメ! ちゃんと覚えておかなくちゃ、明日の戦いで後悔するよ?」
「フェルトは?」
「もぉ、ライナーやクロア達と一緒に王国鍛錬所へ向かっていったよ。分かったら取り組む!」
 ヴィーゼの先生らしい振る舞いに、うに魔女は宿題を押し付けられた子供のようにうな垂れた。
 助けを求めるようにマッキーへ目線を送る。
「頑張ってと言うしかないなー。うに姉さん、またね」
 そそくさと立ち去り、扉を閉めていってしまう。
 呆気に取られるうに魔女。後方で目を光らすヴィーゼとエリーが含み笑いを浮かべた。


あとがき

 すみませんw エヴァネタ入ってたりするかもーw
 ちょっと空気に合わない暗い設定も含んでありますが、ラスボスまでのクライマックスを盛り上げようと設定したのです。
 派手に宇宙大戦争みたいな感じで行っちゃえーとかw (^^;

 久々のアトリエ日常っぽいのが入りましたw でもすぐ飛ばされそうw (マテw
 前々から時々日常ものを書いていたけど、どれも適当すぎていたなぁと思い返しました。
 うまく書ければそれに越した事はないけど、せめて綺麗に書けるようになりたいね。
 と言う訳で、次回の話もそういうのになるのかは分からない。私の気分次第だネ。

 あと外人ネタはモデルいるけど分かっちゃうよねw


318話 「有終の美、うに魔女引退」 2009,7,14
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


 狂乱するように拳を振り上げ、叫ぶ、旗を振る、観衆は闘技場へ視線を注いでいた。血肉沸き踊る歓声。雲一つない青空に響き渡る。
 闘技場は亜空間に隔てていて、見えるのは宇宙空間に突き出た塔の頂上。
 結構広く、周りを囲むものがない。宇宙を見渡せるように剥き出しになっていた。
「始まってるんだ。決勝戦」
 うに魔女はラステルと共にスタンドに姿を現す。後からアイスクリームを持ちながらレプレが駆け寄ってきていた。
「アルトネリコ塔の最頂上にてフェルト対ライナーの激戦は白熱しているぜ――!!! 雌雄を決するのはどちらかか!?」
 ダグラスはコロシアムの上空を飛びまわりながらマイクに叫んでいた。
 遠くを見るような目でうに魔女は決戦の行方を見守る。
 頂上の床を二人の男が駆け抜け、飛び回る。
 金髪が揺らめく。銀髪が踊る。白銀の鎧が煌く。青い色調の服が風に煽られる。二つの異なる剣が幾度なく交錯する。
 互いの力がぶつかり合うたびに、地を揺るがす。台風が生まれるように衝撃波が弾ける。
 競り合えば、踏みしめる足が床を抉る。剣を振れば、その余波が向こうの離れたものを刻む。
「おおおっ! インパルス・ラッシュ!!」
 ライナーは滅多切りにするように剣を振り、数え切れないほどの剣閃を飛ばす。その鋭い軌跡は真空を生み出し、触れた地面などに亀裂を入れ、破片を飛ばす。周りのものを細切れに消し飛ばしながら、牙を向けて襲い掛かるようにフェルトへと目指す。
「負けるなー! フェルトー!!」
「うおおおおおおおッ!!!」
 ヴィーゼ達の応援を背に、フェルトは巧みな剣捌きで剣閃を悉く切り散らす。そしてすでに側面から迫っていたライナーが剣を振り下ろす。
 咄嗟にフェルトは反応し、それを受け止める。破裂音が大気に劈く。そのまま剣に力を込める。
「今度はこっちの番だ! 喰らえぇぇ――、ストライクエッジ・ブロウ――――!!!」
「ぐあ――――――ッ!!」
 一瞬にして膨れた巨大な剣が三日月の軌跡を描き、岩飛礫と共にライナーを剣ごと上空へ吹き飛ばす。
「銀髪なんかに負けないでよー!」「ライナー、ファイト!」
 オリカとミシャが力みながら共に叫ぶ。ライナーは吹っ飛ばされながらも身を翻して体勢を整え、落下する勢いを逆に利用し、力を込めた剣を振りかぶる。
 台風のように吹き荒れる突風がライナーの剣へ吸い込まれる。
 フェルトは戦慄を感じた。待ち構えるべき、剣を携えた。
「うおおおッ! インパルスゥ――・バスタァァ――キルッ!!!」
 咆哮と共に宇宙をも衝き抜ける火柱が噴いた。塔の最頂上が崩れ始め、倒壊していく。瓦礫が重力に従って落下していく。

 激戦によって広がった振動は亜空間を渡り、コロシアムのスタンドを越えて町々にも行き渡る。
 公園のベンチで、うな垂れているホワイトサタンの足元にも伝わった。しかし彼は気に留めない。
 彼の脳裏には昨日の夜を思い返す。
 星々の煌く夜空。上空を横切る天の川。息を潜ませるように静かな町並み。僅かな明かりが窓から篭れ出ていた。
「素直にならないと、本当に嫌われちゃうよ?」
 ヴィーゼの諭すような一言で、ホワイトサタンの嫌悪を奥に潜ませた鋭い眼光は消え失せた。
 病院で追い出された事で根に持ち、滾る憤りを開放しようと溜め込んでいた矢先、出鼻を挫かれたのだ。
 まるで自分の心の内を見透かされたようだった。
 そんな彼の心情を察したのだろうか、ヴィーゼの口元は綻んだ。
「闘争心溢れる男だからこそなのかもね。勝負に白黒つけたがるのはよく分かるし、意地を張って本心を隠したがるのもね。
 何度でも言うけど、うに魔女は普通の女性だよ?」
 ホワイトサタンの脳裏にはうに魔女の笑顔が映る。思い返せば二十歳にも満たない少女の童顔。小柄な華奢な体。うに頭以外は町の中でよく見かけそうな風貌だ。
 今までの男勝りな戦いぶりから浮かんだ堅強なイメージが、普通の女性としてのうに魔女を覆い隠していた。
 何かが目覚めていくように次々と気付いていく度に、ホワイトサタンの動揺が大きく広がっていく。
「ホントはうに魔女のこと好きなんでしょ?」
 不意に問われた言葉に、ホワイトサタンは胸を射抜かれたようにたじろぎを見せた。
 ヴィーゼの無垢な笑顔。覗き込まれる丸い瞳。まるで吸い込まれそうな感覚を覚えた。
 思わず何か熱いものが頬の辺りから上昇するような感じを覚える。
「そ、そういう訳ではない。腐れ縁だ。奴はザールブルグのトップ。決着をつけない事に我らが神人類は前へ進めないのだ」
「もぉ、やっぱり意地っ張りだなぁ」
 溜息をつかれる。いくつか小話を済ませると会釈し、背中を見せて去っていく。それを見届けるしか彼に出来る事はなかった。
(……余は一体何をしたいんだろうな)
 神人類を束ねて"大いなる秘術"を得て、創世神になる野望が昔にあった。だが、うに魔女によって運命を覆されて敗北する。
 互いに勢力を率いて再び決戦を行い、またもや追い詰められた。
 今度こそ彼らを運命ごと打ち負かそうと心に誓っていたはずなのに、いつの間にか自分が振り回されている事に気付いていなかった。
 悩みに悩み続け、仕舞いに公園で一睡もせずに夜を明かしてしまったのだ。
 疲れ果てた表情。彼の目には隈ができていた。結局、彼の中で答えは出なかった。

「激しい接戦の末、決勝戦はフェルトの勝ちだ――――ッ!!」
 迫りくる大津波のように沸きあがる歓声。紙吹雪がばら撒かれ、華やかに舞った。
「うおお、やったぞ――――ッ!!!!」
 フェルトは両腕を上げ、太陽に向かって勝利の雄叫び。歓喜の震えが全身に行き渡り、溢れるように感動が湧き上がる。
 歓喜に満ちたノイン、グレイ、ポウが観覧席から飛び出して、彼の元へと駆け寄っていく。
 ヴィーゼとイリスは綻んだ笑顔でそれを眺めていた。
 それを遠景に眺めるうに魔女たち。フェルトへ視線がいく。本当に嬉しそうな顔で胴上げされていた。
(おめでとう……。悔しいけど、誰が優勝してもおかしくない実力者ばかりだったわ)
 心の中で祝辞を述べると、一種の寂しさを抱きながらこの場を静かに去ろうとした。
「みなさん、表彰式の前にちょっと待ってくれ!!」
 突然のフェルトの声。彼はマイクを手に観衆へ顔を向けた。
 表彰式を準備する人もトロフィーを抱えてやってくる人達も思わず立ち止まっていた。
 一同は優勝者としてのコメントなのか、と大衆は静まり返る。
「皆、聞いて欲しい。優勝したのはオレだけど、ここまで大会を盛り上げてくれたのはアリス。そしてうに魔女による影の主役がいたからこそなんだと思う」
 うに魔女は立ち止まったまま、驚いた顔で振り向く。
「彼女は数々の苦難を身に刻み、影ながらも平和を支えてくれたんだ。だから、オレはうに魔女を称えたい」
 フェルトは後ろにいたトロフィーをひったくると、アリスのいる主催席へ振り向く。
「優勝したら『慈愛の贈り物』と『英雄の称号』のどちらかを貰えるんだったよな?」
「ええ、そういう訳だけど。私は受け取る気はないわぁ」
「優勝したのはオレなんだから、賞品をどう扱うかは勝手なんだろ? 頼む、『慈愛の贈り物』をくれ」
 アリスは一歩取られたと笑む。
「それじゃあ、ちょっと早いけど望み通りフェルトの思い描いた『慈愛の贈り物』を授けて差し上げましょう」
 途端に天空は煌びやかな夜空に切り替わり、虹色のような煌きが花火のように彩った。収束されていく光飛礫。
 光飛礫を撒き散らしながらゆっくりと下降して行く光球。
 フェルトは両の掌でそれを受け取る。淡く光る指輪。光は収まり、白銀が煌く金属が覘く。
「それじゃ、行きましょ?」
 うに魔女は声をかけられ、振り向けばヴィーゼとイリスが微笑みながら左右の腕にしがみ付いてきた。
「ち、ちょっ! うわわ〜〜〜〜!!」
 慌てふためくも、強引に引きずられていく。ラステルとレプレも慌てて追いかける。どことなく嬉しそうだった。
 フェルトの目の前に引きずり出され、うに魔女は呆けたまま見上げる。
 快い笑顔がこちらを見下ろしていた。
「おめでとう。うに魔女、これらを受け取って欲しい」
「でも……」
 遠慮気味にうに魔女は身を縮み込む。フェルトは綻びながら息をつく。
「遠慮しないでくれ。これはオレの気持ちなんだ。ここまで大会を盛り上げてくれた事と、血の滲むような苦労をして大革命を成し遂げた事……。誰も祝福しない方が絶対おかしいだろ!
 それに、聞いたかもしれないけど戦えない体になりつつある事も……。もう君にはこれ以上、一人で苦しんで欲しくない。
 この大会を限りに"戦士の道"を引退してもらいたいんだ」
 ようやくフェルトの意図が汲み取れた。
(彼なりの感謝一杯の贈り物。ハッピーエンドで英雄としての引導を渡したいと思っているんだわ。でも!)
 うに魔女は頭を振る。拳を握り、震わせる。悲哀の表情で目を落とす。
「まだ"大いなる秘術"や"残党"の件が終わっていないのに、引退できる訳ないよっ!」
 叫びながらフェルトを見上げた。まだ戦わなければならないと、瞳に宿る戦意の輝きを見せた。
 するとヴィーゼが背中から抱擁した。振り向けば彼女の微笑みが覗く。
「でしょうね。あなたがこのまま引き下がれないって分かるから……」
「だから昨日の晩、みんなで頑張って相談したんだよー」
 イリスは懸命に訴える。小さい女の子に裾を掴まれ、うに魔女は驚く。彼女の目には隈ができていた。
 気付けばヴィーゼも笑顔で隠しているものの僅かに隈ができていた。
「ああ、俺たちの気持ちも汲み取ってくれよ」
 ライナーやクロア達がいつの間にか勢揃いで集まってきていた。
 皆揃って目に隈ができていた。それでも快い笑顔を見せていた。うに魔女は驚き戸惑う。
「あんた達……」
「言ったろ? "戦士"は止めろって。もう、あんたは前線に立って無茶をしなくてもいいんだ」
 冷静と言うか落ち着いていると言うか、クロアは淡々と述べる。だが、彼も目に隈ができていた。眠たそうだが、我慢している事が伺えた。
 一同の想いを代弁するようにライナーが前に出る。
「"戦士"は俺達がいるぜ!! これだけ揃っていりゃ心強いじゃないか! 他人だからダメだって言わせねぇぞ」
 檄を飛ばすように心強い発言をするライナーに、フィーも賛同するように頷く。
「戦うなとは言ってない。戦士として無茶をするなと言いたいだけだ」
 彼女の言葉に、うに魔女は素っ頓狂な顔を見せる。
「そういう訳で、貴方には私達と一緒に後方で戦ってもらいます! 異論は認めません」
 今度はクローシェがハイヒールを鳴らしながら前に出る。高飛車に上からの目線。うに魔女は口を丸くする。
 呆然している所を、一人の青年が歩み寄る。短く切ったグレーの髪の毛、メガネをかけ、真面目そうな顔立ち。
「ク、クライス!?」
「前にも言いましたが、元々あなたは"攻め"よりも"守る"方に才能ありますからね。あなたの"晴天の妖精"は回復アイテムの数百、数千倍もの回復エネルギーを秘めています。もしも回復アイテムをマスターすれば、それは数万倍以上に効力が増すとおっしゃったでしょう」
「そうだったっけ?」
 首を傾げ、乾いた笑いで応えるうに魔女に、クライスは予想通りと呆れる。
「無意識とは言え"身代わり人形"なんて秘術を使って、大革命を犠牲者なしで制したんでしょう? 一人で無茶しすぎたが」
「そういう事、マッキーからも聞いたんだけど民衆の出鱈目な歌を纏めて、物凄い力に変えちゃったんでしょ? これは凄いよ?
 もしレーヴァティルの詩だったら、どんな凄い事になるか想像つかないんじゃないかしら?」
 ミシャもウィンクで笑顔を見せる。
「うに魔女! 俺達も共に闘うぜ!!」
 大団円でうに魔女を囲んで一斉に声を上げた。呆然していたうに魔女も思わず涙が零れる。
 今まで前線へ立って戦ってきた記憶が走馬灯となって脳裏を流れる。
 剣を持って闘う事すらできない素人が、ムルの結晶との因縁でマナを使いこなして闘えるようになった。そして、大会でクレインとの死闘を演じた場面が強く浮かび上がる。
 想いをぶつけ合い、全力でぶつかり合った戦闘が流れる。辛辣な結果が焼きつく。力及ばす負けた悔しさを思い出す。
 歴史修正時の再戦でも、互角に戦えるほどの展開を繰り広げた。しかし執念の違いで再びの苦渋を味わった。
(何度も宿敵のクレインとの再戦を願っていた。けど、私は女性です。男だったなら、再戦を胸に燃える事もできたのでしょう)
 うに魔女は心に整理をつけながら、フェルトから"慈愛の贈り物"を象徴する指輪を受け取る。
 フェルトはトロフィーも差し出す。押し付けられる形でうに魔女は受け取る。二つ揃った栄光。しっかり大事そうに抱える。
 涙が頬を伝う。流れて、地面に滴り落ちる。
(もう私は腕を交えて闘えません。残念ながら、今日限りで戦士を引退します)
 流れる走馬灯は薄らいでいく。憧れのクレインも彼方の奥へと吸い込まれるように薄らいで消えていく。
「みんな、ありがとう!」
 涙が溢れる満面の笑顔を咲かせる。女性として奥ゆかしい態度が垣間見せた。
(そして、さようなら……)
 溢れる感謝の気持ちを胸に、未練の想いを断ち切るべき深々と頭を下げた。
 観衆一同も歓声を沸かせ、祝福を送る。ライナー達の笑顔に包まれる。歓喜に囲まれながら、うに魔女は幸せそうに微笑んだ。抱え持つトロフィーと指輪が煌く。
 主催席で佇むアリスも感慨を胸に、祈るように掌で包んだ自分の拳を胸元に押し込む。
 こうして天覧武術大会はうに魔女の戦士としての引退式と共に、大団円で幕を閉じた。
「ハッピーエンドだねっ!」
 ヴィーゼとイリスはフェルトと見合わせながら満面に微笑んだ。


あとがき

 実は私も予想だにしてなかった結末でした。まさか引退するとは……。(汗)
 残党とはどうやって戦うのでしょう? そして"大いなる秘術"にいるラスボスらしき相手をどう闘うのでしょう?
 ああ言っているけど、無茶して闘おうとしちゃったりして死に掛けたりしてw
 とは言え、後遺症への治療の手段はない訳じゃないかも知れんので、お預けって事かな?

 この話も何度か書き直しをしました。読後感を良くしようとあれこれ悩んでましたし。
 んで、結局引退すると言う幕引きで描写する事になったけど、気分のノリで書いてたりするのかもしれません。
 これからどうなるのか、私も予想できませんーw

 ちなみに書き直しはヴィーゼとホワイトサタンの話。長くなる予定でしたが、短くカットしました。
 タルガーナが来ているという描写で、なんとクレインが来るという話もありましたよ。唐突過ぎるので没になりました。
 頭の中で、大会を綺麗に終わらせ、読後感を良くしたいとイメージを描いていたんです。
 ワンピースみたいに宴会で締めくくってもいいかなと思ったけど、それじゃテーマとなるものが表に出ないので書きませんでした。
 他にも色々思うついていたんですが、ここで書くとネタバレするので言いませんw
 もしかしたら書かないかもしれないけど念の為w


317話 「余命通告!?」 2009,7,13
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


 痛々しく血まみれで転がるうに魔女。
「フェルトの勝ちだ――――――――!!!!」
 ダグラスの宣言で歓声が湧き上がる。フェルトは微かに笑みを見せ、ヴィーゼとイリスに手を振った。
「その宣言は早いんじゃないか?」
 途端に観客は静まる。別段、叫んでいる訳でもないのに呟かれた言葉はこの場を支配した。
 存在感溢れる一言に、誰もが唾を飲み込みながら振り向く。
 夕日を背にマントを靡かせる人影が見えた。
「あ、あれは……?」
 マッキーは唇を震わせ、人影に見開く。
 尖るような金髪。空に向かってピンと跳ねる二本の前髪。凛々しい男前の表情。青い双眸。緑を強調するマントと合体した上着。
 仁王立ちしながら、自信に満ちた不敵の笑みを見せる。
「ク、クレイン!!!!!?」
 観客はどよめく。徐々に驚きの声が広がっていく。
 マッキーとホワイトサタンは呆然とその男を眺める。
「立てよ。オレはお前を待っているんだぜ?」
 快い笑顔の一言。倒れていたうに魔女は目を覚まし、おぼろげにクレインを見やる。夕日と重なっているせいか、眩しく映る。
(クレイン……)
 フェルトは見開く。観客は声を上げる。
 地面をしっかり手で押さえ、腰が震えながらも上がっていく。
「ば、バカなッ……!?」
 誰もが信じられなかった。目を疑う光景。うに魔女はよろめきながらも立ち上がろうとする。上半身がゆっくりと起き上がっていく。
 そして、地面についていた手は離れ、二つの足でしっかり踏みしめた。
 ついにうに魔女は気力を振り絞って立ち上がった。クレインはその様子に笑む。
「それでこそ、オレのライバルでもあり唯一の相棒だ!」
 快い笑顔を見せ、ウィンクを送る。
 それだけでうに魔女は疲れ切っていた身体に、力が沸く。これ以上にないくらい、"嬉しい"と言う気持ちが溢れ出した。
 思わず涙が零れる。
「ええ、私だってあなたには負けられないんだからね……」
「おう、その意気だ!」
 親指を立てた拳を見せた。
(クレイン……、来てくれて嬉しいよ。涙が滝のように溢れてしまいそう)
 零れた涙を拭い、拳に握り締める。
「そうか、それがお前の想い人なんだな。よぉし、こちらも負けてられないや」
 フェルトも、クレインに支えられるうに魔女に武者震いが走った。こみ上げてくる笑みが止まらない。
「マナ・チェンジ!!」
 勢いよく天を衝く光の柱。これまで以上に力強い息吹に、観客は驚きに包まれた。
 吹き荒れる烈風に、フェルトは吹き飛ばされまいと踏ん張る。
 巻き上げられた煙幕。その中からうに魔女はうにメイスを片手に飛び出す。メイスと剣が激しくぶつかり合う。
 万全の状態で打ち合ったかのように強烈な衝突音が劈く。
「うにああああああああああ!!!!」
「うおおおおおおおおおおッ!!!!」
 衝撃が全身を突き抜けるさなか、互いは必勝の気合を漲らせて吠えた。
「よぉし、うに魔女! 次はお前の十八番で決めろ!!」
 クレインは拳を振る。
 うに魔女は一瞬笑む。湧き上がる熱い気持ち。腕を交差する。収束される旋風。嵐のような吹き荒れにフェルトも驚愕する。
「フェルト、負けないで!!」「お兄ちゃん!!」
「ああ、こちらも再び大技で勝負ッ!!」
 フェルトも裂帛の気合の最中、青く燃え滾る闘気をすべて剣に注ぎ込む。全てを振るわせ、互いに大技を放つ。
「全てを打ち砕けぇぇぇぇ――ッ!! 大崩壊ミラージュうにメイスゥ――――!!!」
「ファイナルエッジ・ストライクゥゥゥゥ――――ッ!!」
 散弾銃のように放たれるうにメイスの残像。それに対し、巨大な剣による連続突きの残像が立ち向かう。
 一つ一つが激しくぶつかり合う。重い響きがする衝撃波を撒き散らす。
 撃ち合いの競り合い。打撃の花火が連鎖しながら一気に広範囲に渡って広がっていく。縦横無尽に破壊音が轟いた。
 決死の面持ちでフェルトとうに魔女は吼え合う。共に均衡した乱打戦。互いに譲らない!
「今だ、叩き込め!!! お前ならできる!」
「うにあぁぁぁぁぁ――――――――――――!!!」
 クレインの力強い激励。それを得て、うに魔女は渾身の力を込めた巨大なメイスを振り下ろす。大爆音を轟かせた。
「おおお、大逆転! これでうに魔女の優勝は決まったぁ――――――!!!!」

 紙吹雪が散る最中、煌びやかに輝くトロフィーを抱えながらうに魔女は手を振る。
 観客は笑顔で拍手し、祝福を送っていた。
 そしてお立ち台にクレインはゆっくりと上がっていく。うに魔女は思わず緊張が走った。
 爽やかに笑むクレインの顔。凛としていて心を奪われそうな雰囲気が漂う。うに魔女は思わず心がとろけそうになる。
「……やったな。流石はオレの相棒だ」
「うん、頑張ったよー」
 涙を零し、微笑む。
 クレインは彼女を引き寄せ、優しく抱擁した。うに魔女は思わず赤面。心音が高鳴っていく。しかし広い男の胸元の温もりに安らぎを覚える。
 一時の甘い時間。まるで夢のようだ、うに魔女はそう思いながらクレインに体重を預けていく。
「私、一緒にいたい」
 クレインはフッと笑う。額にデコピンする。あいた、とうに魔女は涙目でクレインに見上げる。
「なーに言ってんだよ? 当たり前なこと言ってどうするんだよ。俺はお前を離す気なんてないぜ」
 そう言うと、クレインはうに魔女の唇に接吻する。
 互いにしがみ付くように抱き合い、共に幸せいっぱいに溢れた気持ちを満喫する。二人の心は今一つとなった。
 そして周りが真っ白になるほど、甘酸っぱい空気に包まれていく。


「どんな夢見てるだか?」
 病室のベッドで包帯に巻かれたうに魔女は静かに寝入っていた。その寝顔を覗き込むラステルとレプレ。
 それを取り巻く数人。クロア、ライナー、レーヴァティルの面々。さーしゃも心配そうに眺めていた。
 デルサス、ノルン、マレッタもその場に居合わせていた。
 ホワイトサタンは少し離れた所で静かに見下ろすのみ。マッキーは時々、彼に一瞥する。
 壁に背を預け、腕を組んでいたフィーは瞑想するように静かに事の成り行きを見守る。
「あっ、いてて!! 優しくしてくれぇー」
 上半身半裸のまま、痛みに飛び退くフェルト。
「もぉ、蒼い闘気を出すからでしょ? 無茶して――」
 頬を膨らませながらヴィーゼは彼を押さえつけた。イリスは無邪気に飛び込み、フェルトを羽交い絞めする。
 その隙にヴィーゼは塗り薬を塗っていく。
 悲鳴を上げるフェルト。構わず、全身に塗りたくっていく。
「フッ」
 黙りこくっていたホワイトサタンは笑む。どこか馬鹿にしたような笑みだった。
 しかし、マッキーの目には彼が強がって、自分を取り繕っているようにしか見えなかった。
「やはり所詮は俗物か。どうやら余は彼女を過大評価していたようだ。もっと骨のある英雄と思っていたんだがな。残念だ」
 それを聞いたヴィーゼは怒りの表情を振り向けた。
 何を思ってか、ツカツカと足を踏み鳴らしながらホワイトサタンへ歩み寄る。
 頬を叩く音が病室に響いた。
 ホワイトサタンは呆然と、痛む頬を擦る。
「何を……する!?」
「何がって!? あんた、自分の言っている事が分かっているの? うに魔女さんとどういった関係かは知りませんけど、彼女はれきっとした女性なのよ!」
 張り裂けるような甲高い声で怒鳴りつけられる。ホワイトサタンは不機嫌に目を細める。
「……気丈な方だ。だが気に入らんな。うに魔女は我ら神人類にとって邪魔な存在。女性だろうがなんであろうと余には」
 癪に障ったのか、ヴィーゼは怒りのままにホワイトサタンを病室から突き飛ばし、廊下に尻餅をつかせる。
 ホワイトサタンの視界に、腰に手首を当てたまま仁王立ちするヴィーゼが映る。憤怒の明王のように見下ろす形相。
「御託は他でどうぞ。さぁ出て行って!!」
 そう言い捨てると、突き放すように扉を乱暴に閉めた。静寂の廊下。尻餅をついたままホワイトサタンは呆けた。

 先ほどのトラブルのせいか、静まり返る病室。
「ひょえ〜〜〜〜! 可愛い顔しているのに、カカア天下って事か〜。怖ぇ〜〜」
 デルサスはわざとらしく怯えたような態度でおののく。マレッタは溜息をつき、肘で彼の脇を鋭く突いた。
 ヴィーゼは深い溜息を漏らす。
 再び椅子に座る。周りの人に一瞥。息を呑んでしばしの沈黙。
「診た通り、彼女の肉体はおろか精神体も酷く傷ついています。度重なる戦いと、反則に近い秘術の多用がかなりの負担を強いたのが原因でしょう。
 ですが、私はうに魔女の事をあんまり知りません。どんな風に経緯を経て、彼女が錬金術も接近戦もこなさなければならなくなったのか存じませんですが、これだけは言います」
 そして目線を落とす。すぅっと息を吸う。誰もが彼女の言葉を待つ。
「そのまま引退して、平穏に暮らしながら普通の錬金術を行う程度なら、天寿を全う出来るでしょう。けど、もし戦士としての道を歩み続けるというのなら……」
 マッキーは息を呑む。
「数ヶ月と持たず、確実に死に至ります!」
 はっきりと告げられたその一言が、場に居合わせていた人を凍りつかせた。
 体が震える。動揺して頭の中が真っ白になる。
(そんな、まだ大いなる秘術も……。そして例の鬼蛸族の残党の件もあるってのに! うに姉さんはこれで終わっちゃうの!?)
 酷く胸が脈打つ。色々なものが頭の中を駆け巡る。
「おいおい、ホムンクルスなんだろ? 本体のアリスまで死ぬって訳じゃないんだろ?」
 今度はライナーが口を挟む。
 真剣な顔のヴィーゼに振り向かれ、一瞬ドキッとする。
「肉体は二つだけど、精神体は繋がっています。それに先ほど、アリスの所にもお邪魔したよ。大革命の時でも無茶をしていたようですし、どの道同じです。そんな振る舞いを微塵にも見せないのが驚嘆に値しますけど」
 ええ――――、と驚きの輪が広がる。
 脳裏にアリスの妖しい微笑が浮かぶ。ヴィーゼは切なそうに目を細める。脳裏に再生された彼女の言葉が響き渡る。
「あらぁ、覚悟なしに無茶もしないで理想を叶えられるのかしらねぇー」
 余命通告に対し、彼女はそう笑って言い捨てた。ヴィーゼはその時、あんぐりと口を開けていた。
(大胆不敵とも言うか、どっしりと腰を据えたあの態度。命を賭ける覚悟は半端じゃない……。アリスって女性は途方もなく強い精神力の持ち主だよ)
 目を瞑る。アリスの台詞からして、余命を告げられたくらいでは考えを改めない強い意志が伺えた。
「待てよ……! それが本当だとすると、アリスがポックリ逝っちゃったら創世界もろとも消滅じゃんか! あいつ、理のウロボロスと繋がってんだろ?」
 デルサスは恐怖におののく。
「え? どこで知ったの?」
 マッキーが振り向くと、代わりにマレッタが身を乗り出す。
「運命の鍵の件でルゥを生き返らした時だ。それでザールブルグの連中はみな知ってる」
 ノルンも無言で何度も首を縦に振る。マッキーはそれを聞いて愕然する。詳しい事情を知らなかったライナー達は唖然とした。
 落ち着いた物腰のクロアですら、僅かに口を開けたまま呆然。ジャクリは澄ました顔を保っているが、一筋の汗が頬を伝う。
 切羽詰った顔でクローシェとルカは互いに見合わせる。
 フィーは目を瞑ったまま黙りこくる。
 まるで時が停止したかのように、誰もが静まり返った。

 扉越しで一部始終を聞いていたホワイトサタンは見開いていた。体を震わせた。
 血の気が引き、全身から力が一気に抜けていく感覚を覚えた。目眩で視界が揺れる。膝を落とし、自失する。


あとがき

 もう限界いっぱいだった!? 終盤へ向けてラストスパートって事で、そういう伏線を出しました。
 これも案外どこの作品にもあるパターンなんですけどねー。
 さぁ、ラスボス撃破まで間に合うか!? (大抵はギリで間に合っちゃう可能性が多いけどネw

 しかしヴィーゼは書いてて気分が乗る思いですw
 オレの彼女のイメージはこういう感じなので、ゲームのとは若干違うかもしれません。
 まぁラスボス撃破後なので、心身ともに成長した後って設定。大人びた所もあるかなとw
 だが、それがいいw(^ー^b

 うに魔女の後遺症について、これはずいぶん前から伏線として出ていました。
 運命の鍵もそうだけど、完璧に近い能力を身につければ身につけるほど、彼女の体は確実に"死"へ向かっていく……。
 ミスも犯さないような完璧なアリスも、そう言ったリスクを背負っています。
 と言うか、うに魔女の能力設定が変わりまくるからと、後付したのが大なんですネw (無責任w

 あと、ホワイトサタンって絶対ラスボスじゃないだろw
 ……と、読んでたらそう突っ込む人も多いと思うw なんかイタい人に成り下がった気がw (^^;


316話 「ヴィーゼの応援!!」 2009,7,12
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


 戦場となっている亜空間の奥で、二人の選手が一進一退の攻防を繰り広げていた。
 襲い来る大勢のうにっ子をフェルトは次々と蹴散らしていく。
 うに魔女はうにっ子の攻撃と連携しながら、練成したアイテムを投球し続ける。その余波か、周囲に旋風が渦巻く。
 アイテムを分裂させるワイド、四方から効力が及ぶパス、亜空間を渡るインビジブル、そして渾身を込めたパワーアイテムなどの基本技を駆使しながらフェルトを追い詰めていった。
「頑張れ! フェルトー」「お兄ちゃん、ファイトー!」
 イリスと共にヴィーゼは精一杯の応援を送る。
 それを聞き届けたフェルトは、芯の底から燃え上がるように熱い気持ちが沸く。
 それに伴い、力が漲ってくるように剣捌きは勢いを増した。
「どんな必殺技を繰り出そうとも、オレは絶対に負けないぞ!」
 飛んできた巨大なうにを掻っ捌く。二つに分かれたそれは後方で大爆発を噴き上げた。
「くっ」
(どうしても届かない。まるで分厚い壁が立ちはだかっているかのように崩せない……)
 焦燥を帯びながらも、うに魔女は腕を躍らせ、源素をかき集めていく。たちまち真紅に輝く賢者のうにが虚空に出来上がる。
 うに魔女に目配せされ、大勢の中に限れ込んでいた二体の"うにびー"と"うにこーり"は駆け寄って交錯。
「ファイヤーうにーっす!」「アイスうにーっと!」
 二人の間にフラムとうにレヘルンが練成される。
「おーっし、そして三人調合でー!」
 うに魔女は賢者のうにを翳しながら、二つの相反する属性同士のうにアイテムに突っ込む。すると途端に大地を震わせ、爆音を轟かせた。
 そして青く輝く氷と赤く輝く炎が半分融合され、その中心には核のように真紅のうにが抱えられている。
 水蒸気爆発を繰り返し霧の爆風を撒き散らす、暴走状態のようなうにをうに魔女は翳したまま、自分の支配下に置く。
「食らえぇぇぇ――――ッ!! 複合"二乗"錬金術・賢者のうに氷炎彗星レヘームを!」
 渾身を込めて全力投球。撒き散らす霧の爆風が旋風を描きながら、彗星のように尾を引いてすっ飛ぶ。その余波で軌道上の床が抉れて行く。
 フェルトはうにっ子の大軍に揉まれて苦戦していた。
「フェルトーッ、今度の大技は衝撃波を放つ技で吹き飛ばして――!!」
 ヴィーゼの叫び声にフェルトは無言で頷く。表情を引き締め、飛んでくる賢者のうにをしっかり見据えながら剣を床に突き刺す。
「はぁあッ!! レイジングウェーブ!!」
 突き刺した剣を切り上げ、生じた衝撃波の障壁が吹き荒れる。周りのうにっ子を舞い上がらせて誘爆。空の彼方で爆発の連鎖が轟く。
「もう一発、レイジングウェーブッ!!」
 フェルトは同様の行為を、再び行う。後に放たれた衝撃波の障壁が先の障壁に追いつく。
 賢者のうにと衝突する刹那、衝突しあった二つの障壁が突然、大噴火に豹変。それは賢者のうにを上空へ巻き上げた。
「な!?」
 彼方の空で轟音を立てて、大規模の大爆発が広がった。
 全てを震わせるほどの衝撃波が広範囲に響き渡る。うに魔女は絶句。
「何……ですって!」
「あれは食らいたくないから、避けさせてもらった」
 フェルトは引き締まった表情を見せる。
「お兄ちゃん、やったー!」
「ええ、でも油断大敵だからね! 魔女だけあって色んな技を持っているんだよ。負けないで!」
 フェルトは観戦席にいるイリスとヴィーゼに見やり、口許を綻ばせる。
「ああ、サンキュ」
 呼びかけに応じたフェルトの言葉にイリスはパッと明るい笑顔を見せた。

 クロアとライナーは二人揃って観戦席の遥か高い方から眺めていた。
「……フェルトとか言う少年。あの少女とは家族なのか?」
 クロアの言葉にライナーはニヤけ顔を見せた。
「なんだ?」
「へぇー、あの女性が気になるかw お前、クローシェいるってのにダメだろ?」
 ニヤけながら言い寄るライナーにクロアは疲れたように溜息をついた。
「誤解しないでくれ……。浮気なんて気はない。彼らがまるで万年夫婦だなと思っただけだ」
「おいおい、姉弟とか、兄妹とかそう言う間柄じゃねーの?」
「いや、俺も色々な女性と関わった事があるから分かる。あの二人、何年も共にしている夫婦にも見えたよ。
 数ヶ月そこらで付き合い始めた恋人同士って、雰囲気に見えなかったからな」
「そうなのか?」
 ライナーは怪訝そうに首を傾げた。
 観客がわっと沸きだすのを聞いて、闘技場へと視線を移す。
「うっ、ブレイズダイブ解除!」
 限界が来たのか、辛そうに顔を歪めるうに魔女。屈んだ背中から、火炎の息吹と共に火のマナが抜け出す。
 そして燃えるような容姿は掻き消え、元の服装に戻る。
 膝をついて息を切らす。うにブルーは心配そうな顔で「無茶はダメだよー」と一言言うと、虚空に消える。

「ふはははははっ! ザールブルグの英雄うに魔女よ、てこずっているようだな」
 哄笑にうに魔女は振り向くと、マッキーのいる観戦席にホワイトサタンが腕を組んで立っていた。
 白衣を纏い、流れる金髪。敵の総大将として相応しく、威厳を含む整った顔立ち。見下すような目線だ。
 観客はどよめき、立っている男に視線を注ぐ。
「ホワイトサタン……」
「お前が青二才如きに引導を渡されようとするか。興は削げるだろうが、余にとって邪魔な存在が一人消えるだけの事だ」
 嘲るような捨て台詞に、うに魔女は嫌悪の眼差しでホワイトサタンを見据える。
 マッキーはおろか、フェルトまでもそんな二人の関係に少し苦い顔を見せた。
 脳裏には「普通の人間と変わらないじゃないか」と言い放つフェルトに、ついさっき言い捨てたホワイトサタンのバストアップが映る。
 負けられるか、と対抗心を抱くようにうに魔女は表情に悔しさを滲ませた。
 うに魔女の後方から、四体のうにっ子が五つの円形魔法陣を抱えながらやってくる。
「来るか。あの秘術……」
 フェルトはどこかゾクゾクとするような心地よい緊張感が全身に走った。楽しそうに笑みを浮かべた。
「驚くべき秘術完成!! 今度は……うにっ子ブースター×5搭載型・カスタムうに魔女!!」
 生命の樹セフィロトの魔法陣を媒介にうにブルーが頭へ、四体のうにっ子はそれぞれ手足へと吸い込まれていく。
 大地を揺るがす満ち溢れる生命の光。
 うに魔女の手首、そして足にうにっ子の頭がつき、更に頭には燃え上がるような赤いうにに囲まれた火のマナの顔。
「うにあ――ッ、負けるもんですか――!! マナ・チェンジっッ!!」
 突然、精霊石を手に血気盛んな口調で叫ぶ。鋭い視線がフェルトを射抜く。そして光の柱が彼女を包み、天空を衝いた。
 マッキーは彼女がうにブルーを頭に融合させる事で性格そのものを変えたと察する。
「見ていると、なんだかうに姉さんに足りないものがあるような気がするんだ」
「いや、多彩な技は戦力として充分すぎるくらいだな。強いて言えばレベルの低さか? まぁ、アリスにもそのスキルが共用されるようだから問題ない」
「そういう意味で言っているんじゃないよ」
 困惑顔でマッキーはホワイトサタンの言葉を否定する。怪訝そうに眉を顰める。
「……どういう意味だ?」
 マッキーはかぶりを振る。
「きっと、今のアンタには分からだろうね」
 ホワイトサタンは眉を跳ねた。以後、黙りこくったが少年の言葉が気になっていく。

「うにあああああああ――――――ッ!!」
 吠え猛るうに魔女はうにっ子と共に、フェルトへ猛攻を仕掛けていた。
(何を……焦っているんだよ?)
 マッキーはうに魔女の行方に危惧を抱く。
 勢いを増した彼女の攻撃に、フェルトも手傷を負い始めていた。未だにうに魔女の優勢は続く。
 うに魔女はフェルトの攻撃パターンを短期間で覚え、そして完璧に近い連携で絶え間のない攻撃を可能にした。
 それに嵌った相手は気を休められる余裕を奪われ、力尽きるまで防戦を余儀なくされる。
 そんな"驚くべき秘術"によって生み出された戦術は、百戦錬磨のフェルトも追い詰められていく。
 数度の打撃を受け、岩山に背中を打ち付ける。なおも執拗にうにっ子が飛び掛る。
「ぐうっ!」
 激痛に呻きながらも、即座に体勢を立て直す。辛うじて必死に猛攻を防いでいくが、確実に気力は徐々に削がれていった。
 その危機感にヴィーゼは固唾を呑む。思わずスカートの裾を握り締める。
「どうしよう。お兄ちゃんが負けちゃう――」
 今にも悲鳴を上げそうなくらいイリスはうろたえる。ヴィーゼは宥めるように頭を撫でる。
「大丈夫。彼は強いんだから!」
 唇を噛み、何かを見据えるようにしっかりした物腰で言い放つ。真っ直ぐなその瞳にイリスも驚く。
 フェルトの事を信頼し、どんな結果になったとしても受け止める覚悟があると言う事を彼女は態度で示した。
「うん、イリスも!」
 涙が零れながら頷く。二人は共に頷きあい、揃って立ち上がると一斉に息を吸う。
「「フェルト――――、負けるな――――!!!!」」
 想いを込めてヴィーゼとイリスは必死に叫ぶ。その声を聞き届け、フェルトは見開く。
 精根尽き果てようとする寸前、まるで二人に支えられ、力を分けてもらったかのように気力が蘇っていく。
「ここまで応援されて……、オレも負けてられないんだぁぁぁッ!!」
 フェルトの身体から凄まじいオーラが漏れ出す。足元の床に亀裂が走っていく。
「あ、あれは……!? フィーのアヴァターと同じ……?」
「うおおおおおおおおおお――――――ッ!!!!!」
 裂帛の気合と共にフェルトは咆哮を上げた。青く噴出された炎はたちまち大噴火のように天を突き上げ、全てを震撼させる。
 次々と大地の割れ目から蒼い噴火が噴いていく。
(久々に本気を出したフェルトの……"蒼き闘気"か!! あれは私のアヴァターの比じゃないぞ)
 観戦していたフィーも頬に一筋の汗を垂らす。
 漲る闘志の眼差し。旋風がうに魔女に吹き荒れた。彼女は青ざめ、芯の底から恐怖で身体が震えた。
「何処に……そんな力があったのよ!? 痩せ我慢しているだけなら、私たちの攻撃は食い止められないッ!」
 それでも数百体のうにっ子の雪崩れとうに魔女は止まらず、一斉に飛び掛る。
 フェルトはゆっくり円を描くように剣を上げ、天高く翳す。
「エターナルマナ・ファイナルエッジィィィィ――――ッ!!」
 気合と共に放たれた絶叫。凄まじい威圧が破裂するように吹き荒れる。それに吹き飛ばされて、岩飛礫が飛び交う。
 次の瞬間、フェルトは凄まじい速さで踊るように剣を振るい始めた。
 三日月のように弧を描く軌跡が幾重に紡ぎだされ、空に煌きが彩った。その優雅な剣閃は周囲のあらゆるものを切り裂き、襲い来るうにっ子を一気に爆発させた。
 幾重の煌く軌跡が、うに魔女を四方八方から切り刻む。
「ああああああああああ!!!!!」
 引き裂くような悲鳴。服装の破片を散らし、空高く舞う身体。血飛沫が舞う。
 隕石が墜落したような振動と共に轟音が響いた。
 観客は唖然と静まり返った。
 開いた巨大なクレーターの中心に、血塗れのうに魔女は沈む。
 完膚なく打ち伏せられ、微動だにしない。地面に血が広がる。
「終わりだ。女性を相手に悪いけど、オレはお前と戦えて満足してる。ありがとう、そしてゴメンな」
 フェルトは儚い笑顔で頭を下げ、鞘に剣を収めた。
 案じていたヴィーゼは安堵の息をつく。
「立て!! お前の力はそんなものか!!!!」
 突然観戦席から叫び声が上がり、フェルトは振り向く。観客はどよめく。
 ホワイトサタンが憤怒の形相で立ち上がっていた。
 マッキーも驚いて彼を眺める。観客の視線を浴びながら、ホワイトサタンは倒れているうに魔女を見据える。
「英雄ならば、この程度の苦難など吹き飛ばせ。それが出来なければ、余は先に"大いなる秘術"を取って世界を終わらせるぞ!!」
 嫌悪の眼差しで怒鳴る。フェルトはそんな彼を見定め、困惑する。
 ホワイトサタンの掛け声も虚しく、うに魔女は起き上がる気配を見せない。
「無念、うに魔女はここまで。善戦するも力及ばなかったかー!? 準決勝戦はフェルトの勝ちだぁ――――――!!」
 ダグラスの宣言に沸き上がる歓声。ホワイトサタンは衝撃を受け、呆然自失に陥る。


あとがき

 どっかのバトル漫画やスポーツ漫画ではしっつこいぐらい立ち上がるのが定番なんですよネw
 普通なら、うに魔女も根性で立つ展開になる。
 フェルトはもちろん「バカな、もう力なんて残っていないはず」とか言って驚く。
 底力を発揮して大逆転するのもよし、パワーアップして相手を上回るのもよし、後一歩で追い詰めたのに惜敗とかでもw
 今回はテーマの方を優先したので、別にこだわる必要はなかったでした。
 でも、これじゃ逆だ。フェルトたちの方が主人公側っぽいっすネw(^^;

 この話を書くのに、二話分丸まるボツになってました。
 カスタムうに魔女が新しいアインツェルカンプを編み出して追い詰める話。これはテーマが軽くなるのでダメでした。
 そして、もう一つの話がフェルトに最強技で倒されるけど、ホワイトサタンの罵倒(この話にも出てた奴ね)で血塗れのまま起き上がり、事もあろうかと三つのギフトを覚醒するんです。
 その力でフェルトを圧倒するが意識を徐々に失っていき、勝敗が気になる展開にしてました。


315話 「英雄って特別な人?」 2009,7,11
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


 フェルトはヴィーゼとイリスが佇む殺風景な選手控え室。それでも歓声が僅かに響いていた。
「やっぱり手加減できない?」
 ヴィーゼはアゾットの剣を大事そうに抱えたまま、憂いた表情を見せる。
「うん、悪いなとは思ってるよ。でもオレは多彩な技を持つうに魔女と全力で戦ってみたいんだ」
 覗く無垢な双眸、しかしそれにそぐわぬ強い決意を秘める眼光が見える。
 ヴィーゼは呆れると同時に、そこが頼り甲斐があると内心で感嘆する。
「はい。ではこの錬金剣エラスムスを」
 笑顔で抱きかかえていたアゾットを差し出す。
 フェルトも笑顔でそれを受け取る。暖かい温もりを感じた。鞘を握り締める。
(エラスムス……、あんたが亡くなってから何年経ったのか。でもパラケルススの狂気を止める為に仕方がなかったんだろうな。
 今では練成しなおして自分がマナを込めて力を振るえるようになったとは言え、やはり寂しいな)
 フェルトは立ち上がり、ヴィーゼとイリスへ振り返る。
「それじゃあ、行ってくる」
 その台詞でヴィーゼは昔を思い返した。
 かつて彼が生まれ故郷のエデンからベルクハイデへ旅立つ時、戻って来れないかもしれない不安心からヴィーゼは泣き喚いた。
 彼はそれでも彼女の涙の制止を振り切って「必ず戻ってくるよ」と約束して行ってしまった。
 そしてヴィーゼは笑顔で見送るもその後、泣き崩れた。そこで回想は途切れる。
(これがなかったら二度と帰ってこれなかったかもね……)
 ヴィーゼは儚い笑顔で目を落とす。いまだに指に嵌められた古代文字が刻まれている指輪。フェルトにも同様の指輪が嵌められている。
 シェアドリング、所有者同士でアイテムを共有できる伝説級のアイテム。
 紆余曲折あったけど、これのおかげで彼は約束通り無事に帰ってこれた。
「うん、いってらっしゃい!」
 ヴィーゼは満面の笑顔でフェルトを見送った。
 これが出来るのも、今までの経緯によってより強固に繋がった二人の絆ゆえだった。
 だからこそ、今では互いの笑顔でフェルトが行き、ヴィーゼが待つ事が出来るように強くなっていた。
 そんな二人の様子にイリスはニコニコと微笑んだ。


 別の控え室にて、流れるように紡がれてゆく歌が響き渡る。
 うに魔女はラステルとレプレの二人が翳す掌から篭れ出る光の飛礫を浴びていた。
 その側で見守るフィー。静かに終わるのを待っていた。
「もう回復終わったよー」「体力と精神力までは難しいけども、まだいっぺん戦えるかもしれねぇだ」
 一息をついて二人は離れた。うに魔女はゆっくり目を開ける。気丈な眼光が輝いた。
 レプレは思わずドキッとした。
 出会って間もない付き合いだけど、彼女の活躍は目を見張るものがあった。行く末を見守りたいと彼女は前々から思っていた。
(さっすがザールブルグの英雄だな。生まれた時からそんな宿命を帯びた特別の人だぺな。オラとは全然ちげぇ人間だよ)
 レプレの憧れの眼差しに、うに魔女は素っ頓狂な表情を見せる。
「……終わったようだな」
 フィーの言葉にうに魔女は振り返る。無言で頷く。
 何しろ、これからクロアやライナー級の強さを持つフェルトと対戦するのだ。だからこそ彼女は気を引き締めている。
「彼から言われた事だ。聞け。フェルトはお前と違う世界での英雄だ。彼がいなければ、我々の世界も終わりを迎えていたのかもしれない。
 彼はそれを乗り越えた人。不意討ちでも倒せん。心して挑め」
 うに魔女は百も承知、と頷く。
 その後、彼女の口から彼の能力について説明を聞く。フェルト自身が申し出た事で、フェアじゃないからと頼まれた事だった。
 我ながら対戦相手に塩を送るなんて呆れたな、とフィーは自嘲した。
「では行け。両雄にも応援を送る」「うに!」
 うに魔女は意を決して扉を開く。瞳を輝かせるレプレとは対照的に心配そうに見送るラステル。
 フィーはその様子を見納める。
 廊下を歩いていると、黙りこくるマッキーと、静かに背中を壁に預け腕を組んでいるホワイトサタンがいた。
「……うに魔女、この余に太刀打ちできるつもりなら、その程度の事くらい乗り越えてもらいたいものだ」
「ええ、あんたは私たちの敵――。もちろん負けないし、あんたにだって負けられないからね」
 互いに眼を飛ばすような敵対の意識。マッキーは見納め、察した不穏な気配に表情を曇らす。

 まるで最高潮と賑わうコロシアム。観戦席にはヴィーゼ達とマッキー、そしてホワイトサタンが闘技場に視線を送る。
「さぁーやってきたぜぇー、準決勝戦!! 異国の英雄同士の夢の対決! うに魔女とフェルト、どちらが勝つのか!?」
 闘技場には一人の男と女性が対峙していた。
 蒼い色調に統一されたサッパリした服装に海を強調するかのようなドレスが雌雄を決するが如く、両雄相まみえる。
 だが、うに魔女の方は度重なる激戦で服はボロボロ。傷は癒えているものの肌は僅かに汚れ、仕草からも万全じゃない気配がフェルトも窺えた。
「満身創痍だな。まだ闘えるか?」
 フェルトは一人の戦士のように鋭く見据える。
 それに対してうに魔女は引けを取らず、精一杯見据え返した。
「心配は無用。私は一人の戦士としてこの試合も勝ち抜いて見せるわ」
「へぇ、"見かけ"によらず強いんだな」
 ダグラスが舞い、勢いよくマイクを翳す。
「それでは準決勝開始だ――――――!!」
 周りの風景が姿を変え、仰々しい天空の世界が覗く。所々、浮遊島が浮いている風景。
 そしてフェルトとうに魔女が対峙する場所は、牙のような四柱で囲んだ神殿のような広間。殺風景だ。
「ここは……、オレたちがパラケルススと最終決戦した"創生の神殿"の頂上の"雲海の広間"か。アリスは微妙な所でチョイスしてくるなぁ」
 見渡し、彼はそう呟く。
「……知っているのね」
「ああ」
 うに魔女の問いにフェルトは快く答えた。
「では、始め――――――ッ!!!」
 ダグラスの告げで、双方の間から威圧が反発、旋風の如く吹き荒れる。広間は早くも軋み、亀裂が走る。
「うにブルーッ!! れっつ・すたんばい・ふぁいやー!!」「あいよー!!」
 うに魔女の呼び声にうに頭が特徴的な火のマナはそれに応じ、彼女の掌に導かれながら姿を現す。
「ブレイズダイブ! 熱血乙女(ファイヤーファイト・メイデン)うに魔女!!」
 火のマナを胸元に叩きつけ、猛る火炎の息吹が彼女の身を包む。フェルトは目を丸くする。
 うに魔女は額に燃え上がる火の玉を宿し、更に服装は真紅のワンピースに、身体全体が燃え上がるオーラを纏う。
「なんとぉ――! うに魔女もうに姫と同様にブレイズダイブしただとー!!」
 観戦席のココナ、そしてホテルのテレビで見ていたうに姫も目を丸くする。
(……ブレイズ合体よりも更に深いマナとの融合体。火のマナは身体能力を強化させる力。何てことだ、奴は他にも手段を隠していたのか)
 マレッタも頬に一筋の汗を垂らす。
「へっ、さすが歴戦の英雄って事か。俺らとレベルが違う人間だな、全く」
「そりゃそうにゃ! 身体の作りも普通の人間と違うにゃー!!」
 デルサスは笑い、ノルンは憧れの眼差しを向ける。しかしマレッタは浮かない顔を見せていた。
「うにああぁぁぁぁ!!!」
「やああああ――っ!!」
 うに魔女のうにメイスとフェルトの錬金剣がぶつかり合い、破裂するように吹き荒れた衝撃波が全てを揺るがす。更に広間に亀裂が走り、剥がれた破片が吹き飛ぶ。
「うううううう……ッ!!!」
 戦士の表情で互いは衝撃波に身を貫かれながら競り合う。互いの得物と腕は震え、反発しあう余波で二人の足元の床が抉れた。
「エクストラ・ステップ!!」
 フェルトはしなやかな動きで弧を描きながらメイスを捌き、一撃を見舞う。
「っく、オーロラヴェールッ!!」
 咄嗟に踊り舞い、オーロラが螺旋を描きながら吹き荒れる。しかし刀身を逸らしきれず、切っ先に肩を掠られる。血飛沫が舞う。
「あぁッ」
 うに魔女は無様に地面を滑り、柱の根っこに身を打ちつけた。
 そして剣閃の衝撃波が後方の牙の形をした柱をいくつか斬り散らす。
「ぐ……」
 呻きながらもうに魔女は肩に手を当てたまま、身を起こす。
「まだ未だに隠し持っていた技があったんだな。驚いた」
 素直に感嘆を漏らすが、裏腹にフェルトは鋭い視線で見下ろす。油断せず、剣を携えて待ち構えている。
 うに魔女はフィーの言葉を思い出す。
(フェルトは身のこなしが驚くほど軽やかだ。堅実な一撃もさることながら、それでいて柔軟に振るう剣術は他に類を見ない。地味そうに見えるが、それが寧ろ厄介だ)
「ならば、うにっ子――ッ!! 皆の者出会えー!! 曲者じゃー!」
 うに魔女は拳を突き上げ、後方から花火が鳴り響くと共に、数十体のうにっ子が一斉に飛び出す。
「うにゃ!」「うに!」「うにに!」「うにぁー!!」
 気合を発しながら大勢なだれ込み、フェルトへと殺到する。フェルトは腹がよじれるように剣を大きく振りかぶり、溜め込んだ力を爆発させる。
「はあぁッ!! ファントムエッジ・ブロウ――――ッ!!」
 大きく薙ぎ振るわれた剣から、幾重もの巨大な剣の残像が嵐の如く吹き荒れ、広間ごと切り刻む。
 うにっ子は悲鳴をあげながら一斉に誘爆、爆発の連鎖を轟かせた。
「賢者のうに八方手裏剣――――ッ!!」
 いつの間にか飛び上がっていたのか、上空からうに魔女が巨大な手裏剣を引っさげて急降下。それをフェルトに向かって突き出す。
 大気を震わせながら手裏剣は唸りをあげ、扇風機のように高速回転を繰り返す。
 轟音を立てて竜巻のように激しい旋風が吹き荒れる。周りの舞っていく岩飛礫は巻き込まれると共に、砂塵に散っていく。
「うにあぁぁぁぁ――――――!!」
 裂帛の気合を発しながら襲い掛かるうに魔女を見極め、見開く。
「ファントムエッジ・ストライク!!」
 すかさず錬金剣で真っ直ぐ突き出し、全てを射抜くが如く鋭い剣閃を飛ばす。
 賢者のうに手裏剣を剣閃が射抜く。破裂音を響かせながら、破裂した風の源素が広間を木っ端微塵に吹き飛ばす。周りの浮遊島も巻き添えを食らい、次々と砕け散る。

 嵐の後の静けさのように沈黙した空気。
「そんなッ! うそ……!!?」
 浮いている床の欠片の上で、尻餅をつくうに魔女は絶句の表情を浮かべる。
 貫通性能の風の技の奥義を一撃だけで相殺されたのだ。前代未聞の結果に彼女も目を疑う。
「その回転する奴は基本的に中心が脆いんだ。その弱点を軽減する為に、複雑に絡み合う繊維みたいに風の刃で覆うように練りこんだんだな。でも、針の穴を通すほどの隙間に強撃を加えれば、簡単に破れるぞ」
 フェルトは丁重な口調でそう言い放ち、剣を薙ぎ下ろす。
(彼は……剣閃を飛ばす能力も厄介だが、何よりも恐ろしいのは精確に剣を振るう事だな。ミリの十分の一までも斬れるぞ)
 フィーの言葉にうに魔女は苦い顔を見せる。
「くそ……、うに姉さん押され続けているじゃないか」
 歯軋りするマッキー。ホワイトサタンも目を細める。
「うお――――!! うに魔女、根性見せんかーい!! 接近戦も錬金術もお手の物のオールラウンド超人的才能で大逆転だ――!!!!」
「ヒーローの星の下で生まれたうに魔女にかかれば、こんなん負けないにゃ――!!」
 何故か燃え上がっているデルサスとノルンにマレッタは呆れる。
 それに加え、うに魔女を英雄視する観戦客も期待を胸に応援の歓声をあげていた。
「……無責任だな」
 マレッタは溜息をつく。

 正確無比の剣撃によってうにっ子が薙ぎ散らされ、爆発の連鎖を轟かせた。振動音が大気を伝わってくる。
「うう……、届かない」
 健闘するも疲労困憊。片膝を跪き、息を切らすうに魔女の様子にフェルトは見かねた。
「あんたは英雄にならない方がいいと思うんだ。さっき闘ってみて分かる通り、身体だけは普通の人間と変わらないじゃないか」
 はっきりと告げるフェルトに、うに魔女は呆然する。
 ヴィーゼも曇った表情で内心頷く。
(うん、素質あるけどフィーやマレッタの様に女性の中でも逞しい身体じゃないもん。あたしとそう変わらないよ)
 イリスは純粋に「二人ともふぁいとー、ふぁいとー!」と懸命に腕を振るって応援を飛ばしていた。


あとがき

 実はこの物語のテーマに触れているんだよね、この話。
 うに魔女とフェルト&ヴィーゼの立場を見比べる為の展開といった所かな? 幸いイリス2が出てて良かったですw
 接戦も錬金術OKの万能の能力を持ち、更に妖精王の力まで持つ特別な人っぽい雰囲気を持つけど、実はそうでもなかったりすると言う裏側が見え始めてきたって頃合かな?
 火のない所に煙が立たない、そんな風に原因もなく万能の戦士が誕生する訳がないですよー。

 更に後に控えている勧善懲悪&インフレの伏線が待っている事だしね。どないしよ〜。
 でもこれもテーマ(後付ですがw)に入っているのですw お楽しみあれw(^^;


314話 「意外なる惜敗!!!?」 2009,7,10
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


「こーるこん。こーるこーん。こるこーん」
 三体共に氷のうにっ子"うにこーり"は本棚の物陰で、団円に囲み、互いに掌を向け合って源素をかき集めていた。
「電荷プラス」「電荷マイナス」「賢者のうにー!」
 揃って口に出すと共に、稲光が周囲に激しく迸った。床を揺るがし、唸りを上げた。
 その稲光が収束されていき、生まれた赤いうにへと纏わり付いていく。
「おーし! 賢者のうにドンパッチ完成だねっ!」「うに!」「うにに!」
 うにの形に留められた雷のうに。うにっ子たちは笑顔に綻んだ。

 クロアがうに魔女へ槍を突き出すと、同時に三体のうにっ子が飛び出し、雷のうにをうに魔女に手渡す。
「ここは我らが動きを封じるうに!」「クロア、覚悟ー!」
 二体のうにっ子は彼女を通り過ぎ、動きを封じるべきクロアへと飛びかかる。
 もう一体はうに魔女の背中に張り付く。
「よし、これで勝ったぁ――――――!!」
「甘い!」
 叱責するようにクロアは吠える。
 投球フォームで肘が最も高く振り上げられたポーズを狙い、クロアは槍の噴出をそのまま床に足で踏ん張る。
 床が抉れ、破片が弾き飛ばされた。
 あめあられの様に飛んでくる破片が二体のうにっ子を虚空に散らし、うに魔女の体勢を崩す。
「ぐああぁっ!」
 激痛に呻き、雷の賢者のうには掌からすっぽ抜けて空へ飛んでいく。
 うに魔女は絶句。
「万策尽きたなッ!!」
 そのままクロアは加速。槍の切っ先を僅かにずらし、その腹でうに魔女を勢いよく弾き飛ばす。
 吹っ飛ばされ本棚に背中を強打。その余波で本が散乱。
「ぐぁ……ッ!!」
 うに魔女は痛みに呻き、へし折れた本棚と共に床に崩れ落ちる。
 立ち上がろうとするが、身体が痺れて動けない。

「なんてことだ――ッ! あそこでクロアが咄嗟にそんな機転を利かすなんてッ」
 マッキーは頭を抱えた。
 ホワイトサタンは目を細め、唇を噛む。
「さぁー、これでうに魔女に逆転の可能性なし! この二回戦はクロアの勝――――」
 ダグラスがそう言い掛けた刹那、稲光がコロシアムを照らした。
「なに――――これ――――!?」
 観戦客は見上げ、上空の光景に驚愕の表情を浮かべた。
 激しく稲光を散らしながら、うにの形をした巨大な雷雲が上空の大半を占めていた。
 うにっ子の特徴的な顔が付いていて、広げる口から雷の塊が覗く。
 なおも荒れ狂う稲光が地上のあらゆるものを打ち砕く。
「な……に!?」
 クロアは見上げ、絶句。稲光が表情を照らす。
「これぞ……、本当の本気の取って置き! 天候錬金術スーパーウェザー・賢者のうにドンパッチ!」
 うに魔女はよろめきながら立ち上がり、上空へ向かって指差した。
「そうか! 大規模的な火炎で雲を作り出し、めがこーりで氷の粒から生まれた雷をコントロール下におき、しかもすっぽ抜けた賢者のうにによって天災レベルの電流を手懐けた。これが“驚くべき秘術”状態のうに魔女の策……!?」
 マッキーは唾を飲み込む。
「ああ、同じワッカギフトのセロットとはえらい違いだな」
「そりゃセロットは軟派男でヘタレだし。仕方ないよ」
 ホワイトサタンとマッキーの言葉に、たまたま通りかかっていたセロットは「うぐぅ!」と胸を刺された。
(なんてこった、俺様に……ヘタレ属性が……)
 土下座するように落ち込む。

「負けを認めてッ! 死ぬわよ」
「断る! 俺はそれでも諦めないッ!!」
 うに魔女の忠告にもクロアはあくまで諦めず、地を蹴る。槍の切っ先をうに魔女に向けた。
 しかし、それより早くうに魔女の腕が振り下ろされた。
 クローシェはその光景に見開き、心の何かが弾けた。
「クロア……ッ!」
 雷雲は巨大な雷のうにを吐き出し、刹那の落雷はイリスのアトリエごと撃ち貫いた。木っ端微塵に破砕。数百数千とも言える稲光が荒れ狂い、広範囲に迸っていく。
 まるで龍が食い散らすように、岩山、木々、大地等を穿ちながら地上を蹂躙し続けた。

 瓦礫が積み重なり、もはやイリスのアトリエの面影を残さないほどに荒れ果ててしまっていた。
 煙幕が未だに立ちこめる最中、うに魔女は水の幕で覆われていた。背中に張り付いたうにこーりが効力を発揮してバリアとなって電流を逸らしていたのだ。
 役目を果たした水の幕は弾け散って霧散。
「へへ……、なんとか勝てちゃったかな」
 息をつき、うに魔女は安堵。
「ああ、まともに食らってたら俺も一巻の終わりだったな」
「……え!?」
 声が聞こえ、うに魔女は驚いて振り向く。
 晴れる煙幕。笑んだクロアが無事な姿で立っていた。
 観戦客はどよめいた。それもそのはず、逃げる事も避ける事も敵わぬはずの雷をまともに喰らって、全くの無傷で済ましていたのだ。
「そ……んな……」
 絶望の最中、うに魔女は落胆して膝をつく。
 全ての力を使い果たし、彼女はもう闘える力はない。さっきの天候錬金術が最後の手段だったのだ。
 観戦していたマッキーは唇を震わせ、崩れ落ちる。
「この二回戦、うに魔女惜しくも敗れたり!! クロアの勝ちだ――――――――――!!」
 コロシアムは大歓声に沸き上がった。


 賑わうコロシアムを遠景に、ホテルの窓から眺めるうに姫。切ない表情を浮かべていた。
 立派な一室の部屋。広く、大きなベッドにテレビもテーブルもタンスも完備と贅沢な設備。
 テレビに試合中のうに魔女が映っていた。
「……アタシたちの居場所はここしかないのかしらね」
 うに姫は振り返り、ベッドで寝入っているくり王子を眺める。
 くり王子はノルンとの切迫した勝負のお陰で、未だ体調は戻らず眠り続けていた。
(グランドガーアでは、御子とは名ばかりの奴隷のような境遇だった。丁寧に扱われていたけど、皆は煙たがっていたものね。生贄に捧げられるまでアタシもビクビクしてたもの……)
 くり王子の額を優しく撫で、儚い微笑みを垣間見せる。

 この後、うに姫を通じてくり王子は大会参加を辞退し、ライナーは準決勝戦で不戦勝となった。


 コロシアムでどよめく歓声。驚いているような顔が揃う。
 主催席でアリスとアイゼルは腕を組んで傍観。十戒の一人がマイクを手に取る。
「二回戦のうに魔女対クロアの試合にて、クロア選手が観戦客からのサポートを受けていた事が発覚しました。つまり反則の判定となり、クロアの勝利は無効されます」
 クロアは「やっぱりな」と呆れるように溜息をついた。
「クローシェ……?」
 ココナは困惑顔で彼女を見やる。ルカもアマリエも同様、彼女に視線を注いでいた。
 切羽詰った顔でクローシェは息を切らしながら立ち尽くしていた。
「まぁ気持ちは分からんでもないが……」
 周りの観戦客の視線が集まる最中、レグリスは息を付く。
 天候錬金術が発動される瞬間、クロアを守る為にクローシェは咄嗟に詩魔法を放ったのだ。
 彼の死を恐れたが故に、反応してしまった行為だった。
「と言う訳で詩魔法の援護を受けたクロアは反則負け。うに魔女は準決勝へ進出だ――――ッ!!」
 白衣に包んだ天使が白い羽を羽ばたかせ、クロアに憑依する感じで溶け込む。光の粒が滲み込み、あらゆる傷を癒し、下半身の酷い傷も何事もなかったかのようになくなっていった。
「リフュールリヒトと同等の効力のうにエンジェルって事か? さすが錬金術士だな」
 クロアは驚いた眼差しで癒えた身体を見やる。
 うに魔女が悲哀の表情を見せていた事にクロアは気付く。そして首を振る。
「いい、気にしなくてもいいんだ。思う存分試合が出来たから悔いはない。どのみち負けていたんだ。頑張れ、応援している」
 快く笑んだまま、クロアは退場する。
「うん、ありがとっ」
 うに魔女は頷き、微笑んだ。


あとがき

 こういうフェイント的な展開にしてスマン。
 惜敗とタイトルに描いていますが、実はうに魔女の……と書いていないんだよネw
 クロアもうに魔女に苦戦していたし、どっちが勝ってもおかしくないし。
 でも、なんか主人公補正かかってない?(笑
 今度はイリス2のフェルトとの対戦か!? さぁヴィーゼを賭けて勝負ッ!!(嘘w
 そして決勝ではライナーと再戦して今度こそ優勝だ――――!!

 ちなみにフィー<クロア<フェルト<ライナーと言う強さ順ではないですw
 どっちが勝ってもおかしくないほど切迫しているって感じでお願いしますーw

 しかし、雷のうにを外した時にクロアも容赦なくブッ刺せばうに魔女に勝ってたのにナー。
 でもそれが出来なかったクロアはらしいと言えば、らしいですネw
 それとこの物語ではクロアはクローシェと結ばれエンドって設定ですw これが定番かもって事でw(^ー^b


313話 「うに魔女の密かな戦術」 2009,7,9
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


「さぁーて、期待の星のうに魔女と優勝候補の騎士クロア。ついに対戦だぜぇ――!!」
 歓声に囲まれ、クロアとうに魔女は闘技場で対峙。
「クロア、負けたら承知しないんだからね! やっちゃいなさい!!」「クロアー、頑張れー!!」
 クローシェとココナは立ち上がって応援を飛ばす。
 戦士としての面構えのクロア。もはや一人の女性として見ているような眼光ではない。厳かな雰囲気が漂う。
 うに魔女は頬に汗を垂らし、負けじとクロアを見据える。
 闘技場は歪み、亜空間へと誘われてゆく。そして思い出が詰まった図書館のような場所に出る。
 あちこち本棚が並び、まるでダンジョンのように入り組んでいる。積まれた本が所々道を塞いでいる。そして上の段には豪勢な研究室が覗く。あらゆる古今東西の材料と器具が揃っている。
(ここは……イリスのアトリエ! ムルの結晶と決戦をした所。懐かしいわね)
 しばし目を瞑り、思い出にふけるうに魔女。クロアはそれを察する。
「やっぱり知っているんだな、ここ」
「うん」
 彼女の澄んだ目。強い決意を宿し、燃え上がる意志が窺える。
 クロアの携える槍の後方から勢いよく光が噴出される。
「……怨むなよ。本気でお前を倒したいと思う」
「うん、遠慮なく来てくれた方が後腐れのないように出来るからね」
 うに魔女の笑顔にクロアは爽やかに笑む。
「そうか、お前とぶつかって本当に良かったよ」
 更に槍は火を噴く。今すぐにでも飛び出しそうなぐらい勢いは強くなっていく。
「それじゃ、いくわよ!! 恐るべき秘術、うにっ子"うにびー"大軍団――――!!」
 うに魔女は手を薙ぐ。周囲で火花が噴き上がり、次々と赤いうにっ子が飛び出す。総勢数十体、それぞれポーズを決める。
(もうあの時とは違う。確かな実力を身につけ、どんな強敵にも負けない力を得たのよ)
 脳裏にムルの結晶が映る。熱い想いが全身を駆け巡り、拳を握り締める。
「かわいいの……」
 うにっ子の集団を見て、イリスは呟く。「そうだね〜」とヴィーゼは微笑む。
 密かにホッペとかぷにぷにしたいなと欲求に駆られる。
「へぇ〜色々な錬金術を持っているんだな。アイテムに生命を宿す術が、分身の術になっているなんて初めてだ」
 フェルトも面白そうにうに魔女の術を眺める。
「面白い技だ。だがな……」
 クロアは槍を向け、巨大な弾丸のように大軍へと切り込む。
 突進から生まれた衝撃波によって生まれた旋風が、広い範囲のうにっ子も巻き込んで弾き飛ばし、爆発させて殲滅!
「数で俺に勝てると思ったら大間違いだ!!」
 爆炎の余韻を抜け出し、クロアは獲物を狩るような形相でうに魔女へ槍を突き出す。
「くっ!」
 身を引き、辛うじて槍の一撃をかわす。腕を掠り、血が噴出す。
 ラステルとレプレは「あっ」と力む。
 クロアへ振り返り、うに魔女は焦燥を帯びる。
「な、なんとぉー!! 一騎当千の如き強さで"恐るべき秘術"を物ともしないぜ――ッ!!」
 白熱してくる展開に大歓声が沸き上がる。
 流血する傷口を手で押さえる。掠り傷と言えど、血の量からして後に痛手になりそうだ。
(……ヴィーゼが言ってたわ。血の量だけは回復アイテムでどうにかできるもんじゃないって。それでも傷口は塞がないとね)
「うにナース」
 看護婦の服を着たうにっ子が飛び出し、腕の傷にキスをする。うにっ子は解け消え、光の粒が傷を塞いでいく。
 息を切らすうに魔女をクロアは静かに見下ろす。
(直線的とは言え、速さも威力もフィー以上……。恐らく勝ち目はない)
 クロアの実力を目の辺りにし、息を呑む。
「まだまだこれから! うにっ子ギャラクシー!!」
 それでも負けまいと、踊り舞って銀河のような源素の渦を作り出す。そして次々とうにっ子を大量生産して行く。
 うにっ子は一斉に両掌を重ね、それをクロアに向けたまま身構えた。
「全員射撃用――意ッ! プチうにフラム――!!」
 並べられた機関銃のように数え切れないほどの小さなうにフラムが撃ち出される。クロアは臆する事もなく、ロケットのように天高く飛び上がる。
 小さなうにフラムは虚しく地面や壁、本棚に着弾して爆風を巻き上げる。火炎が生まれ、燃え移る。
 うに魔女はポーズを取り、黒いうにっ子に合図を送る。
 獲物を狙い澄ますように、クロアは一気に急下降。隕石のように床を穿ち、その衝撃波が周りのうにっ子を掻き消す。
 更にクロアは縦横無尽に飛び回り、次々と蹴散らされ、うにっ子は舞う。
「うにゃ!」「うびゃーん」「うびっ」「うにゃー!」
 悲鳴と共に爆発の連鎖が轟く。
 クロアは戦神如しの気迫の勢いで大軍を削いで行く。
 驀進して衝撃波を撒き散らし、連続突きが散弾銃のように穿ち、持ち得る多彩の技でうにっ子を蹴散らし、うに魔女を徐々に追い詰めていく。
 槍の切っ先が背中を掠り、血飛沫が舞う。
「うく……ッ!」
 うに魔女は膝をつく。服の到る所が破け、零れる血で濡れる。全て掠り傷だが、それでもうに魔女にとっては苦しい状況だ。
 止まない荒い息、床に滴る血。
「主を守るうに!」「死守、死守〜!」「うにー」「うに!」「うにに!」
 生き残っているうにっ子は必死にうに魔女を守るべき、取り囲んで構える。
「どうしてうに魔女はマナチェンジしないのかしら?」
 怪訝そうにクローシェは怪しんだ。
「うーん、もう体力に余裕がないのかなー?」
「いや、恐らくは敵わないと見て戦法を切り替えたのだろう」
 ココナの問いにレグリスが応える。なるほどと、頷く。
 しかしジャクリは腕を組みながら笑む。
(そう言う単純な理由だけじゃないと思うけどね……)
 うに魔女の劣勢にマッキーは歯軋りする。
 側のホワイトサタンも何故か組んでいる腕に力が篭る。

 すると大気中が震え始め、イリスのアトリエ中から赤い源素が螺旋を描きながらうに魔女の真上に収束されて行く。
「アレは――――!!」
 うにっ子も手を翳し、練成に協力していた。
 クロアは溜息をつく。
 うに魔女の掲げた掌の上に燃え盛るうに、そしてその中心には赤い宝石が抱えられていた。
「複合"六乗"錬金術・賢者のうに火炎輪!!! 行くわよ――!!」
「無駄だ、そんな一撃必殺をわざわざ受けるほど俺はお人好しじゃないんだぞ? かわされて隙を突かれるのがオチだ」
 投げつける瞬間、クロアはかわそうと身を屈める。しかし、本の山に隠れていたうにっ子が数人飛び出し、クロアの両足にしがみ付く。
「な!?」
 氷のうにっ子は効力を発動し、形成される氷柱が足を床に繋ぎとめた。
(しまった! 数で攻めるだけじゃないのか!? 真意はうにっ子によるチームワーク!)
「うにあぁ――――――――ッ!!!!」
 うに魔女は渾身を振り絞って、激しく燃え盛る賢者のうにを投げつけた。火炎の渦を引き連れながら、クロアを飲み込もうと迫る。
「く、ならばー!!」
 勢いよくロケットの噴出を強め、氷を強引に打ち砕いて飛び上がる。
「ぐあ……ッ!」
 何かが引き剥がされるような嫌な音が聞こえ、クロアは激痛に呻く。
 そのまま燃え盛る賢者のうには過ぎ去り、本棚を巻き込んで炭に散らす。壁を撃ち貫き、爆炎が広範囲に広がる。
 轟音と共にイリスのアトリエを揺らし、熱風が吹き付ける。
 そしてその外側にも灼熱地獄が広がり、イリスのアトリエを擁するアバンベリー遺跡は火の山と化す。
「風のうにっ子"うにふーま"いっけー!!」
 白髪のうにっ子を次々と投げつける。
 投げられたうにっ子は髪の毛をプロペラのように回転させながら、方向転換を繰り返してクロアを追跡。
(く……、足の傷がかなり酷い。しかも強引に破ったから皮膚が剥がれて足がズダズダだ)
 激痛に呻きながらも、飛び交ううにっ子の猛追をかわしていく。
 ルカは苦い顔を浮かべる。
(酷い……。下半身が血塗れになってそう。本当なら詩魔法で治癒に回りたい所だけど)
 大会なのでレーヴァティルの支援はできない。何にも出来ない事に歯痒く思えた。
 ココナは焦らされそうな思いで立ち上がる。
「クロアは必ず勝つわ!」
 クローシェの励ましにルカは頷く。互いの手が組み合い、力む。
「そうだよー! クロアは何度も激戦を潜り抜けたんだからー、うに魔女なんてぷーのぷぷーだよっ!!」
 ココナは飛び上がり、拳を振り上げる。
 レーヴァティルに見守られながら、クロアは決死の表情で追撃を逃れる。
 うに魔女の頭にはうにっ子の顔が覗いていた。
 マッキーとホワイトサタンだけがそれに気付いていた。
(あれは……まさか!?)
「まだまだ! 更にゲリラ隊の闇うにっ子"だーくまた"迎撃よーい!」
 本棚の隙間から黒髪のうにっ子が次々と上半身を見せ、小さな黒いうにを連発。クロアは見開く。まともに直撃を被り、黒き爆炎が轟く。
 イリスのアトリエにも大規模な火事が浸食。燃え盛る火炎によって部屋中は橙に照らされる。
 散らばった本にも火が移り、更に勢力を伸ばしていた。
「さぁて、これで止めッ!! 氷のうにっ子"めがこーり"いっけー!!」
「うにあっ!」「うにあっ!」
 うに魔女は真上へ指差し、両脇に佇む大きなうにっ子がロケットのように飛び上がる。
 辛うじてかわしたクロアに二体の"めがこーり"が迫る。
 なおも"だーくまた"が攻撃を繰り返し、"うにふーま"は動きを封じようと執拗にクロアへ纏わり付く。
「舐めるなぁ――――――――――!!!!!」
 クロアは激昂と共に絶叫。纏わり付くうにっ子を切り散らし、巻き起こった大暴風がイリスのアトリエの天井を吹き飛ばす。
 それに煽られ、勢い良く火炎は燃え盛った。
 そして、なくなった天井からどんよりした雲が視界に広がる。雨でも振りそうな雰囲気だ。
「う、うにゃーっ!?」「うおわっと! あ、外れちゃったー」
 驚いた"めがこーり"は逸れて、そのまま上空へと飛び上がっていってしまう。
 クロアは余韻から姿を見せ、息を切らす。うに魔女を睨み据える。
 頭の上にうにっ子の顔が備えられている。クロアは怪訝に目を細める。
(いつの間に……。レグリスの言っていたワッカギフトと同等の効力。厄介だな)
「だが、絶対的な能力は存在しない! その驚くべき秘術でも俺の攻撃を完全にかわせる訳ではないぞ」
 クロアは槍を噴出させ、うに魔女めかげて突進。
「そうか、体感時間が長くなっても身体そのものまで速くなるわけじゃないんだ」
 しまったとマッキーは悔しがる。
「そうかな? 彼女は分かっているようだぞ」
 ホワイトサタンの指差しをマッキーは目で追う。その先のうに魔女、その顔は笑んでいた。
 先読みしていたのか、すぐさま地を蹴る。
 うに魔女がいた床へクロアは突っ込む。派手に衝撃波を噴き上げ破片を撒き散らす。
 破片がうに魔女を掠り、付いた傷から血を噴く。しかしその痛みを堪え、見据える。
 すぐさま床の中からクロアが飛び出し、槍の切っ先がうに魔女の顔を目指す。
「これで終わりだ! うに魔女ぉ――――!!」
「不味い、罠だ!!」
 レグリスは焦燥を帯び、立ち上がった。
「にやり、かかったわね! 焦ったのがあなたの致命的よ! 賢者のうにドンパッチ――!!」
 背後から三体のうにっ子が運んできた雷の賢者のうにを、うに魔女は受け取る。クロアは見開く。
「よし、これで勝ったぁ――――――!!」
 稲光を発っする賢者のうにが狙い違わず、投げられようとする。
 そんな折、クロアの眼光が鋭く光る。


あとがき

 この話で思い出したけど、氷の呪縛ってそんなに簡単に破れる代物じゃないんだっけ。
 くり王子とか簡単に破ってたけど、本当は皮膚に凍り付いて無理に破ろうとすると剥がれちゃうんじゃないかなーって。
 それでなくても凍傷も厄介。焼けるように痛いらしいね。

 後付でうに魔女の集中力がかなりの低温の氷を生み出したから、そうなったと言うことでw(マテw

 氷属性のアイテム系
 レヘルン      うにレヘルンorうにこーり
 ラングレヘルン   ラングうにレヘルンorめがこーり
 ダースレヘルン   未取得
 シャインレヘルン  未取得

 ドラクエで例えるとヒャダルコまで使えるって事なのかぁーw マヒャド覚えられるかな?(笑


312話 「母の貫禄?ヴィーゼ」 2009,7,8
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


「さぁー、ついに二回戦開始だぁー!! まず一戦目は優勝候補のライナー対、クロアの隊長レグリス――!!」
 歓声に包まれながら、闘技場にライナーとレグリスが歩み寄る。
 前の試合で触発されたのか、二人とも戦意が漲っていた。

 大歓声が響く最中、デルサスは廊下を歩いていると二人の女性が寄り添いながら歩いているのを見かける。
「あれは……」
 フィーに肩を貸してもらいながら、ひょこひょこ歩くうに魔女。
 そしてその前に立ちはだかる一人の女性。
「ヴィーゼか」
 フィーの言葉にうに魔女は見上げる。
 エリーだと思って見開いたが、別人だと悟ると落ち着く。
 栗色のショート。橙の錬金術士の服装。地味目だが、スカートがふっくらしていて母の様な雰囲気を醸し出していた。
 にっこり微笑む。
「初めまして、うに魔女さん」
 その女性の後ろに黒髪の少女が顔を覗かせていた。視線が合うと隠れてしまう。
「あ、私はヴィーゼです。そして後の子はイリスです。よろしくね。……ほら挨拶しないと」
「心配するな、うに魔女は悪い奴ではない」
 フィーとヴィーゼに促され、イリスはモジモジとしながらもぺこりと挨拶する。
「うにw よろしくねーw」
 微笑みかける。イリスは気恥ずかしそうに赤らめた。
「次の試合……、フェルトと対戦する事になるので治療したいと思ってきました。ちょっと控室まで来てもらえますか?」
「私からもお願いする。治療を受けて欲しい」
 フィーに頼まれ、うに魔女は頷く。
「あ、うん……」
 三人の会話に、物陰に隠れながらデルサスは顔を青くする。
(え、マジかよ!? あのうに魔女を回復させるつもりか。ちと悪いが厄介だ)
 コソコソするように忍び足差し足でこの場を去り、彼はある場所へと目指していった。


 無機質漂う、機械音が響いてくる薄気味の悪い薄暗い地下道みたいな場所で激闘が繰り広げられていた。
「うおおおおお!!!」
 壁や天井を打ち砕きながら重戦車のように巨躯を生かして突撃をかますレグリス。それに対するライナーも大剣で何とか凌いでいた。
 回転する盾と大剣がぶつかり合い、火花を散らす。振動音が身体を貫き、両者共に呻く。
「ぬううおおっ!!」
 レグリスは咆哮を上げる。全体重を加速による加重で増した威力がライナーを弾き飛ばす。
 壁を何枚も突き抜け、鉄網に身を埋めさせた。
「がッ!」
 なおもレグリスは容赦なく押し潰そうと突進をかます。
「……気付いているようね。あの連中も例の残党のコトを」
 アイゼルは呟く。
 不自然なほど勝負を急ぐような展開だった。初っ端から全力でぶつかりにかかっている。
 普通は各々の手を探る為に様子見から繋げて、自分のスタイルで戦い始めるのが多い。
 ライナーは剣を振りかざしていた。収束される威圧にレグリスは険しい顔を見せる。
「一気に決めてやるぜ! インパルス・バスターワンキル!!」
 突如の震撼。天を衝くほどの火柱。
 地下道も嵐によって吹き荒れ、破砕された破片が飛び交う。
「が……あああぁぁぁァッ!!」
 まともに受け、衝撃波がレグリスの鎧を突き抜けていく。苦悶に悲鳴が上がる。
「まッ負ける……ものかァァッ!!」
 隊長としての意地か、憤怒の表情で火柱を抜け出し、ライナーの懐にショルダータックルをかます。
 突然の急襲にライナーも見開き、苦痛に呻きを上げた。
「ぐがぁぁ!!」
 そのまま壁に激突、尚も押し潰さんとレグリスは全体重を圧し掛かっていく。


 上着を脱ぎ、下着だけのうに魔女はヴィーゼに背中を見せていた。彼女はくまなく身体を観察する。
 フィーは壁に背中を預け、しばし沈黙。イリスはじっとヴィーゼとうに魔女の様子を眺める。
「いっ、いたたー!」
 肩を揉まれ、呻きを上げた。
「ほら、無理してる」
 呆れたようにヴィーゼは一息。取り出した薬を掌に濡らし、素肌に塗って行く。
「男と女とでは身体も精神も全く違うんだからね。男は恵まれた体格と筋肉を供えてあるから多少の無茶も耐え切れるけど、女はどんなに鍛えても元の身体は変えようがないよ。
 さっき調べてみて分かったけど、小さな損傷が随分積み重なっている。
 ホムンクルスの生命体とは言え、テチャックとの戦いで無茶しすぎ。その調子だと本体のアリスさんの身体も心配です」
 うに魔女は的確な指摘に項垂れる。まるで長年の付き合いで見透かされているかのようだ。
「……なんか凄いね。まるで―」
「この大会中で大爆裂技はもう使わないで、特に接戦はダメ。身体を酷使しすぎるのよ。どんな効く薬でも積み重なる損傷は治し切れないからね。それに―」
(関節が特に痛んでいる。何度も炎症を起こしているから……。このままだと……)
「それに?」
「あなたも立派な女性なんですから、もう少し意識して欲しいの」
 母に諭されるような、厳しくも暖かい言葉だった。
 うに魔女は思わず笑顔を見せる。
(そういえばクリスタもアイゼルも同じ様なこと言ってたっけ)
 なんだか暖かいものが滲み込んで来るような感覚。癒されるような気がした。
「うに魔女! どうだ?」
 急に扉を開き、ホワイトサタンが姿を現す。
 よく見ればうに魔女は半裸。恥部は下着で覆われているものの、殿方に見せるにはよろしくない。
「エッチ――! 出てって!!」
 物を投げつけられ、ホワイトサタンはワケも分からずに追い出されてしまう。
 その様子にマッキーは苦笑い。
「デリカシーないなぁ。ってか意外と純情だったりしてね」


 どよめく観戦客。瓦礫が散乱とする地下道。いくつかのクレーターが重なっている所でレグリスは倒れていた。
 息を切らすライナー。彼自身も手傷を負っていた。
「……流石に強敵だったぜ。経験豊富なだけにやりづらかった。でも歳だな」
 ヒヤヒヤしたと、顎の汗を手首で拭う。
「激闘の激闘の末にライナーの辛勝ォォ――――――!!!」
 そして二回戦の二戦目はくり王子の不戦勝で繰り上がっていく。何故ならうに姫とココナが引き分けた為、共に脱落していたからだ。

 驚きの歓声に包まれるコロシアム。
 物陰で潜んでいたデルサスは笑みを浮かべた。しかも何故かアリスも笑みを浮かべ、アイゼルは不審に眉を顰めた。
「え!? 何々?」
 ようやく治療を終え、観戦席に上がってきていたうに魔女は戸惑う。
 トーナメント欄を見て、観戦客の驚きの原因が分かった。
「なんですって―!! フェルト対デルサス!? そして……うに魔女はクロア!?」
 クローシェは立ち上がった。
「嘘? だって、マレッタに勝ったクロアとマッキーに勝ったデルサスが対戦するはずなんでしょ!? 見間違いするはずがないのに……」
 ルカも戸惑い気味に表情を曇らす。
 クロアは皮肉るように自嘲。
(……対戦したくない相手に摩り替わるなんてな)

「デルサス!」
 廊下でマレッタに呼び止められ、デルサスは肩を竦ませた。
「へ、へぇ……? な、なんでしょうか?」
 嘘がバレバレだとでも言うように何処かぎこちなかった。マレッタは一息つく。
「まさか、お前がそんなにフェルトと対戦したいとは思わなかった。見直したぞ」
「へ?」
 快く笑うマレッタにデルサスは間の抜けた声を出してしまう。
「どこまで善戦できるのか分からんが、頑張れ!」
 呆然とするデルサスの背中をポンと叩きマレッタは去ってしまう。
「頑張るにゃー!! 勝てないかもしれないけど、そうまでして戦いたかったにゃから応援するにゃ!!」
「は、はは……、お前俺の強さ見くびってるなー!」
(なんだか反応がおかしいな。だがフェルトには悪いが、圧勝で観戦客を驚かせてやるぜ!)

「審議の結果。そのままトーナメント通りに進む事になったぜ! デルサスとフェルトの対戦だ――!!」
 マイクを手に拳を突き上げるダグラス。ノリノリで意気高揚していた。
「いってらっしゃい」
 ヴィーゼとイリスに手を振られながら、闘技場へ向かうフェルト。
(……よーし、オレも負けてられない。全力を出すぞ!!)
 戦意を漲らせ、表情を引き締めた。眼光が光る。
 そして試合は始まり、観戦客は賑わう。その瞬間、今日一番の轟音が響き渡った。
 唖然とうに魔女たちは闘技場に食い入っていた。
 隕石が落ちたかのような巨大なクレーター。煙幕が漂う。その中心にデルサスがボロボロの状態で倒されていた。
「なに!? 今のは……まるで剣が巨大化したような気が……」
 脳裏で先ほどの試合の様子が巻戻される。
 先制攻撃とばかりに果敢とボウガンを向けるデルサス。それを一蹴するように、フェルトの気迫と共に剣が巨大化して神速の薙ぎ払い。
 一閃、二閃、三閃と華麗に軌跡が踊り、デルサスは完膚なきにまで打ちのめされた。
 あっという間の決着だった。
 流石のライナーもクロアも足が震えてしまう。緊張で汗が噴く。見ぬ強敵が頭角を現してきたのだ。
 既に実力を見抜いていたとは言え、予想以上の強さを見せ付けられて武者震いした。
(話が違うじゃねーかよ。バカヤロ……)
 打ちのめされたデルサスは悲観に暮れる。マレッタは「やはりか」と溜息をついた。

「さぁ、気を取り直して次行ってみよー! うに魔女とクロアの対戦だ! 再びの激闘を見れるのかー!!?」
 闘技場でうに魔女とクロアの真剣な表情が合う。
「……なんでこうなったんだろうな。でも俺はもう手加減しないと決めた。お互い全力を尽くそう」
 落ち着いた物腰のクロア、しかし目の奥に燃え上がる炎が見えた気がした。
(ライナーは強かったけど、クロアも相当強いわ。多分接近戦で勝ち目はない……。フィーに対して使ってた戦法も通じないかも)
 咎めるヴィーゼが脳裏に浮かぶ。
 無理に笑顔を作ったのか、うに魔女の不自然な笑みにクロアは思わず怯む。
「おーっほほほ、それならば充分に相手して差し上げましょうー!!」
 急にわざとらしい女性の振る舞いを見せ、クロアは困惑し観戦客は騒然とした。
(そういう意味で言った訳じゃないのに)
 ヴィーゼは思わず苦笑い。
「うん、えらい。女性らしくおしとやかにするのよー」
 腕を組んで頷くイリス。ませているようだ。


あとがき

 実はうに魔女の損傷について、前にもありました。クリスタで起きた事だけどね。
 以前の歴史で関節が痛み、錬金大戦で戦前離脱を余儀なくされた。でも無理しちゃって闇ロヒとの戦いで戦死。
 またそれが再現されてしまうのか!?

 二回戦

 ○ライナー
 ×レグリス

 ○くり王子

  クロア
  デルサス

  フェルト
  うに魔女
 ↓
 ○フェルト
 ×デルサス

 ? クロア
 ? うに魔女

 デルサスが不正行為してトーナメントの対戦カードを組み替えた。
 しかし今まで本気を出していなかったフェルトの実力を見誤ったデルサスはその報いを……(汗
 果たしてうに魔女はクロアを相手に勝てるのか!?

ノルン 75→120→4730
デルサス 85→96→3700
マレッタ 96→113→5320
マッキー 143→567→760


311話 「うに魔女への憎悪と友好」 2009,7,7
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


 賑わっている天覧武術大会。コロシアム会場は観戦客の歓声で明るい雰囲気に包まれている。

 しかし、それとは対照的に暗く沈んでいくような不気味な闇が忍び寄っていた。
 その闇の中でテチャックの妻であるキムカネが佇む。
 不安そうに辺りの闇を見渡す。
(ここはどこだわ? 夢でも見ているって言うだわ?)
「……お願いだ、我が妻よ」
 小さい黒い生き物が大群で蠢くような居心地の悪い闇。その中から声が聞こえてきた。
「あ、あなたなのね。あなたなのねっ!」
 キムカネは聞き慣れた声に綻ぶ。
 闇の中から覗く猫の目。その美しい双眸に思わず魅入られて硬直。
「アリスに復讐をしてくれ……。うああ……切り裂かれたこの身が焼かれるように痛くてたまらねぇ……」
 猫の目を持つテチャックが上半身を乗り出し、手を伸ばして救いを求める。
 血塗れ。肩から腰にまで斜めに切り裂かれた深い傷。悲痛を誘うような苦痛に歪んだ顔。
 苦しい呻きにキムカネは思わず胸が締め付けられる。
「あ……あなた……」
 恐る恐る夫の手を掴もうと、震える手を伸ばす。
「うああ……! 助けてくれ……」
 闇の大群はテチャックの身体に群がり、引きずり込もうとする。思わずキムカネは精一杯手を伸ばした。
 だが、虚しく空を斬る。闇はテチャックの体を吸い込んでしまっていた。顔だけが覗く。
「私に……代わって復讐……してくれ……! 頼む……」
 消え入るような切実な声。キムカネは心音が高鳴る。
 そのまま闇の中に顔も埋もれていく。
 最愛の夫が地獄で永劫の苦しみを味わっていると衝撃を受け、心が痛む。胸が締め付けられるように苦しい。
 そしてドス黒い感情が徐々に彼女の心を覆い尽くしていく。
「うああああああ!!! あなた、あなたっ、あなたぁ――――――!!」
 慟哭しながら何度も何度も掻き毟るように闇の大群を掘り返していく。しかし行けども行けどもテチャックの姿は見えない。
 深く深く潜り込んでいるのだろう、死ぬよりも辛い苦痛で身を刻まれているのかもしれない、嫌なイメージだけがこびり付いてキムカネは震えだした。
 涙を流しながら、途方に暮れる。やがて嘲笑うアリスが脳裏に浮かぶ。
 悪寒は憎悪へ、恐怖は憤怒へ、悲痛は怨恨へ、最愛のテチャックへの想いは、仇であるアリスを呪う想いへと変わる。
(……最愛の夫に代わって、必ずあの悪魔に天罰を下してやるだわ……!!)
 アリスを惨たらしく殺せば、最愛の夫は救われるとキムカネはそう思い込み、強い殺意が沸き上がる。
「アリス……、アリスゥ……、アリスゥゥゥゥッ!!!!」
 ラボの中で蹲っていたファビオンゴーレムは双眸を光らせ、怒号とも言える咆哮を上げ始めた!!
 立ち上がると共に、ゴーレムを固定していた格子をぶち破っていく。
「アリスゥゥゥゥ――――――――ッ!!!!」
 逃げ惑う作業員。驚き戸惑う博士。なおもゴーレムは腕を振り回し、壁を打ち砕く。
「う、動き出しましたねん!!」
「何ッ!?」
 想定外の事態が起き、マサヒらは動揺に駆られる。
「そして、既にキムカネ様を融合させていますねん――」
 その事実にマサヒは絶句。
「一体誰が!? それともキムカネ母様は融合方法を知っていて……?」
「融合させるには我々博士が同調信号を送りながら時間をかけて溶け込ませるようにしないと出来ないねん。単体ではまず不可能ですねん」
「バカな! 我々の中に裏切り者がいるとでも――!?」
 そして突如、爆音と共に爆発球が数人の鬼蛸族を吹き飛ばす。
「ぎゃあ!」「ぐああああ!!」「ぐはぁ!!」
「アリスゥゥゥゥゥッ!!」
 凄まじい憎しみが支配し、怒りのままにゴーレムは狂ったように咆哮を上げた。
 連鎖する爆発球が重なり、全てを吹き飛ばしていく。そしてそれは噴火のように雲の大地から噴き上げた。
 その余波が振動として伝わり、雲の大地に広がっていった。

 噴き上げる噴火を丘の上から眺めるブラックキャット。猫の目の双眸が笑みに歪んだ。
「ふふ、精神が不安定な人ほど洗脳させやすいものはいないわねー」
 高みの見物とでも言うように嘲る。


 お互いは異世界同士の住人。知らぬ間柄。しかし創世界で巡り合った縁。
 天覧武術大会で二人は対峙し、一進一退の攻防を繰り広げた仲。
 うに魔女とフィーは二回戦行きの切符をかけて最後の勝負を仕掛けようとしていた。
「いくわよ! これが私の賭けの攻撃――!!」
 うにメイスを両手に、腕を交差し、裂帛の気合を放つ。威圧が吹き荒れ、辺りを震わす。
「アヴァター・アインツェルカンプで全てを迎撃してやろう!! 来い!!」
 赤い火柱が噴き上げつつ、フィーは両手の鎌を踊らす。
 全てが震え、岩飛礫が舞っていく最中、観戦客は固唾を呑む。
「全てを打ち砕け――ッ!! 大崩壊ミラージュうにメイスゥゥ――――!!!」
 その場で高速回転を始め、交差した腕を一気に広げた。発砲音と共にメイスの残像が銃弾のように放たれた。
 散弾銃のように地面を穿ち、柱を打ち砕き、そしてフィーへと目指す。
 フィーも地を蹴った。軽やかな足捌き、目にも映らぬほどの鎌捌き、気迫の勢いの表情。
 火花が散るほどメイスと鎌の連打衝撃が繰り広げられ、その重い衝撃波が大気をも震わせ、橋が全体的に歪んでいく。
「うにああああああああッ!!」
「はあああああああああッ!!」
 気合と気合がぶつかり合う血の滲むほどの激闘。
 うに魔女は回転を繰り返し、メイスの残像を機関銃の様に飛ばし続け、それをフィーが悉く弾き散らしながら突き進んでいく。
 うにメイスも衝撃に耐え切れず、続々と亀裂が走っていく。しかし鎌も同様だった。
 連鎖し続ける衝撃波。ライナーもクロアもフェルトも誰もがうに魔女とフィーの死闘へ釘付けになっていた。
 ヴィーゼの手を握り締めるイリス。
 幼い女の子の為か、目の辺りにした死闘は恐怖にすら映る。
 血生臭く、荒々しい野蛮な雰囲気。誰か死ぬかもしれない危険性を孕む闘争。
 身を震わせ、ヴィーゼに抱きつく。ヴィーゼは優しく抱擁し、暖かい温もりを与える。
「……そうやって懸命に戦っているのよ。その先に誰もが望んだ平和を勝ち取る為にね。私たちがそうだったように……」
 ギュッとヴィーゼはイリスを強く抱きしめた。
(フェルト兄ちゃんも、フィーと共に帝国や最高錬金術士パラケルススとあんな風に戦っていたの? でも、そうしてくれなかったらイリスはパラケルススに殺されていたかも……)
 自分の世界で起きた事を思い返していく。
 自分は気絶していたので目の辺りにしなかったのだが、フェルトとヴィーゼのおかげで命を救われ、そして平和な日常を楽しむ事が出来たのだ。
 どんな風に闘ったのかもイリスは全く知らない。
 フェルトからも「懸命に頑張ったんだ」としか言葉で聞かない。
 更に、うに魔女は独裁者テチャックを討ち滅ぼし創世界を平和に導いた。その平和が来たからこそ、こんな風に異世界人同士で賑わう事が出来た。美味しいものも食べれる。色んな面白いものが買える。独特の文化を目の辺りにした。
 華やかで楽しい思い出を作れた。
 もしテチャックが席巻し続けていたら、こんな楽しい祭は開かれなかっただろう。
 恐る恐る目を開ける。まだ地を揺るがしたままうに魔女とフィーの激突は続いている。
 もはや得物は原型を留めていない。うにメイスは半分が欠け、鎌も切っ先が折れていた。なおも現在進行形で破損が進む。
「ああああああああああああああああッ!!!!!」
 勝負を譲れない意地のぶつかり合い、絶叫するまま攻撃を繰り出し続けていた。
 ついに両者は間合いを縮め、最後の一撃をぶつけ合う。得物が交錯。台風のような衝撃波が大気や地面を伝わって広がる。
 互いの必死の形相が間近に迫っていた。
「ぐぐっ!」「うう!!」
 限界に達し、両者の得物は共に崩れ去っていく。破片が散らばって床に落ちていく。
 そして、フィーの拳がうに魔女の腹を穿っていた。
「ぐあ……★」
 膝を落とし、崩れ落ちるうに魔女。意識が遠のいていく。未だ立ち堪えているフィーは自分の勝利を確信した。
 その様子が勝敗に繋がるのかと、観戦客はどよめく。
「大した奴だ。だが、私の勝ちだ」
 しかしフィーも立つのもやっとな感じか、膝が震えている。
「安心しろ。独裁者の残党はこちらで引き受ける。ゆっくり安息の眠りにつけ」
 うに魔女はフィーの言葉に意識が蘇る。
 元と言えば大革命を誘発させ、テチャックを討ち滅ぼしたのは他ならぬうに魔女が起因。残党はそれを恨んでいる。
 責任はまだ自分にあるとうに魔女は思い起こし、踏ん張って立ち堪えた。
(最後まで彼らの恨みを晴らしてあげなきゃ行けない、だからこそ他人任せには出来ないっッ!)
「う……にああぁッ!!」
 項垂れていた上半身を起こし、フィーの顎へ頭突きをかます。
「っぐ」
 不意を突かれ、彼女はまともに脳震盪を起こし、仰向けで倒れていく。
 これまで続いていた激闘はこの一撃で静まり、煙幕が漂う平穏な空気が広がった。
「うおおおおおお!!! この死闘の勝者はうに魔女に決定だ――――――!!」
 ダグラスの宣言で歓声がどっと沸きあがった。

 戦場となった亜空間は消え行く。そして元通りになっていくコロシアムの闘技場。
 うに魔女はコロシアムの出入り口に視線を送る。
「……出てきて。うにっ子"うにフェニックス"」
 なんと黄金の翼を生やした神官風のうにっ子が抜け出し、軽やかに宙返り。それはゆっくりとフィーの上へと舞い降りる。
 うにっ子は溶け込むように薄れ、光飛礫を撒き散らす。それらはフィーの全身へ染み込んでいく。
 フィーはゆっくりと目を覚ましていく。
「何てこと……、あれは戦闘不能者を復活させると共に回復させると言う、アルテナ系アイテムと同等の効力!? しかも比較的高レベルの……」
「なんだって!?」
 驚くヴィーゼの説明にフェルトも声を上げた。
「……うん、あれ"アルテナの祝福"と同じ効力だった」
 イリスは呟きながら頷く。
「じゃ、試合開始前から練成をして待機をさせていたって事は……」
「はは、始めっからそのつもりだったんだな。うに魔女か。なんだかワクワクしてきたぞ」
 フェルトは快く笑う。

 うに魔女は意識が朦朧し、膝をついた。荒い息が止まらぬ疲労困憊。いつ倒れてもおかしくない状態だ。
 起き上がったフィーは悲しそうな顔をする。
「ばかもの。だから言ったではないか。自分の体を考えろと――」
 フェルトはヴィーゼを見やる。ヴィーゼはその視線に気付く。
「……そ、その悪いんだけど」
「分かってる。うに魔女って女性を治療してあげてって事でしょ? 二回戦でフェアに試合したいもんね」
 呆れたようにヴィーゼは息をつく。綻ぶフェルト。仲の良い夫婦のように、やがて二人は微笑み合う。
 関心を持ったのか、イリスは不思議そうにうに魔女をじっと眺めていた。


あとがき

 これでイリス2キャラとの繋がりが繋がり始めたネw
 しかしキムカネの暴走はブラックキャットが一役を買っていたようです。仇を利用した幻惑術。厄介だね。

 アルテナの水  (復活&小回復)  うにプリースト
 アルテナの傷薬 (復活&中回復)  うにユニコーン
 アルテナの祝福 (復活&大回復)  うにフェニックス
 アルテナの導き (復活&完全回復) ???(まだ会得していない様子)

 ちなみにうにナースはリフュールポットですw

 リフュールポット (小回復) うにナース
 ラングリフュール (中回復) うにドクター
 リフュールリヒト (大回復) うにエンジェル(多分、未修得)
 リフュールオール (全体・中回復)  うにはまだ未修得
 フルリフュール  (全体・完全回復) うにはまだ未修得

 ああ……、フェルトとヴィーゼのカプには癒されますw(*´д`*)


310話 「試合は死闘へ!?」 2009,7,6
うに魔女のアトリエ
〜創世記〜


「フィーのレベルは6550。ホムンクルスうに魔女は5800。千近くの差があるわぁ」
 アリスはうに魔女とフィーの対峙する場面を眺めながら呟く。
「普通ならフィーに勝てないって事になるけど」
(クラスチェンジは基本能力を十倍ぐらい増幅するけど、実質的なレベル差を埋められない事もある。やっと互角に近づけたという程度で、まだ勝機が見えたとは言い難いわね。まぁ、あくまで計算上での話だけどね)
 アイゼルはアリスを見やる。やはり自信満々と笑っていた。
「……錬金術士たるもの、勝機を創り出せないでやってけないわ。覆せないで終わるなんてお笑い種ねぇ」
 飄々とした口調だが、双眸は真剣そのものの眼差し。全てを見納める気迫が感じられた。
 アイゼルはそれがうに魔女、アリスの恐ろしさ所以と身震いしながら察した。


 ラステルとレプレはワクワクしながら闘技場を見守る。
 ライナーやクロアもある女性へ視線を注ぐ。
 これから闘うであろう強敵。彼女の真の力を少しでも知るべき、目に焼き付けようと視察を怠らない。
(彼女は実質のレベル以上の戦い方をしてくるッ!)
 歓声が沸き上がる最中、選手一同はうに魔女と言う女性の行方を見守った。
「行くわよ! 驚くべき秘術っ!!」
 うにっ子を三体作り出し、虚空を指で魔法陣をなぞっていく。最強の秘術である生命の樹セフィロトだ。
 目を細めたフィーは待たずと足を一歩踏み出す。
「やっぱり妨害しに来るのね……」
 うに魔女の笑みにフィーは当然と無言のままで頷く。
(でしょうね。そのまま指を咥えて待ってくれるようなお人好しの敵はいないし)
 アイゼルは息をつく。
 途端に、突然の大きな地震が大地を揺るがす。
「なっ、なに――これ――!?」
 うに魔女もフィーもコロシアム会場にいる大衆も驚き戸惑う。そして遅れての突風。思わず腕で顔を庇う。
 吹き荒れる先を見つめると眩い滲んだ余韻が地平線から覗かせた。
 アリスとアイゼルの元へ一人のうにっ子が飛び込んでくる。跪き、焦りの表情を見上げる。
「うに大変ですっ!! 異常なレベル数値を確認しましたー! 約28万、なおも増幅していますっ!!」
「なん……ですって……!?」
 アイゼルは見開いて驚く。アリスは自嘲するように笑むが、一筋の汗が垂れる。
(やっぱりこういう報復が来るとはね……。覚悟していたけど、テチャックの残党がそこまでの兵器を隠し持っていたとは。
 未だに窺っている他世界球からの勢力の件もあるのに、これは面倒だわねぇ……)
「そして、距離と速度を算出して計算した結果、ここへ来るまで最低でも二日かかるかと思うにッ!」
 動揺が走る最中、アリスの精神を通じてうに魔女の頭にもそれが伝わる。
(……ちんたらしている暇はないかも)
 切羽詰った表情に切り替わる彼女にフィーは怪訝に目を細める。
「悪いけど大会は早く終わらすわよ! 私が優勝するって結果でね!!」
 焦り気味にうに魔女は大胆にも予告した。観戦客は驚愕。フィーは僅かに険しい表情を見せた。
(なにらかのトラブル――。恐らく革命した時の敵残党の勢力の事を言っているのだろう。経験はある。祭りを見計らって帝国の使者の残党が襲ってきた事があったからな。
 丁度、今がそのタイミングなのだろう。ならば、この勝負は一気にケリをつけるとしよう。気の毒だがうに魔女には眠ってもらう)
 察したフィーは短期決戦に急ぐべき、身構えながら力を溜めた。
 うに魔女は真剣な双眸を見せ、威圧が吹き荒れる。
「今だ! 出会え、出会え〜、曲者じゃ〜〜!! 伏兵大軍うにっ子・うにこーり族!!」
 うに魔女の絶叫と共に、周囲の川の水面が噴水のように噴き、大勢の青色のうにっ子がフィーへ殺到。
 どよめき、絶句する観戦客。
(試合開始と共に、うにっ子を川にリリースし、時間をかけて大量ある水素で増殖させていた!?)
 マッキーは上半身を乗り出すように闘技場へ食い入る。
 フィーは半ば驚いていたが、大体は予想していたとばかりに臨戦体勢へ入る。
「うににっ!」「うにあー!!」「うにうに!」「うにぉー!」「うにゃーん!!」
 一斉に襲い掛かるうにっ子。
「舐めるな! アインツェルカンプ!!!」
 負けじと裂帛の気合と共にフィーは目にも映らぬほどの超神速で周囲へ鎌を振るう。幾重の軌跡が全てのうにっ子を切り刻む。
 破裂するように放射状の衝撃波がうにっ子を四方に散らし、水蒸気爆発の連鎖が轟く。
 爆風が逆にうに魔女へ吹き荒れ、視覚が遮られる
「なっ、なんですって――!!」
 予想以上の速さで蹴散らされた事にうに魔女は絶句。なんとか秘術を完成させようと急いで指を躍らせる。
 その矢先、刹那の一瞬で煙幕の中からフィーが飛び出す。
「シャドウエンド!!」
 稲妻如きの一閃が空間を断ち割る勢いで煌いた!! それは確実にうに魔女の懐に炸裂!!
「ぐはっ★」
 見開き、大量の血が零れる。
「……そして、これで終わりだ。アインツェルカンプ!」
 鬼神が如くの表情のフィー。残像を残しながら身体が踊る。瞬く間にうに魔女の背後に着地。
 容赦なく無数の打撃の衝撃波が吹き荒れ、うに魔女を踊らす。
 血飛沫が舞い、血塗れのまま崩れ落ちるうに魔女。虚しく灯る地面の魔法陣へ倒れた。
「うに魔女ぉ――――ッ!!」
 悲惨な場面にラステルとレプレは口を手で覆う。マッキーは唇を噛み、苦い表情を浮かべる。
「これで一回戦最後の試合はフィーの――」
「何故、立ち上がる!!」
 ダグラスの勝敗宣言を掻き消すようにフィーは叫んだ。観戦客はどよめく。
 なんとうに魔女は立っていた。
 今度は身代わりの影でも、うにっ子身代わりでもない。紛れもなく本人そのもの。なおも血塗れ。
「――あんたは強い。だから身を削ってでも勝たなくちゃ、その先が思いやられるわ」
 覚悟を賭したうに魔女の表情にフィーは見開く。
(……さっさと降参して体力を温存すれば、後の戦いで楽になれると言うのに逃げないと言うのか!)
 本来なら、憂慮すべき事態。しかし何故か心が躍る自分にフィーは戸惑う。
 うに魔女を取り囲む魔法陣。既に完成した模様。見る見る内に三体のうにっ子がうに魔女の頭、両手首へ吸い込まれていく。
 そして新たな生命体が誕生されたのを祝福するように、沸き上がる光の噴水。
「驚くべき秘術完成! うにっ子ブースター×3搭載型・カスタムうに魔女!!」
 前髪の銀髪にうにっ子の顔が覗き、交差された腕の両手首のうに型リストバンドにもうにっ子の顔が覗く。
 異形の彼女の容姿にフィーは言葉を失う、しかしそれも一瞬の事で冷静さを取り戻し、身構える。
「行くぞ!!」
 地を蹴り、フィーは滑るように間合いを縮める。
 それに対し、うに魔女は両手にうにメイスを備え、腕を踊らす。
「再び食らえ! スレイフ王家最大奥義・アインツェルカンプ!!」
 目にも映らぬほどの超高速斬撃。うに魔女はそれを見極め、軽くなった腕がそれを捌ききっていく。
 連続して圧し掛かる衝撃を外側に逸らすように震う事で負担を軽減。
「影読!!!」
 更に猛攻を激しくするフィー。嵐のように吹き荒れる斬撃の余波は次々と周囲の橋を切り刻む。
 しかしうに魔女は歯を食いしばり、ミラージュの残像で手数を増やし、対応しきれない相手の弾幕を完全に防ぎきっていく。
 広範囲に渡って広がった弾幕の衝撃が橋の大半を倒壊させた。
 橋の残っていた部分にうに魔女は着地。
(だが、後ろはがら空き!!)
 フィーは地面を滑りながら彼女の背後に回っていた。最後の一撃必殺の為に鎌に力を込める。そして惰性のままに振るう。
「絶影!!!!」
 しかし後ろを見ずに、うに魔女はうにメイスを背後に振るい、最後の一撃すら確実に受け止めた。
「なに!?」
 スレイフ王家の代々伝わる最終奥義が完全に防がれた事にフィーは驚愕。
 奥義を放った余波か、うに魔女とフィーの全身を衝撃波による振動が突き抜けた。衝撃音と共に床が抉れ、破片が吹っ飛ぶ。
 互いに得物で捌き合い、破裂音が劈く。双方と共に、地面を滑りながら足を踏みしめて踏ん張る。
 うに魔女は荒い息をつきながらも振り向いて笑みを見せる。
「どう? これなら脳の処理速度が追いつけるし、手先も狂わずにピンポイントで動け……」
 言いかけたその時、突然膝をつく。血が床に滴り落ちる。喉を痛く擦るかのように荒い息が止まらない。
 フィーは半ば呆れたような顔を見せ、鼻で息をつく。
「……その驚くべき秘術とやらも数人分の技術と頭脳を持つ故に大きな疲労も来る。それに血を流しすぎだ。自分の体の状態も考えろ」
「あんたこそ……、息をついているじゃない」
 フィーも息を切らす自分に気付く。
(そこまで追い詰められていたと言うのか。うに魔女に)
「お前ほどじゃない。しかし、これでも降参はしないと言うのだな?」
「もちろん、最後まで諦めない限り決して負けないッ!!」
 うに魔女の気迫の表情、真剣な双眸に対してフィーは言葉で諭すのを諦めた。
 しかし内心、こういう芯の強い奴と出会えて嬉しくも思えた。
(――これが独裁者テチャックすら破った英雄か。納得が行く。見た目とは裏腹に鬼気迫るものを内に秘めていようとは!
 しかし、これで心置きなく全力を尽くせる。この大会へ参加した甲斐があったものだ)
「うに魔女よ、恨むな。完膚なきにまで敗北に沈めてやろう」
 気合を込め、地面を穿って赤い火柱が足元から吹き荒れた。
「アヴァター! これは自らの基本能力を数倍加する。マナチェンジのようなものだ」
 フィーを纏うオーラは床に亀裂を走らせるほど激しく噴き上がっていた。地面を揺るがし、岩の破片が舞っていく。
 うに魔女は絶句。更に膨れ上がる彼女の威圧に焦燥を帯びる。
「負けた……」
 マッキーは愕然する。

「……悪く思うな。この状態でのアインツェルカンプの威力は計り知れんッ」
 腰を落とし、腕を交差。鎌の刃が鋭利に煌く。暗殺者のような冷静な表情がうに魔女を鋭く見据える。
「悪く思わないでってのはこちらの台詞」
 血塗れで疲労困憊、満身創痍にも拘らず退く事をしない姿勢。それでも不敵に笑んだ。
「今度は私の賭けの攻撃を――、あんたが受ける番よッ!!」
「何ッ!?」
 うに魔女は腕を交差し、その中心へと収束されていく源素。フィーはそれが大爆裂技だと察する。
 マッキーは恐々と表情を歪めた。
(……二発目!? 一日に一発のみしか放ってはいけないと言う大技。
 自分も使ってみて始めて分かるけど、反動による負担が大きすぎる。今の状態で2発目を放ったら……)
 うに魔女は荒い息が絶えぬままでも、射殺すほどの形相でフィーを見据える。
 震撼に橋は包まれ、川は荒れ狂う波が踊る。固唾を呑んで行方を見守る観戦客。
「行くわよ――ッ!! フィ――ッ!!」
「来い!! 全て凌ぎきってやろう!!」
 互いの気迫と威圧がぶつかり合う!!


あとがき

 なんと賢者のうにが忘れられていますネw 一度も使ってませんー(*^ー^*

 大会はまだ一回戦。決勝までどのくらいかかるんだろうか?
 しかしヤバい事にインフレ気味な敵が頭角を現してきたのだw
 やっぱ勧善懲悪?だとインフレせざるを得ない事は仕方のないことかもネw


309話 「うに魔女vsフィー」 2009,7,5
試しに折りたたみダグを入れてみたw 長い小説を飛ばしたい時に便利w
読みたい時は色違いの文字をクリックw

309話 「うに魔女vsフィー」

308話 「ちょw消化試合w」 2009,7,4
308話 「ちょw消化試合w」

307話 「テチャックの残り香」 2009,7,3
307話 「テチャックの残り香」

しょーもないカップル夜空w 2009,7,2



 まるで日記になってない件w(´д`;
 ともかく、俺の妄想爆発なイラスト丸出しっすネw

 イチャイチャして最後にホテ……いやなんでもないw

二点透視法は基本中の基本だけどw 2009,7,1



 こんなシンプルな建物でも描くのメンドクさw(´д`;